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アルモドバルの映画と音楽(4)

2014.03.13

第4日目の3/13の曲と映画です。
1.「Resistiré」Dúo Dinámico
映画「!Átame!  (邦題:アタメ/私を縛って!)」(1990)から
アルモドバルの映画の重要なミューズのひとり、ビクトリア・アブリルと今ではすっかりハリウッド・スターのアントニオ・バンデラスが限りなく変態な状況で展開する純愛物語。ポルノ女優を誘拐監禁する孤独な青年と次第に心が動かされていく女優。誘拐も監禁も立派な犯罪ですが、見終わった後には幸福感に包まれるのです。
曲は1960年代に大人気だったボーカル・デュオの、ドゥオ・ディナミコの「レシステレ」。ドゥオ・ディナミコは1958年にマヌエルとラモンの二人がバルセロナで結成しました。スペインのポップ・ロックの先駆者である彼等は曲作りも巧みで、録音されたのは300曲あまりですが、800曲は作ったと言われています。この映画で取り上げられたことによって、再び大注目されました。2011年には活動50周年を祝うアルバムが、フリオ・イグレシアス、ジョアン・マヌエル・セラートら豪華ゲストを招き制作されプラチナ・ディスクに輝きました。

2.「Puro teatro」La Lupe
映画「Mujeres al borde de un ataque de nervios(邦題:神経衰弱ぎりぎりの女たち)」(1988)から
ひとりの男を巡って入り乱れる人間関係。疑心暗鬼になってキレる寸前の女たちのブラック・コメディ。前作の「欲望の法則」から出演している、ロシー・デ・パルマの存在感が際立っています。一度見たら絶対に忘れない容貌の彼女はアルモドバル・ガールズの中でも特異な存在で、ジャン・ポール・ゴルチェのモデルを務めたこともあります。
曲は「ラテン・ソウルの女王」ことラ・ルーペのボレロ「プーロ・テアトロ」です。ラ・ルーペはキューバの古都サンティアゴ・デ・クーバの出身で革命前後にハバナのナイトクラブで人気者となり、その後米国に亡命。ニューヨークでモンゴ・サンタマリアに見いだされ歌手活動を再開し、ティト・プエンテとの共演等で成功を収め、マディソン・スクエア・ガーデンでコンサートをした最初のラテン・シンガーになりました。

3.「Soy infeliz」Lola Beltran
映画「Mujeres al borde de un ataque de nervios(邦題:神経衰弱ぎりぎりの女たち)」(1988)から
「ソイ・インフェリス(私は不幸)」を歌うのはLola la Grande(偉大なローラ)、メキシコのランチェーラ歌手で女優のローラ・ベルトランです。多くの映画に出演し歌う女優として大活躍し、テレビの音楽番組の司会も務めました。「もう愛されていないから不幸だわ」と歌っていますが、ランチェーラののんびりした雰囲気で、あまり深刻な状況ではないように聞こえます。

4.「Encadenados」Lucho Gatica
映画「Entre tinieblas(邦題:バチ当たり修道院の最後)」(1983)から
およそ敬虔なカトリック教徒とは思えない尼さんたちが出てくるはちゃめちゃな映画。尼さん達の名前が「堕落」や「毒蛇」などというところもふざけているが、単に変なブラック・コメディという感想では片付けられないものがあります。やはりアルモドバルはLa Movidaから出た人ですから、皮肉な比喩がふんだんに盛り込まれていエーエムス。
多くの歌手に歌われているボレロの名曲「エンカデナドス」を歌うのは、チリ出身でメキシコ、米国で活躍しているルーチョ・ガティカ。トリオ・ロス・ドゥエンデスなどのバージョンに比べてねっちりとこってりと歌います。
posted by eLPop at 18:40 | 高橋めぐみのSOY PECADORA

アルモドバルの映画と音楽(3)

2014.03.12

今週(3/10〜3/14)は、radiko.jpで全国どこからでも聞ける「RN2」の15:20〜(再放送は22:20〜)の20分間に出演します。
ボラーニョの方は少しお休みして連動した記事をアップします。

