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コロンビアの吟遊詩人〜バジェナートの音楽家たち

2024.12.06

吟遊詩人を、ニュースを歌にして伝えるメディアという機能に注目して定義することができるのであれば、コロンビアで真っ先にあげられるのはバジェナートの音楽家たちであろう。

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バジェナートの起源は、おそらく19世紀初め頃、遅くとも中頃までに、コロンビア東北部、現在の行政区分でいうとラ・グアヒーラ県、セサル県、マグダレナ県東部を、ニュースやゴシップから恋愛沙汰まで、あらゆる題材を歌にしながら放浪していたフグラール(jugular)に見いだすことができる。有力な説明は、こうしたフグラールたちが他の地域で出身を尋ねられて"Soy nato del Valle"(俺はバジェドゥパルの生まれだよ)と答えたことが、そのままジャンル名になったとしている。

フグラールの活動ぶりについて、日本語で読める文献としては、ガブリエル・ガルシア=マルケスのいくつかの小説がある。「百年の孤独」(鼓直(訳)、新潮文庫、2024年、原著は1967年)に登場する道中の村や町で起こった事件を自作の歌にしながら放浪するフランシスコ・エル・オンブレが代表例であり、実在した人物では「生きて、語り伝える」(旦敬介(訳)・新潮社・2009年、原著は2002年)で著名な作曲家・ラファエル・エスカローナや、名曲”Gota Fria”の作者・エミリアーノ・スレータのエピソードが紹介されている。

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マス・メディアの発達とともに−前掲「生きて、語り伝える」が伝える1940年代はコロンビアでラジオが普及し始めた時代であり、エスカローナやエミリアーノ・スレータは歌をニュースにしながら放浪した最後の世代になる−こうしたバジェナートの機能は失われた。現在、その残り香はコンサートやフェスティバルで歌い継がれる曲にのみ残っている。

2017年のフェスティバル。1曲目”El siniestro de Ovejas”は1950年2月1日にスクレ県で発生した30人が犠牲になった交通事故について歌った曲。

“聖人たちも泣き叫んでいるカルロスは、
アラケはどこに行った?
焼き尽くされた者たちの思い出のみが残っている
ここは悲しみでいっぱいだ”

Christian Camilo Peña - Final Rey de Reyes (Festival de la Leyenda Vallenata 2017)

https://youtu.be/IaWAMAeYOs8?si=K2TREIKgY0yLdyRM

歌はアレックス・マンガ(Alex Manga)、アコーディオンはクリスティアン・カミロ・ペーニャ(Christian Camilo Peña)。


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http://elpop.jp/article/191144018.html


posted by eLPop at 17:02 | 山口元一のiAy Hombe!

ベリト・アスプリージャ、シンティア・モンターニョ

2024.02.27

コロンビアの最新ヒットを紹介するコーナー、”Ay,Hombe"です。

1曲目はベリト・アスプリージャ(Verito Asprilla)の“Verito de la Perla"。トゥマコ出身の19歳、地元では既にかなりの人気者だそうで、全国区レベルでも注目を集めつつあります。この曲ではクルラオの大御所・ベフーコ(Bejuco)とタッグを組んでいますが、ヒップホップとパシフィコの伝統音楽って相性いいですよね。2023年11月のリリース。

Verito de la Perla - Verito asprilla feat Bejuco y Cerrero

https://www.youtube.com/watch?v=FSZesVEFSig

おまけ(?)でベフーコ”Batea”。めっちゃかっこいい。

Bejuco - Batea

https://www.youtube.com/watch?v=WcN3LLr8VmQ

2曲目は、これも太平洋岸からシンティア・モンターニョ(Cynthia Montaño)の” Lo Que Me Hace Feliz.”。2012年の”Chontaduro”のヒット以来、たまに新曲のニュースをみかけるぐらいで、お久しぶり感がありますが、2023年6月のこの曲ではカルロス・ビベス(Carlos Vives)とマダガスカルの音楽家ミケア・マダ(Mikea Mada)とのコラボで、パンデミックの最中に再確認した人の絆の大切さを歌っています。

