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メレンゲの逆襲:オルガ・タニョンからマシュメロまで

2024.02.27

なんかじわじわメレンゲが来てる感じが。

プエルトリコの'90年代のメレンゲブームを代表するベテラン、"Mujer de Fuego"(火の女)、オルガ・タニョン(Olga Tañón)がここ1年積極的にリリースを行い今年のLo Nuestro賞でオマージュを受けるなどやけに元気。

Olga Tañón desata el baile con 'Es Mentiroso' y más de sus éxitos | Premio Lo Nuestro 2024

https://youtu.be/GBzKYAgwUyg?si=0JbgnjbDwHpZM5uG

Olga Tañón - Ganas

https://youtu.be/8dHZLRktfn0?si=_wb3RB738BPhgIpD

同じくベテランのマニー・マヌエルエルビス・クレスポも動きが積極的。

Elvis Crespo, Miriam Cruz | Ámame

https://youtu.be/2Fopo9zt0h4?si=iNH1FpdsO-T3_e7s


オルガ・タニョンがオマージュを受けたLo Nuestro賞ではもう一つ、イレガレス(Ilegales)がフューチャーされたりしている。イレガレスはやはり90年代にメレンハウスのトップヒットを大量生産した。

Ilegales arma una 'Fiesta Caliente' para festejar 30 años de música | Premio Lo Nuestro 2024

https://youtu.be/xH42-z9uOik?si=LlOcDPvvVbNJrLAk

こんなベテラン勢の元気は実は今のトップラインの動きと連動している。
2016年にデビューし2018年には全米、全英チャートで2位をつけた「Happier」などプロデューサー、トラックメーカー、覆面DJとして活動するマシュメロ(Marshmello)がコロンビアのアーバンミュージックで活躍するマヌエル・トゥリソと組んで大ヒットとなったのが"エル・メレンゲ(El Merengue)"だ。昨年12月も来日し東京、大阪公演でフロアを大きくゆらした。

Marshmello, Manuel Turizo - El Merengue

https://youtu.be/25vNYV0qdgA?si=oFryABxsbPlR67Jx

Sebastián Yatra, Manuel Turizo, Beéle - VAGABUNDO

https://youtu.be/0J1hIERZ1yA?si=y-j8671zRHxtQN5E

アーバン・ミュージック(Musica Urbana)の主流はラテン・トラップだが、クールでチルなサウンドに対して、ストレートにダンサブルなメレンゲのリズムが求められているのかもしれない。
2024年のメレンゲの動向に注目したい。

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posted by eLPop at 22:39 | 伊藤嘉章のカリブ熱中症

eLPop2023年はこれだった『Salsa: Sabor y Evolucion』

2023.12.30

eLPop 2023年はこれだ、の締めくくりはプエルトリコの年末か年始を楽しむ定番、バンコ・ポプラール・デ・プエルトリコの特別制作番組を。今年はサルサにフォーカスした『Salsa: Sabor y Evolucion』です。
通常12月初にテレビで公開されて同時にYouTubeに1週間限定公開なのですが、ことしはまだYouTubeで観られますので消えないうちに是非。1時間番組で、新旧のスターの登場と共にサルサの歴史も織り込まれています。

Especial Banco Popular 2023 - Salsa: Sabor y Evolucion

https://youtu.be/Cec-O7K1t0U?si=RXBwM5_84FfPXF0Z


その他、ライヴが素晴らしかったもので今年を思いかえすと:

■ラテン

◆レバンタ60(LEVANTA 60)(2023年11月。東京/名古屋/大阪)
サルサが誕生した60年代の音を大事にする日本のサルサバンド。
自由度の高さとスピード感、音圧が素晴らしいです。来年4/6に下北沢でライヴ予定あり。
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◆アフロ・アーバニティ/Afro Urbanity(2023年5月・12月。東京)
アフロキューバンとヒップホップ、ジャズ、エレクトロなどから昇華した音を追求する大所帯ユニット。
来年も活動が楽しみ。
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◆ソフィア・レイ&ホルヘ・ローダー/Sofia Rei & Jorge Roeder(2023年11月。東京)
アルゼンチン出身でNYで活躍するヴォーカル&チャランゴなどを演奏し、ポップからジャズまでを超えるソフィア・レイとペルー出身でジュリアン・ラージなど主にジャズの世界で活躍するベーシストのホルヘ・ローダーのライヴが素晴らしかった。二人の南米のバックグラウンドの音楽をデュオという最小のユニットから大きく広げる演奏だった。ジャズの文脈で語られるがその耳では捉えきれない素晴らしいパフォーマンスだった。