第3日目の3/12の曲と映画です。
1.「Un año de amor」Luz Casal
映画「Tacones lejanos(邦題:ハイヒール)」(1991)から
映画は、母娘の愛憎物語。あることがきっかけで娘を置いて出ていった歌手の母親。その母親の昔の彼氏と結婚している娘。そこへ15年ぶりに凱旋帰国する母。アルモドバル映画の中では暗めのお話ですが、挿入歌の良さは際立っています。そして、ここでもお馴染み(?)の「継父は殺される」パターンは踏襲されています。
曲はイタリアの人気歌手ミーナが1964年に歌って大ヒットした曲ですが、元はフランスのニーノ・フェレールのシャンソンです。オリジナルよりもミーナの方が断然売れてしまったために多くの人は彼女のバージョンをカバーしています。日本でも越路吹雪らが日本語に訳した歌詞で歌い、録音も残っています。映画の中で歌っているのはスペインの女性歌手のルス。彼女は70年代後半から世界的に活躍するロック歌手で、そのアルバムは累計で500万枚以上売れています。そんな彼女が歌う「Un año de amor(愛の1年)」は、私の心に深く刺さりました。映画の内容よりも曲のインパクトが強すぎて、忘れられなかったのです。歌われるのも怪しげなクラブで女装したミゲル・ボセーが口パク当てぶりで踊るいうシーンなので、よりいっそう印象に残りました。スモーキーで暖かみのあるルスの声と、去っていく恋人への恨み節という歌詞がぴったりで素晴らしいとしか言いようがありません。

2.「Piensa en mi」Luz Casal
映画「Tacones lejanos(邦題:ハイヒール)」(1991)から
この曲は「メキシコで成功した歌手」という設定の母親が歌うシーンで使われます。ご存じメキシコの大作曲家、歌手のアグスティン・ララの作品です。「あなたが辛い時には私のことを思って」という歌詞が、絞り出すようにエモーショナルに歌われます。ララが歌うオリジナル・バージョンはもう少しのどかな感じで悲壮感はありませんが、それはそれで違った切なさがあります。

3.「Un año de amor」岸のりこ
ルスが歌う「Un año de amor」が心の歌となった私は昨年(2013)ある女性歌手のアルバムをプロデュースする決心をしました。その名は岸のりこ。彼女はジャズやポップス歌っていたときにサルサと運命的に出会い、90年代にカリブ・中南米で歌手活動をしたのち、2000年に帰国、DIVA NORIKOとしてもサルサ、ラテンの歌手としてのキャリアを築きました。日本ラテン・ビッグ・バンドの父、故・見砂直照氏に見いだされた彼女は、東京キューバンボーイズのゲスト歌手としても活躍しています。
しかし、その実力は並大抵のものではないもかかわらず、アルバムは若き日にベネズエラのSONY MUSICから出した「NORIKO」が1枚あるきりでした。どうしてもこの人のアルバムが作りたい、それも所謂サルサではなく所謂ボレロでもなく、ラテンの名曲をオリジナルなテイストで、という妄執(まさにオブセシオン)にとりつかれた結果、11月に「恋の12の料理法」というアルバムが完成しました。もちろん、アルバム制作のきっかけとなった「Un año de amor」も入っています。とても特別なアレンジで。
ぜひ、ルスのバージョンと聞き比べてください。
posted by eLPop at 11:51 | 高橋めぐみのSOY PECADORA

ペドロ・アルモドバルの映画と音楽(2)

2014.03.11

今週(3/10〜3/14)は、radiko.jpで全国どこからでも聞ける「RN2」の15:20〜(再放送は22:20〜)の20分間に出演します。
ボラーニョの方は少しお休みして連動した記事をアップします。

すでに訂正しましたが、1日目の3曲目「Ne me quitte pas」の歌手をマイシャと発音しましたが、マイーザの間違いでした。「サンバ・カンソンの女王」「ブラジルのビリー・ホリディ」と讃えられるあのマイーザです。大変失礼いたしました。

