このGWにお台場で「ラテンアメリカへの道フェスティバル」が開催された。
そこで、ペルーのアンデス地方で広く行われているユンサ(もしくはコルタ・モンテ)と呼ばれる、プレゼント(バケツやタライ、ポンチョなどが多い)をたくさんぶら下げた木をみんなでひと斧ひと斧切れ目を入れていって、切り倒してぶら下がったプレゼントをみんなで奪い合うという企画が行われた(斧ではなくマチェテ(ナタ)が使われることもあるようだ)。過去に実際に木につるしたら葉っぱを全部むしられたことがあるとかで、今回は安全を期してプレゼントはぶら下げず倒れたら渡す形にしたとのことであったが、それでも非常に盛り上がっていた。素晴らしい。
もちろん、お台場の地面に穴空けて木を突き刺して立てるわけにもいかないので、そこは巨大なギミックを作って、玩具の斧で切り倒すパフォーマンスを参加者みんなで行おうというものになっている。直前に切ってきたユーカリの木をつかって、三日間、音楽に合わせて輪になって踊りながら、楽しく実施されたが、最終日にはあくまで斧は切るふりである、ということをよく理解していなかった人によって思いっきり木にたたきつけられたため斧は折れ飛び、慌てて、その折れた斧の頭で切ったことにして木は倒れされるというハプニングもあった(そもそも最終日は風が強すぎてギミックが誤作動してしまうため、常に人が木を支えておく必要があった)。
そんな企画を見て盛り上がったペルー人からは、どうやらコミュニティでユンサをやりたいからこのギミックを貸し出して欲しいと依頼があったようで、これから日本各地のペルー人コミュニティでユンサが流行るのではないか?と個人的は少し期待している。
Yunza en Japón 2023
https://www.youtube.com/watch?v=-Y9qP3M1zKU
さて、では本家本元、ペルーのユンサを見てみよう。
アンデス地域では北から南まで非常に広い地域で行われている祭りなので、音楽やスタイル、規模なども様々だ。
非常にすばらしい3時間あるビデオがあったのだが、久しぶりにアクセスしようとしたらどうしても見つからないので、次点のビデオを何点かご紹介したい。
ちなみに木の太さにそれぞれのユンサの本気度が見て取れる気がする。めっちゃぶっといものは昼から初めて夜中までかかる。細いのはあっという間に切り倒される。
CORTAMONTE
https://www.youtube.com/watch?v=odCqKkTaBds
比較的小規模だが楽しんでいるのがよく分かる。6分ごろに切り倒されています。
CARNAVAL PAMPAROMINO CON LA BANDA SHOW SINFONICA DE ANCASH
https://www.youtube.com/watch?v=4PhohHH3Ank
こちらはふたまたになった木をそれぞれ切り倒すという形になっている。4分20秒ごろに一本目が切り倒されています。
ROSASPATA CARNAVALES CORTAMONTE QUELLO QUELLO 2016
https://www.youtube.com/watch?v=SLaSnEV-Csg
こちらは15分30秒ごろに切り倒されています。
さて、このようなユンサだが、実はアンデスだけでやられているわけではない。もちろん、リマへと移住したアンデス系移民も行っているのだが、そう言う意味ではなく、このユンサはアフロ系子孫の人々の祭りにもなっているのだ。
ペルー南部のチンチャやエル・カルメンなどのアフロ系集落は、もともとアンデス地域と交流があったため、アフロ系音楽にバイオリンがアンデス地域からもたらされるなどもしている。おそらくその過程でユンサも伝わったのであろう。そして、リマに出てきたアフロ系子孫のコミュニティでも夜中から明け方までユンサで盛り上がるというイベントは行われており、まさにユンサは民族を越えたペルーを象徴する祭りとなっているのである。
ユンサ・ネグラを紹介するビデオ。なんとなく全体像がイメージできます。
エル・カルメンでは彼の地のアフロ文化を牽引しているバルンブロシオ・ファミリーがユンサも中心的に行っている。
Yunza Negra | Celebra Perú
https://www.youtube.com/watch?v=XECxJFBgsCE
PASACALLE VERANO NEGRO YUNZA EN GUAYABO EL CARMEN 1988
https://www.youtube.com/watch?v=VS4-PcSI8O4
1988年のユンサ・ネグラの情景が少しだけ最後に映っています。
Yunza Negra 2012 En El Carmen-Chincha
https://www.youtube.com/watch?v=colKuPVKpp0
22分25秒ごろ倒れます。
もちろん、海外に出て行ったペルー人たちは各地でもユンサを行っている。
Yunza en el Sur de California 2,009 Carnaval Andino
https://www.youtube.com/watch?v=T9bcetmzIGE
カリフォルニアで行われたユンサ。
ユンサはやっぱり盛り上がるのである。
あなたのまちでもユンサ、やってみませんか?