Sofía Rei & Jorge Roeder "Días De Sitio"

https://youtu.be/Ye6pNorbTqQ?si=ID7XH4w39kTaDRno

■アフリカ

◆バラケ・シソコ (kora)、 ヴァンサン・セガール (cello)、 ピエール・ファッチーニ (g,vo) @東本願寺渉成園(2023年5月)

緊密で繊細で凝縮した世界がPAなしの生音で聴き手の血液に溶け込む感じ。ちょっとない感覚でした。シソコが悶絶。一期一会。
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■ジャズ

◆小曽根真スーパー・カルテット(2023年5月。東京)
小曽根真(p)ブランフォード・マルサリス(ts)クリスチャン・マクブライド(b)ジェフ“テイン”ワッツ(ds)
◆アントニオ・サンチェス/ANTONIO SANCHEZ“バッド・オンブレ”(2023年6月。東京)
アントニオ・サンチェス(ds)タナ・アレクサ(vo)ビッグユキ(kyd)レックス・サドラー(b)
◆セシル・マクロリン・サルヴァント(vo) ftサリヴァン・フォートナー(p)(2023年6月。東京)
◆ダニー・マッキャスリン(ts)ジョナサン・マロン(b)ジェイソン・リンドナー(kyd)ザック・ダンジガー(ds)(2023年9月)
◆挾間美帆(comp,cond,arr)(2023月9月、12月。東京)
◆ヌバイア・ガルシア(sax)サム・ジョーンズ(ds)マックス・ルサート(b)ライル・バートン(kyd)(2023年10月。東京)
◆ジョン・バティステ(vo,kyd,sax,perc)(2023年10月)
◆SFジャズ・コレクティブ(2023年10月。東京)
クリス・ポッター(dir, sax)デヴィッド・サンチェス(ts, congas)マイク・ロドリゲス(tp,flh)ウォーレン・ウルフ(vib)エドワード・サイモン(p/kyd)マット・ブリューワー(b)ケンドリック・スコット(ds)
◆グレッチェン・パーラト(vo)(2023年11月。東京)
マーク・ジュリアナ(ds)デヴィッド・クック(p)アラン・ハンプトン(b)

ということで、来年もよろしくお願いします。



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posted by eLPop at 19:37 | 伊藤嘉章のカリブ熱中症

ウーマンパワー、クイアパワー

2023.10.25

9/26に代官山・晴れ豆でのeLPopイベントで『ウーマン・パワー、マン・パワー』と題したおしゃべりをしました。当日の全20曲は長すぎるので『ウーマンパワー、クイアパワー』の部分からピックアップ。

◆◆◆◆


「eLPopが選ぶ今の音」というテーマをで頭に浮かんだのは、ここ数年間面白い事やってる人たちに女性が多いと感じていた事だった。

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それはアーティストでも自分の周囲でもそう感じる。しかし急に女性の面白い人が増えたり、男のつまんない人が増えた訳でもなく、女性の活動が表にでる環境が以前よりましになった、という事かと思う。そしてその環境は長い歴史の、そして近年の、最近の歴史の中で積み上げられてきた。

そしてまだまだ根本的な所で声を上げる必要の一方で、女性の声の自然な発露、そしてそれはようやく女性だ男性だという必要のない自然な個人の発露のような感覚を持つものが増えて来た気がしている。そして、それはLGBTQの浸透と相まってクィアの人たちの作品も同様なものが表に出て来ている。

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ラテン音楽の世界でそんなことを感じる曲をいくつか追ってみたい。


【女性の声、自然なあたりまえの発露】

『Ana Tijoux / Antipatriarca』 (2014)

アナ・ティジュはチリのラッパー、チリ人の両親のもとフランス生まれ。2014年のアルバム『Vengo』からの曲。2015年にアルゼンチンから発しラテン・アメリカに広がった女性への暴力を糾弾する運動"Ni Una Menos"より先駆けた作品で、以後この運動で最も認知された曲のひとつとなっている。マチスモに反対する歌詞は、ジェンダー・バイオレンスへの非難と女性の自律を提唱している。アルバムはグラミー賞ノミネート。

Ana Tijoux - Antipatriarca

https://youtu.be/RoKoj8bFg2E?si=zdsCWr8jJ67UHd6w


『Vivir Quintana / Canción sin miedo ft El Palomar』 (2020)