さて、反省をしたところで、第2日目の3/11の曲と映画です。
1.「Volver」Estrella Morente
映画「Volver (邦題:ボルベール)」(2006)から
ハリウッドで大活躍し日本でもよく知られたスペイン人女優、ペネロペ・クルス主演の「ボルベール」は、アルモドバルお得意の喜悲劇。インモラルな状況から悲劇が起き、しかし、「女はたくましく生きる」という物語。6人の女のそれぞれの人生模様と、母娘という、実は父と息子よりもこじれると難しいかも知れない人間関係が描かれます。1日目に紹介した1984年の作品「¿Qué he hecho yo para merecer esto?」の中に出てくるエピソードがこの映画でもひとつの重要なポイントになっています。
曲はカルロス・ガルデルのタンゴ−カンシオンの名曲「ボルベール」。歌われるのは、主人公が母に思いを伝えるためにパーティで思い切って歌うという、まさに歌がメインのシーン。実際に歌っているのは現代フラメンコ界を代表するカンタオーラ(フラメンコの女性歌手)、エストレージャ・モレンテ。後述するエンリケ・モレンテを父に、バイラオーラ(フラメンコ・ダンサー)のアウロラ・カルボネルを母に持つ彼女は、20歳でCDデビューしました。そんな血筋の良さだけではない素晴らしい歌唱力の持ち主且つたいへんな美女。巧みな歌い回しで、力強さの中に繊細さを秘めた主人公の心情にぴったりの「Volver」を聞かせます。彼女の歌声は映画との相性も良く、1999年にヒットした映画「Sobreviviré(日本未公開)」やフェルナンド・トゥルエバ監督の「Chico y Rita(邦題:チコとリタ)」でも取り上げられています。
番組中でもしゃべりましたが、彼女がまだ19歳だった1999年、フランスからスペインに向かう飛行機が同じ便で、ゲートから機内に向かう通路でエストレージャが私の目の前を鼻歌を歌いながら歩いていました。そして、離陸して少しするとミュージシャンたちも全員揃っていた機内でささやかなライブが始まり、さらにエストレージャの歌を聞きました。迷惑に思った乗客もいたかもしれませんが、その前夜にエンリケ・モレンテの素晴らしいカンテ(フラメンコの歌)を聞いたばかり私にとっては嬉しいおまけでした。

2.「A good thing」Saint Etienne
映画「Volver (邦題:ボルベール)」(2006)から
打って変わってこの曲は90年代から活躍するイギリスのオルタナ・ダンス・バンド、セイント・エティエンヌの2005年のアルバムからの曲。軽快なテンポでメロディアス、ヴォーカルのサラ・クラックネルのちょっと甘ったるい声で明るく歌われますが、歌詞は切ないです。

3.「La noche」Estrella Morente
エストレージャ・モレンテのデビュー・アルバム、「Mi cante y un poema」から。若さの中に約束された将来を感じさせるソレアー。
この曲は映画には収録されていません。

4.「Tangos de la vida」Enrique Morente
現代フラメンコのカンテの最大の改革者が伝説のカンタオール、カマロン・デ・ラ・イスラだとしたら、エンリケ・モレンテはカンテを革新し続けた人物と言えるでしょう。この曲はライブ録音集からのスタイリッシュでスピード感溢れるタンゴスです。
彼が歴史的なフラメンコの王道を辿りながら、新たな可能性を探究したことは記憶にとどめられるべき多くの作品を生み出しました。そんなモレンテが2010年12月13日に67歳で急逝したことは、今でも残念でなりません。
この曲も映画には収録されていません。
posted by eLPop at 15:03 | 高橋めぐみのSOY PECADORA

ペドロ・アルモドバルの映画と音楽

2014.03.10

今週(3/10〜3/14)は、radiko.jpで全国どこからでも聞ける「RN2」の15:20〜(再放送は22:20〜)の20分間に出演します。
ご紹介するのはスペインの映画監督、ペドロ・アルモドバルの映画と音楽についてです。
ア ルモドバルは、フランコ総統の死によってスペインが長い独裁政権から大きな転換期を迎えた1975年以降に起きた"La Movida Madrileña"(直訳:マドリード運動)というカウンターカルチャー・ムーブメントを代表する人です。このムーブメントは他の欧米諸国や日本でも 60年代後半には起きていた若者文化の大爆発が、遅れてきたとも言えます。その遅れを取り戻すかのように、音楽、映画、文学などの様々な分野でまさにぎら ぎらしたドラッギーなどんちゃん騒ぎが起こったのです。
音楽では、私も好きなファンゴリアのAlaskaもこの頃にキャリアをスタートしています。

さて、第1日目の3/10にかかった曲とその映画について簡単な解説をします。ひとりしゃべりでの出演が初めてだったので、放送では緊張してカミカミで、よくわからなかったと思いますので内容が重複するのはご容赦ください。

1.「Gran Ganga」Almodóvar & McNamara
映画「laberinto de pasiones (邦題:セクシリア)」(1982)から
これは歌詞が過激すぎて訳せないのですが、アルモドバル自身がファビオ・マクナマラと組んで、映画の中野ステージにも登場します。アラブっぽいクネクネしたメロディが面白い曲です。マクナマラは現在も活躍中のミュージシャンです。
映画はニンフォマニアの女性がゲイの王子様に惚れるという不条理な物語から一転、大ハッピーエンドに。