ユンサ・ハポネサはやっぱり盆踊りでやるのでしょうか。
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アンカシュのポマバンバ周辺の音楽:チマイチ
2023.04.03
今月の曲、ちょっと疲れてぼーっとしたときに延々と聞きたいのはアンデスのいなかのワイノやその周辺音楽、ということで最近聴いていた曲から、アンカシュのポマバンバ周辺の音楽として知られているチマイチというちょっとバイオリンのメロディが独特な音楽をご紹介。
しかも一つ目のビデオは演奏ではなく踊り。このちょっと年配の二人が踊る踊りが、若者の踊りとはまた違ってエレガントで素晴らしいです。
曲は、リゴベルト・アンダウィルカによる「Cantinas Rotas」。
https://www.youtube.com/watch?v=55eOS1A7kSE
あと、やっぱり演奏しているのもちょっとはあった方がいいかなということで、普通は横笛は今は入らないのですが、バイオリンが入る前は横笛で吹かれていたということで、ちょっと古いスタイルを復古的に取り入れて演奏しているスタイルのものからアニータ・ファハルドの「Washku la vida(mal borracho)-Yana cordillera」のメドレーをご紹介します。
ANITA FAJARDO:CHIMAYCHI MIX: Washku la vida(mal borracho) - Yana cordillera
https://www.youtube.com/watch?v=CtQu223cfZo
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http://elpop.jp/article/190261244.html
posted by eLPop at 13:20
| 水口良樹のペルー四方山がたり
ペルー:政治崩壊と抗議行動激化の現状
2023.02.14
現在、ペルーの政治崩壊が2020年以上に先行きが見えない混沌とした状況になっている。発端は、2021年7月に大統領に就任したペドロ・カスティージョが22年12月に「自主クーデター」を企て失敗したことによる失脚と逮捕拘留が、予想を超えて大きな抗議運動へと発展していったことにある。

カスティージョを自らの声の代弁者と考えたり、ペルー政治がリマの富裕層に乗っ取られて地方を差別的に扱っている非民主的状況にあると考える主にアンデス系住民たちによる抗議運動の激化と、それにたいする警察や軍による暴力と死傷者の続出が、あらためて現在まで続くペルー国内の植民地的状況を浮き彫りにし、事態を膠着状態にしている(すでに50名以上の死者が出ている)。
これらの背景には1980年以降ペルーで推し進められた新自由主義経済政策によって、首都リマを中心とする沿岸都市部の拡大、経済成長と地方経済の衰退という大きな問題がある。
リマ富裕層の声を代弁するとみなされた政府に対する絶望と怒りが、政治家ではなかった地方の中学校教員組合出身の大統領を生み出すことを成し遂げたが、政治経験を持たず孤立した大統領の政権運営はすぐに行き詰まり、度重なる国会での罷免動議に追いつめられた末、かつてフジモリ大統領が行った自主クーデターをなぞる形で国会解散で起死回生を謀ろうとするも、軍や警察もついてこず、国会において大統領の罷免が議決、「反逆の疑い」で逮捕、拘留という顛末に至った。

この一連の政治的混乱の結果、副大統領から大統領へと「昇格」したのが、ディナ・ボルアルテである。ペルー初の女性大統領ということで当初は注目もされたが、軍と警察を抗議活動に容赦なく投入し、力でねじ伏せようとする姿勢によって一気に悪魔化され、抗議運動が一気に激化した。さらにボリビアとの国境地域であるアンデス南部県プーノについて「プーノはペルーではない」との発言によって事態は一層悪化した。抗議運動はボルアルテ罷免を求めるが、彼女が大統領を降りた場合、次の大統領は国会議長であるホセ・ウィリアムス・サパタが引き継ぐことになっている。しかし彼は国軍出身でフジモリ時代の虐殺事件にも関わっており、大統領に就任するとなるとますます事態は悪化する可能性も高く、今回のペドロ・カスティージョの自主クーデターと罷免、逮捕に端を発するペルーの社会混乱はまったく先の見えない難しい状況へと追い込まれてしまっている。
そんな中、今回の山岳民蜂起のテーマ曲のようになっているのがこの「Dina asesina, el pueblo te repudia(人殺しのディナ、おまえを拒絶する)」という歌だ。バンダ(ブラスバンド)やマリアッチ、ギター、アルパ(ハープ)などさまざまなスタイルでデモ行進の中で演奏され歌われている。特に「この民主主義はもはや民主主義ではない」と始まる歌の冒頭が強烈だ。以下、歌詞を載せておく。
この民主主義はもはや民主主義ではない
人殺しのディナ、民衆はおまえを拒絶する
おまえがあきらめるまで何人の人が死ねば良いのか
人殺しのディナ、民衆はおまえを拒絶する
軍隊の給料は腐敗を守るため
銃弾やミサイルは我ら民衆を殺すため
この民主主義はもはや民主主義ではない