ビビール・キンターナはメキシコ、コアウイラ出身のシンガーソングライター。サルティーヨの高等音楽学校で学び、ロマンチックな愛とそれが女性やフェミニズムに対して暴力へ向かってしまう状況に抗する作品を歌っている。

この曲はチリのアーティスト、モン・ラフェルテ(現在メキシコ在住)が2020年の「女性の権利の日」のコンサートのために依頼した曲。合唱団エル・パロマールによって歌われている。ラテンアメリカ各国で行方不明や殺害された女性や少女のための抗議デモでよく歌われる定番曲だ。

Vivir Quintana - Canción sin miedo ft. El Palomar

https://youtu.be/VLLyzqkH6cs?si=xWXWV9d7yGMYwNbQ


『Flores Rojas / Rebeca Lane』(2022)

グアテマラ出身のラッパー、レベッカ・ラネは、社会学者であり詩人でもあるフェミニストの「アーティヴィスト(活動するアーティスト)」。女性に対する暴力との闘いを彼女の歌詞の一語一語に聴くことができる。若い頃から先住民運動や労働者の闘いに焦点を当て、社会的な抗議活動に関わってきた人。と言ってコワモテではない。
この2022年作品の『Flores Rojas』は、少女や若者に生理について教えるための歌とイラストによるビデオ。ポジティブさ、自然体、愛、優しさを通した表現。

Flores Rojas - Rebeca Lane

https://youtu.be/2WELKCBWXlY?si=xQAvdFlMV2TRlhLh


『KAROL G & Shakira / TQG』
コロンビアの大スター、シャキーラカロルGの2人による今年リリース&世界的ヒットのデュエット曲。(TQG=Te Quedo Grande)。

シャキーラは元カレであるFCバルセロナの元スターのジャラール・ピケ(浮気したので分かれた)を、カロルGは同じく元カレのレゲトン歌手のアヌエルAAを痛烈にディスった曲だが、自分たちが力を持ち、自立した女性であること、その仕事にふさわしい相手としか人生を分かち合いたくないと歌う。対マチスモ(男性優位/男尊女卑)という段階から、自然なな自立した女性が、というより、男女関係なく個人の力とデジジョンとういうあたりまえの状況がヒットとなる2023年と感じる。

KAROL G, Shakira - TQG

https://youtu.be/jZGpkLElSu8?si=09_uxZ1l0RmQZWRy


『KAROL G / BICHOTA』
カロルGは上記のシャキーラとの曲でも自分を"Bichota/ビチョータ"と呼んでいたが、その彼女の2021年 のヒット。ビチョータはスペイン語のビチョ/bicho=虫を語源にプエルトルコのレゲトン創世記あたり(米本土への麻薬流通のピーク時代でもある)にドラッグディーラーのボスをビチョーテ/bichote=Big Bossと呼んだスラングから来ている。その女性名詞。

ビートの落ち着いた曲だが、歌詞は強烈でセクシーで、かつパワフルで「誰にも負けない」女性、ガール・パワーに溢れる。彼女のフェミニズムへのコミットメントだ。しかしマチスモ型のパワー誇示に出てくる「誰にも負けない」「売られた喧嘩は買う」という価値観と全く違う。
"Por más que me tiren no cojo lucha"(どれだけディスって来ても、私は売られた喧嘩は買わない)という歌詞がマチスモを冷ややかな目で見た形になっている。

KAROL G - BICHOTA

https://youtu.be/QaXhVryxVBk?si=pKGJ7s9dVNo07lz4


『Miss Bolivia y j mena / Se Quema』
ミス・ボリビア(本名María Paz Ferreyra)はアルゼンチンのシンガーソングライター。J'Mena(ヒメーナ、アルゼンチン。本名Jimena Valentina Guevara Barón)と共演のこの曲はデジタルクンビア、ヒップホップ、レゲトン的なキャーチーな音でジェンダー・バイオレンスや男目線の美のパラメータをぶっ飛ばしている。

Miss Bolivia y j mena - Se Quema

https://youtu.be/WNKn9KRXZJU?si=oUw4lj8DqkuO_YkN

【クィアの声、自然な発露】

女だ男だという2項対立の必要のないフラットな感覚は自然とクィア/LGBT+へと拡張されるのが自然。


『Villano Antillano ft Pedro Capo/Reina de la Selva』
クィアの最注目株はやはりプエルトリコのラッパー、トランスジェンダー、ビジャーノ・アンティジャーノだろう。1995年プエルトリコのバヤモン生まれ。ルベン・ブラデスにインスパイアされて音楽へ。

