Darryl Yorkley
TRRは2009年設立のジャズ/ラテンの音をリリースしてきたインディペンデントのレーベルだ。ジャズとラテンの間で活躍するザッカイ・カーティス(Zaccai Curtis, p)とルケス・カーティス(Luques Curtis, b)のカーティス兄弟(The Curtis Brothers)が設立した、ジャズ/ラテンの境界のないNYの現場感覚がダイレクトに伝わる重要な作品をリリースし続けてきた。

何枚かのアルバムからレーベルの息吹が伝わるものをご紹介しよう。
まずThe Curtis Brothers。弟のベーシスト、ルケスはエディ・パルミエリ楽団で何度も来日しているのでご存じの方も多いだろう。クリスチャン・スコットやゲイリー・バートンなどのジャズ畑からパルミエリやビル・オコーネルなるラテン畑まで幅広く活動。
兄のザッカイはブライアン・リンチ(tp)やドナルド・ハリソン(as)などとも活動をしている。まさにNYのジャズとラテンの間を体現する音だ。ご紹介するのはレーベル旗揚げの時のアルバム1曲目から。カーティス兄弟のピアノとベースにレイナルド・デ・ヘスス(congas)、リッチー・バーシェイ(ds)の4人を中心にした作品。レーベルのカラーが良く出ている。
Curtis Anew / Curtis Brothers Quartet
https://youtu.be/Ugimub7vVQE
続いて、今回来日したダリル・ヨークリー(ts)のアルバム”Pictures at an African Exibition”から。
カリフォルニアでアフロアメリカンの父、メキシコ系の母から生まれ、高校時代に東海岸へ、以後大学で音楽を学び現在はNYを中心に活動。する彼の2作目。アフリカからカリブ、南北アメリカに連れてこられたその歴史を題材にした作品。骨太でおおらかな音が魅力的。アフロもアラブもラテンも北米ジャズも歴史の大きな流れの要素である事が表現されるが、NYという現場の音に裏打ちされたものである事も分かる。カーティス兄弟も参加。
The Birth of Swing
https://youtu.be/1Z11nsQMN94
さて最近の新譜からあといくつかご紹介。
ベーシストのアレックス・"アポロ"・アヤラはプエルトリコ生まれ。サンファンの高校、大学で音楽を学びロベルト・ロエナやヒルベルト・サンタ・ロサなどのサルサのオルケスタやウンベルト・ラミレス(tp)のバンドなどでのジャズを演奏後、NYに拠点を移しパポ・バスケス(tb)やラルフ・イリサリー(timb)などのジャズ/ラテンジャズのバンドで活動してきた。
本作はデビュー盤。骨太のベースにボンバとジャズを融合した音がとても個性的。NYで活躍するジャズシンガーのアナ・ルイーズ・アンダーソンも参加したこの曲は現場の雰囲気をよく伝える。
Café Y Bomba Eh / Alex "Apolo" Ayala
https://youtu.be/Evle_Ws1agA
今年リリースのリトル・ジョニー・リベロ(congas)とアンソニー・アルモンテ(vo,perc)の新譜"Mejor Que Nunca"もとてもNYらしい。プエルトリコを代表するサルサの名門オルケスタ、ソノーラ・ポンセーニャに在籍した後、NYに移りエディ・パルミエリのオルケスタでも活躍するジョニー・リベロと、ブルース・スプリングスティーンのツアー/レコーディングメンバーでありウイントン・マルサリスのリンカーンセンターでのオーケストラに参加する一方でパルミエリからスパニッシュ・ハーレム・オーケストラ、コロンビアのレゲトンスター、カロルGのメンバーなど引く手あまたの若手のアルモンテが組んだ。
この曲は南ア出身のヒュー・マセケラ(tp)の曲にパット・メセニー(g)やジェフ・テイン・ワッツ(ds)などなどで活躍するグレゴリー・マレ(harmonica)やポルトガル生まれアメリカ育ちでマーカス・ミラー(g)やマイケル・リーグ(g)、スナーキー・パピー、ベッカ・スティーヴンス(vo,g)などとの活動するルイス・カト(g,vo)が参加。とても面白いグルーヴ感とサウンドになっている。
Grazing in the Grass / Little Johnny Rivero &Anthony Almonte
https://youtu.be/-xF0vLIc12w
最後にもう一曲。ドナルド・ハリソン(sax)の新譜から。
ハリソンはニューオリンズ出身、バークリーを出てアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズに加入後、自己のグループで活動。ニューオリンズの音、カリブからの音、ヒップホップやラテン、R&Bなど様々な自己の背景をもとにした音がとても魅力的。
さずがドクター・ジョン(vo.p)からノートリアスBIG、クリスチャン・マクブライド(b)までとの活動をこなす感性だ。クリスチャン・スコット(tp)は甥っ子。
本作収録のアルバム『Congo Square Suite』(2023)はニューオリンズのコンゴ・スクエアをテーマ。コンゴ・スクエアはニューオリンズの広場の名前で、16世紀ころから黒人たちが青空市場を開き集まって打楽器で音楽やダンスに興じる場所として生まれ、そこにはカリブのクリオージョ/クレオールな音やリズム、またブラスバンドの音なども演奏される中、ジャズの原型が出来て来た場所として知られる。そんな歴史を組曲にした作品で、The Congo Square Nation Afro-New Orleans Cultural Groupやモスクワ交響楽団なども参加する大作。
Congo Square Suite: Movement III /Donald Hurrison Jr.
https://youtu.be/m2_9OxHtvhM
その他にもTRRから作品は本当に多岐にわたり、ブレーナやボンバのようなフォルクロリックなものからバリバリのジャズ、ラテンまで今の現場の音が詰まっおり、このあたりがお好きな方は是非、TRRをキーワードに気にいる音を探してて頂ければ。