人殺しのディナ、民衆はおまえを拒絶する
DINA ASESINA EL PUEBLO TE REPUDIA
https://www.youtube.com/watch?v=ILneC_rmx3A
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カスティージョを自らの声の代弁者と考えたり、ペルー政治がリマの富裕層に乗っ取られて地方を差別的に扱っている非民主的状況にあると考える主にアンデス系住民たちによる抗議運動の激化と、それにたいする警察や軍による暴力と死傷者の続出が、あらためて現在まで続くペルー国内の植民地的状況を浮き彫りにし、事態を膠着状態にしている(すでに50名以上の死者が出ている)。
これらの背景には1980年以降ペルーで推し進められた新自由主義経済政策によって、首都リマを中心とする沿岸都市部の拡大、経済成長と地方経済の衰退という大きな問題がある。
リマ富裕層の声を代弁するとみなされた政府に対する絶望と怒りが、政治家ではなかった地方の中学校教員組合出身の大統領を生み出すことを成し遂げたが、政治経験を持たず孤立した大統領の政権運営はすぐに行き詰まり、度重なる国会での罷免動議に追いつめられた末、かつてフジモリ大統領が行った自主クーデターをなぞる形で国会解散で起死回生を謀ろうとするも、軍や警察もついてこず、国会において大統領の罷免が議決、「反逆の疑い」で逮捕、拘留という顛末に至った。

この一連の政治的混乱の結果、副大統領から大統領へと「昇格」したのが、ディナ・ボルアルテである。ペルー初の女性大統領ということで当初は注目もされたが、軍と警察を抗議活動に容赦なく投入し、力でねじ伏せようとする姿勢によって一気に悪魔化され、抗議運動が一気に激化した。さらにボリビアとの国境地域であるアンデス南部県プーノについて「プーノはペルーではない」との発言によって事態は一層悪化した。抗議運動はボルアルテ罷免を求めるが、彼女が大統領を降りた場合、次の大統領は国会議長であるホセ・ウィリアムス・サパタが引き継ぐことになっている。しかし彼は国軍出身でフジモリ時代の虐殺事件にも関わっており、大統領に就任するとなるとますます事態は悪化する可能性も高く、今回のペドロ・カスティージョの自主クーデターと罷免、逮捕に端を発するペルーの社会混乱はまったく先の見えない難しい状況へと追い込まれてしまっている。
そんな中、今回の山岳民蜂起のテーマ曲のようになっているのがこの「Dina asesina, el pueblo te repudia(人殺しのディナ、おまえを拒絶する)」という歌だ。バンダ(ブラスバンド)やマリアッチ、ギター、アルパ(ハープ)などさまざまなスタイルでデモ行進の中で演奏され歌われている。特に「この民主主義はもはや民主主義ではない」と始まる歌の冒頭が強烈だ。以下、歌詞を載せておく。
この民主主義はもはや民主主義ではない
人殺しのディナ、民衆はおまえを拒絶する
おまえがあきらめるまで何人の人が死ねば良いのか
人殺しのディナ、民衆はおまえを拒絶する
軍隊の給料は腐敗を守るため
銃弾やミサイルは我ら民衆を殺すため
この民主主義はもはや民主主義ではない
人殺しのディナ、民衆はおまえを拒絶する
DINA ASESINA EL PUEBLO TE REPUDIA
https://www.youtube.com/watch?v=ILneC_rmx3A
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posted by eLPop at 21:52
| 水口良樹のペルー四方山がたり
レタマの花:歌い継がれる記憶
2019.02.17
ペルーという枠組みを超えて歌い継がれている歌がある。それは、人々の決して忘れ得ない記憶を伝えてくれる歌だ。人々が生き、笑い、暮らした場所で、異議申し立てをし、戦って大きな力の前に倒れ伏したという記憶を、けっして「歴史」として書き記されることのなかったはずの事件を、大きな教訓として、忘れてはならない権力の暴走の苛烈さと、終わらぬ苦しみを背負って生きることについて、人々に大いなる気づきを与えている歌でもある。
その歌とは、「レタマの花」というアヤクーチョ地方のワイノだ。ペルーの南部、アヤクーチョ県の北部に位置するワンタという町で起こった虐殺を歌い継いだものだ。
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posted by eLPop at 15:49
| 水口良樹のペルー四方山がたり
フレディ・グスマン、インタビュー その2
2018.03.08

ジャズからアンデス音楽へ。自らのルーツ・ミュージックにハマり、あたらしい音楽シーンを模索するフレディ・グスマンへのインタビュー後編です。
後編では、実際のペルーでの音楽活動から、今後の音楽的展開への展望などを中心に伺います。
(前編はこちら)
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posted by eLPop at 10:09
| 水口良樹のペルー四方山がたり