図2.png

2019年に初リリースした作品が注目を浴び活動が広がった。プエルトリコのバンコ・ポプラールによる年末恒例盤は毎年ニュースターをピックアップするが、2021年の『Ellas, mujeres en la musica(音楽での彼女たち、女性たち)』をテーマにした作品に起用され、2022年にアルゼンチンのDJ/プロデューサー、ビザラップ(Bizarrap)によるラテンアメリカの新しいビートミュージックを紹介する配信番組("NPR Tiny Desk"的な)で紹介された事で一気に人気に火が付いた。トラップとラップをベースにカリブに未だ根強いマチスモ、女性嫌悪、トランスフォビア(トランジェンダー嫌悪)に挑戦し、全米でも注目を浴びて2023年にはローリングストーン誌のアワードを獲得している。

ペドロ・カポとの「森の女王」のタイトルのこの曲も、プエルトリコの北西の海岸の風景をバックに「トランスジェンダー、なにか問題でも?」という感じの作品だ。

ビジャーノは従来のマチスモ型のレゲトン野郎との「ティラエラ」(リリック・バトル。ヒップホップでいうビーフ。)でも話題になっている。例えばアヌエルAA(Anuel AA)とコンスクルエラ(Consculluela)のリリック・バトルの中でアヌエルAAが作った「Intocable」での同性愛嫌悪の歌詞に対し、彼女は返歌「Pato hasta la muerte」を作って、アヌエルは謝罪に追い込まれているなど強い影響力も持つ。

Villano Antillano & Pedro Capó - Reina de la Selva

https://youtu.be/qB12dBLS6WE?si=UpvrAVQrB9wfPbNx


『Young Miko/Wiggy』

同じくプエルトリコ出身のヤング・ミコも今年ブレイクしている。彼女もクイア(レスビアン)だ。

プエルトリコのアニャスコ出身。2018年からラップを始め、ビジャーノも含め様々にコラボしている。
2022年の『Trap Kitty』(Sony Latin)をリリース。と同年のバンコ・ポプラール年末盤にも参加、今年に入りビルボード・ラテン・ミュージック・アワードやMTVミレニアル・アワード、プレミオ・ロ・ヌエストロなど多くのノミネートを受けている。
本作のMVは、プエルトリコの高校生ガールズ/クィアのやんちゃであっけらかんとした姿が活写されている。

Young Miko - wiggy

https://youtu.be/sO6r8pXZKwg?si=wksIzT2-Kcrq6oj6


『Krudas Cubensi/ Mi cuerpo es mio』

プエルトリコはアメリカとラテンの結節点ゆえ、シーンの先頭を行くことが多いが、他のラテン圏も当たり前に声を上げてきている。例えばキューバだ。


オダイマール(Odaymar)とオリ(Oli)はキューバのクィア、ノンバイナリ(男女のいずれにも属さないと考える性自認を持つ人を指す用語・アイデンティティ)のアーティストだ。キューバのフェミニスト・ヒップホップの先駆者と言っていいだろう。

90年代後半に活動を開始し、1999年にオダイマールの妹のワンダ・クエスタ(Wanda Cuesta)と共にクルダス・クベンシをハバナで結成。但しキューバでは彼らの活動は動きにくく2006年にテキサスのオースティンに移住し、演奏のみならず講演やワークショップなども含め広範囲に活動している。2021年にはカリフォルニア大バークレー校でのアンジェラ・デイヴィスの流れをくむ黒人研究共同研究機関のプログラムにも参加。

この作品は自分の身体、女性とクィアの人たちの選択の権利について歌っている。

Krudas Cubensi. Mi cuerpo es mio. Odaymara/ Olivia/ La Real. Aiwey Tv
https://youtu.be/x-Pgwldfx8U?si=IqwUdxR3gLj6yIwI


『Niña Dioz feat Hispana / Mezcal』

メキシコからはもう一人紹介しておこう。モンテレー出身のニーニャ・ディオス。
やはりマチスモや同性愛嫌悪の強力なメキシコで、自分らしくいられる事を作品に込め道を切り開いている。インタビューで「ラテンアメリカのアーバンミュージックシーンでは、状況は以前とは変わってきています。伝統的に男性の仲間が独占していた環境の中で、多様なメッセージや見解を持つ女性がますます増えています。」と語っている。