Cynthia Montaño ft. Carlos Vives, Mikea Mada - Lo Que Me Hace Feliz

https://www.youtube.com/watch?v=Xov5IFK7dyk

おまけで彼女の2012年のヒット“Chontaduro”。カリあたりだとよくみかける果物ですが、外観から受ける印象とちがって繊維質で汁気がない芋状の食感です。コロンビアは美味しい果物がたくさんあるので、私はわざわざチョンタドゥーロは食べるかは微妙ですが、興味のある人は現地に行く機会があればご賞味あれ。

Cynthia Montaño - Chontaduro

https://www.youtube.com/watch?v=HzFUoK16BX8

では来月もよろしくね。

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posted by eLPop at 22:35 | 山口元一のiAy Hombe!

eLPop今年のお気に入り!2023年/Pastoor Lopez "El hijo ausente"

2023.12.30


Pastoor Lopez "El hijo ausente"

https://www.youtube.com/watch?v=SnMjpPR6hmc

(編集部注)
パストール・ロペス(ホセ・パストール・ロペス・ピネダ)(1944年ベネズエラ/バルキシメト生まれ1944年6月15日-2019年コロンビア/ククタにて逝去)は、ラスパカニージャ(70年代エネスエラ生まれのダンス音楽。ベネスエラ、コロンビアやペルー海岸地方で流行・発展)、クンビア、パセオ・バジェナート、ポロなどで知られるベネズエラ出身の歌手、作曲家。

エル・インディオ "の愛称で親しまれ、南米ラテン音楽界に大きな影響を与えた。"Golpe con golpe"、"El ausente"、"Traicionera"、"Tienes que regresar"、"La Colegiala"、"Lloró Mi Corazón"、"Las Caleñas"、"Cariñito Sin Mi"、"Triste Navidad"、"Reggaeton Con Otro Tumbao" (with Tony Reggue)などのヒット曲多数。

彼の曲は、特にベネズエラ、コロンビア、エクアドルではクリスマス・シーズンにはおなじみ、よく演奏される。この曲もその一つ。


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posted by eLPop at 19:34 | 山口元一のiAy Hombe!

フアネス、ミゲル・ロペス、エステバン・コペーテ、エディ・マルティネス

2023.10.25

コロンビアの最新ヒットを紹介するコーナー、”Ay,Hombe"です。

今月の1曲目は、最近長年にわたる精神の不調を告白したフアネス(Juanes)の"Canción Desaparecida".

僕が初めてフアネスを知ったのは1997年、まだ彼がEkhymosisというロックバンドにいた頃です。"La Tierra"という彼らの曲が当時内戦中だったコロンビアでRCNのニュース番組のキャンペーン"Colombia merece vivir en Paz"のテーマソングに選ばれていた関係で、朝昼晩とニュースの度に聞いて、これいいね!となりました。その後あれよあれよと世界的なスターになっていったわけですが、もともとオタク気質で繊細な精神の持ち主っぽいですからね。会ったことないですけど。きらびやかな世界は相当プレッシャー会ったんじゃないでしょうか。この数年、ぶっちゃけイマイチな感じだったんですが、2023年5月に発売された最新アルバム"Vida Cotidiana"、これは久々の傑作じゃないでしょうか。

このシングルは2016年に和平合意が成立するまでにコロンビアで生じた多くの強制失踪者について歌っています。

Juanes - Canción Desaparecida feat. Mabiland

https://www.youtube.com/watch?v=Nxw9qkuE6gA

同アルバムからもう一曲。"La Versión En Mi Cabeza"
Juanes - La Versión En Mi Cabeza

https://www.youtube.com/watch?v=PAiOSWb2wMc


2曲目(3曲目?)は訃報です。
バジェナートを代表するアコーディオン奏者・ミゲル・ロペス(Miguel López)が9月12日に亡くなりました。

Falleció Miguel López, el quinto rey de la Leyenda Vallenata
12 de septiembre de 2023 - 08:02 a. m.