2.「La bien pagá 」Muguel de Molina
映画「¿Qué he hecho yo para merecer esto? 」(1984)から
ミゲル・デ・モリーナは1930年代から50年代に活躍したコプラ歌手です。コプラは当時大流行した歌謡で、インペリオ・アルヘンティーナやローラ・フローレスなどの多くのスター歌手を輩出しました。
今やスペインを代表する女優のカルメン・マウラが、過激に個性的な家族の中でおきる出来事に振り回される映画です。

3.「Ne me quitte pas 」Maysa Matarazzo
映画「La ley del deseo(邦題:欲望の法則) 」(1987)から
けだるい、ひたすらけだるい曲。ご存じジャック・ブレルの名曲「行かないで」です。歌っているのはブラジルのマイーザ嬢。
映画はアルモドバルがはっきりと全面的に「ゲイの物語」描いた最初の作品と言われています。世にも複雑な三角関係。

4.「Esperame en el cielo 」Mina
映画「Matador(邦題:マタドール) 」(1986)から
イタリアの人気歌手ミーナがスペイン語で歌う美しくも哀しい曲。キューバのボレロ王、アントニオ・マチン(1903-1977)の大名曲です。
この映画あたりで日本でもアルモドバルの知名度はあがったのではないでしょうか。マタドール(闘牛士)と殺人事件を巡るサスペンス。「珍しく暗い」と思うと最後にびっくりどんでん返し。
posted by eLPop at 20:02 | 高橋めぐみのSOY PECADORA

世紀の大傑作小説「2666」の著者、ロベルト・ボラーニョと音楽(1)

2014.02.28

2666.jpg 

 チリ出身の詩人/小説家、ロベルト・ボラーニョは2003年7月15日に亡くなった。享年50。その遺作が「2666」だ。出版は死後の2004年。そして、邦訳が出たのが2012年。日本版は上下二段組880ページ。価格も税抜で6,930円。本の重さも値段の高さもどちらもずっしりくる。だが、これは100年に1冊の傑作なのだ。故・米原万里氏の著作のタイトルを借りるなら「打ちのめされるようなすごい本」(この本もすごく面白い)だ。本読みならば読まずには死ねない。
 「2666」は、批評家たちの部、アマルフィターノの部、フェイトの部、犯罪の部、アルチンボルディの部の5つのパートに分かれている。いずれの部も、多くの女性が殺害されているメキシコのシウダ・フアレスを想起させるソノーラ州サンタ・テレサという街となんらかの関わりを持つ。そこに、ノーベル賞候補といわれながらもその所在すら不明なドイツ人の小説家アルチンボルディを研究している4人の文芸批評家、サンタ・テレサの大学教授、米国の新聞記者、プロイセン生まれの軍人などが登場する。壮大で遠大でありながら細かく枝分かれする「2666」に対する正しい対処法は、物語を追うよりも「ひたすら読む」こと。まずは最後まで読み続けることだ。

 ボラーニョは、文学だけでなく、映画、音楽にもとてつもない知識を持っていた。故にその作品を読むときに読者は彼からの挑戦を受ける。一般的なものからマニアックなものまでの、書かれている物や人や題名や出来事を知っているかどうか。その挑戦に自分がどこまで答えられるか、「これは知っている」と思ったときにそれは甘美な喜びになる。
 そんな人なので、執筆の際にはヘッドフォンで音楽を聞きながら書いていたという。じゃあ、彼が聞いていた音楽はどんなジャンルだったのか、知りたくなるのは当然。調べてみると、バルセロナのCCCB(バルセロナ現代文化センター)のブログにその一部がうかがえる記事があった。曰く、ビオレータ・パラ、ルー・リード、ジミ・ヘンドリクス、ボブ・ディラン、ジョルジュ・ムスタキ、AC/DC等々。1953年生まれの人らしく、彼が最も好んだのはロックだと言われている。ここで紹介されている故郷の音楽はビオレータ・パラだけ。この記事は2013年の4月にボラーニョの生誕60周年(生きていたら、去年60歳だったのだ)を記念して、企画されたイベントの一部で、彼が遺した膨大な予定表から聞いていたであろう音楽のコンピレーションも作られている。そこには前述のミュージシャンに加え、ゲッコ・ターナー、レナード・コーエン、メルセデス・ソーサ、マーク・ボラン、バーニー・ケッセル、チック・コリアなどの作品が並んでいる。

 では、彼の作品の中にはどんな音楽が流れているのだろうか。そんなことが可能かどうか不安もあるが、具体的な記述がなくても、その場所と時代で想像してみたい。
posted by eLPop at 18:12 | 高橋めぐみのSOY PECADORA