Niña Dioz feat. Hispana - Mezcal

https://youtu.be/Q1Gjc8RzUlA?si=3chi2CI02hynKtVA


最後に男性アーティストの事を。
レゲトンのマチスモと一線を画すバッド・バニーだ。

2019年にレゲトンのドン・オマールが同性愛嫌悪的なコメントをした時、SNSでバッド・バニー「この時点で同性愛嫌悪?めちゃ残念、バカだ」と書き込んでいる。また2020年プエルトリコでトランスジェンダーのアレクサ・ルイスが殺された報道で警察やメディアが「スカートをはいた男」という表現をした時に、バッド・バニーは数日後の米国NBCの深夜の人気番組ジミー・ファロンの『ザ・トゥナイト・ショー』に出演し、「彼らがアレクサを殺した、彼女はスカートをはいた男じゃない(Mataron a Alexa, no a un hombre con falda”.)」と書かれたシャツを着て出演している。ツイッター上で起きていた#Se Llama Alexa運動と同じくアレクサはトランス女性であり、その性自認は尊重されるべきであるというメッセージだ。

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ザ・トゥナイト・ショーの様子。ちなみにザ・トゥナイト・ショーのレギュラーバンドは
バンドリーダー&ドラムがクエストラヴ(Questlove)

バッド・バニー自身スカートを履きネイルを塗り、イヤリングをしいわゆる女性的ファッションを好きにやっており、またMVでもマチスモにやられない女性、戦士として描かれる女性、男性を必要とせず楽しむ女性、中絶の権利の為の活動に緑のスカーフで参加する女性、同性同士のキスなどなど LGBT+ 、ドラァグクイーン、トランスジェンダー、年配の女性、ダウン症の女性などの多様な身体・性器とは関係のない愛を表現している。

と言って従来型のマチスモに連なる表現も続けていて、ある意味世の中の実態のサンプルであるともいえるだろう。自分や自分の周囲も含めて渦中にある時代である事を感じている。


posted by eLPop at 17:12 | 伊藤嘉章のカリブ熱中症

トゥルース・レヴォルーション・レコーズ

2023.08.03

トゥルース・レヴォルーション・レコーズ(Truth Revolution Records/TRR) のアーティストであり、オペレーション・マネージャーでもあるサックス奏者のダリル・ヨークリー(Darryl Yorkley)が来日しライヴの合間の日程に話を聞くことが出来た。

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Darryl Yorkley

TRRは2009年設立のジャズ/ラテンの音をリリースしてきたインディペンデントのレーベルだ。ジャズとラテンの間で活躍するザッカイ・カーティス(Zaccai Curtis, p)とルケス・カーティス(Luques Curtis, b)のカーティス兄弟(The Curtis Brothers)が設立した、ジャズ/ラテンの境界のないNYの現場感覚がダイレクトに伝わる重要な作品をリリースし続けてきた。

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何枚かのアルバムからレーベルの息吹が伝わるものをご紹介しよう。

まずThe Curtis Brothers。弟のベーシスト、ルケスはエディ・パルミエリ楽団で何度も来日しているのでご存じの方も多いだろう。クリスチャン・スコットやゲイリー・バートンなどのジャズ畑からパルミエリやビル・オコーネルなるラテン畑まで幅広く活動。

兄のザッカイはブライアン・リンチ(tp)やドナルド・ハリソン(as)などとも活動をしている。まさにNYのジャズとラテンの間を体現する音だ。ご紹介するのはレーベル旗揚げの時のアルバム1曲目から。カーティス兄弟のピアノとベースにレイナルド・デ・ヘスス(congas)、リッチー・バーシェイ(ds)の4人を中心にした作品。レーベルのカラーが良く出ている。

Curtis Anew / Curtis Brothers Quartet

https://youtu.be/Ugimub7vVQE


続いて、今回来日したダリル・ヨークリー(ts)のアルバム”Pictures at an African Exibition”から。

カリフォルニアでアフロアメリカンの父、メキシコ系の母から生まれ、高校時代に東海岸へ、以後大学で音楽を学び現在はNYを中心に活動。する彼の2作目。アフリカからカリブ、南北アメリカに連れてこられたその歴史を題材にした作品。骨太でおおらかな音が魅力的。アフロもアラブもラテンも北米ジャズも歴史の大きな流れの要素である事が表現されるが、NYという現場の音に裏打ちされたものである事も分かる。カーティス兄弟も参加。