スクリーンショット 2023-10-15 142131.png
https://www.elespectador.com/entretenimiento/musica/fallecio-miguel-lopez-el-quinto-rey-de-la-leyenda-vallenata/

ロス・エルマノス・ロペス(Los Hermanos Lopez)、"La Vieja Gabriela" 1972年の作品です。
歌はホルヘ・オニャーテ(Jorge Oñate)、アコーディオンがミゲル、カハが弟のパブロ・ロペス(Pablo López)、ベースが当時19歳のケバス(Quévaz)ことホセ・バスケス(José Vásquez)。オニャーテが2021年に、ケバスが2022年に亡くなり、2023年にはミゲルも。私の大好きなバジェナートは死に絶えつつあります。

La Vieja Gabriela

https://www.youtube.com/watch?v=8i6RTy5D-OU


次いでエステバン・コペーテと彼のキンテート・パシフィコ(Esteban Copete y su Kinteto Pacífico)の"Bella Noche"

エステバンは太平洋岸地方の伝説的な音楽家で地域最大の音楽フェスティバルにその名が冠されているペトロニオ・アルバレス(Petronio Álvarez)のお孫さんです。おしゃれ系パシフィコですね。

Esteban Copete y su Kinteto Pacífico - Bella Noche

https://www.youtube.com/watch?v=aHUiZAlj7rA

最後はあのエディ・マルティネス(Edy Martínez)の"Indestructible"。あのって誰よ?なんて言わないで。コロンビア生まれで60年代にNYに移住し、レイ・バレート(Ray Barreto)やモンゴ・サンタマリア(Mongo Santamaría)、ティピカ73(Típica73)などサルサ絶頂期に多くの楽団で活躍した伝説のピアニストです。レイ・バレートの名曲が御年81歳、レジェンドのリメイクでヒット中です。歌はユリ・ブエナベントゥーラ(Yuri Buenaventura)。

INDESTRUCTIBLE - Edy Martínez. Feat. Yuri Buenaventura

https://www.youtube.com/watch?v=92sS3BffmYs


では来月もよろしくね。



posted by eLPop at 17:09 | 山口元一のiAy Hombe!

サルサングルーブ、シャキーラ

2023.08.03

コロンビアの最新ヒットを紹介するコーナー、”Ay,Hombe"です。

今月の1曲目は ボゴタを拠点とするおしゃれ系サルサバンド、歌手のパブロ"ワトゥーシ"マルティネス(Pablo “Watusi” Martínez)率いる サルサングルーブ(Salsangroove)の新曲"Me enciendes tú"。2023年7月の発表です。

Salsangroove - Me enciendes tú

https://www.youtube.com/watch?v=dLgeGlkaaW8

おまけ。グラミー・ラティーノのトロピカル部門にノミネートされた2016年のデビュー・アルバム"Salsangroove"から"Mujer Divina"、ジョー・クーバ(Joe Cuba)の名曲のカバーです。

Salsangroove - Mujer Divina

https://www.youtube.com/watch?v=LVF6IKrd3Fo


2曲目はシャキーラ(Shakira)の新曲"Acróstico"
Pies Descalzos (1995年)やDónde Están los Ladrones?(1998年)の頃までは聴いていたんですが、その頃のテイストで。

youtubeの再生回数が、これまで紹介した全曲をあわせたものを100倍しても足りないぐらいに達しています。さすが世界の人気者は違いますな。

Shakira - Acróstico

https://www.youtube.com/watch?v=PWmJhh_qTSY


では来月もよろしくね。

posted by eLPop at 14:03 | 山口元一のiAy Hombe!