The Birth of Swing

https://youtu.be/1Z11nsQMN94

さて最近の新譜からあといくつかご紹介。

ベーシストのアレックス・"アポロ"・アヤラはプエルトリコ生まれ。サンファンの高校、大学で音楽を学びロベルト・ロエナやヒルベルト・サンタ・ロサなどのサルサのオルケスタやウンベルト・ラミレス(tp)のバンドなどでのジャズを演奏後、NYに拠点を移しパポ・バスケス(tb)やラルフ・イリサリー(timb)などのジャズ/ラテンジャズのバンドで活動してきた。

本作はデビュー盤。骨太のベースにボンバとジャズを融合した音がとても個性的。NYで活躍するジャズシンガーのアナ・ルイーズ・アンダーソンも参加したこの曲は現場の雰囲気をよく伝える。

Café Y Bomba Eh / Alex "Apolo" Ayala

https://youtu.be/Evle_Ws1agA


今年リリースのリトル・ジョニー・リベロ(congas)とアンソニー・アルモンテ(vo,perc)の新譜"Mejor Que Nunca"もとてもNYらしい。プエルトリコを代表するサルサの名門オルケスタ、ソノーラ・ポンセーニャに在籍した後、NYに移りエディ・パルミエリのオルケスタでも活躍するジョニー・リベロと、ブルース・スプリングスティーンのツアー/レコーディングメンバーでありウイントン・マルサリスのリンカーンセンターでのオーケストラに参加する一方でパルミエリからスパニッシュ・ハーレム・オーケストラ、コロンビアのレゲトンスター、カロルGのメンバーなど引く手あまたの若手のアルモンテが組んだ。

この曲は南ア出身のヒュー・マセケラ(tp)の曲にパット・メセニー(g)やジェフ・テイン・ワッツ(ds)などなどで活躍するグレゴリー・マレ(harmonica)やポルトガル生まれアメリカ育ちでマーカス・ミラー(g)やマイケル・リーグ(g)、スナーキー・パピー、ベッカ・スティーヴンス(vo,g)などとの活動するルイス・カト(g,vo)が参加。とても面白いグルーヴ感とサウンドになっている。


Grazing in the Grass / Little Johnny Rivero &Anthony Almonte

https://youtu.be/-xF0vLIc12w


最後にもう一曲。ドナルド・ハリソン(sax)の新譜から。
ハリソンはニューオリンズ出身、バークリーを出てアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズに加入後、自己のグループで活動。ニューオリンズの音、カリブからの音、ヒップホップやラテン、R&Bなど様々な自己の背景をもとにした音がとても魅力的。

さずがドクター・ジョン(vo.p)からノートリアスBIG、クリスチャン・マクブライド(b)までとの活動をこなす感性だ。クリスチャン・スコット(tp)は甥っ子。

本作収録のアルバム『Congo Square Suite』(2023)はニューオリンズのコンゴ・スクエアをテーマ。コンゴ・スクエアはニューオリンズの広場の名前で、16世紀ころから黒人たちが青空市場を開き集まって打楽器で音楽やダンスに興じる場所として生まれ、そこにはカリブのクリオージョ/クレオールな音やリズム、またブラスバンドの音なども演奏される中、ジャズの原型が出来て来た場所として知られる。そんな歴史を組曲にした作品で、The Congo Square Nation Afro-New Orleans Cultural Groupやモスクワ交響楽団なども参加する大作。

Congo Square Suite: Movement III /Donald Hurrison Jr.

https://youtu.be/m2_9OxHtvhM


その他にもTRRから作品は本当に多岐にわたり、ブレーナやボンバのようなフォルクロリックなものからバリバリのジャズ、ラテンまで今の現場の音が詰まっおり、このあたりがお好きな方は是非、TRRをキーワードに気にいる音を探してて頂ければ。
posted by eLPop at 14:19 | 伊藤嘉章のカリブ熱中症

ラテン間の融合:マーク、マルマ、カロルG、ラウ・アレハンドロなど

最近の米国のラテンチャートを聴いてると、一昔前のラテンとUSAアーティストとのコラボからラテン域内の音との融合が米国のチャートで上位に食い込むケースが増えていて面白い。

サウンドのベースは「今」の音=URBANという共通点があるし、ラテン・アーティスト間のコラボも従来から珍しい事ではないのだが、今やアフロアメリカン系を抜いてUSA最大のマイノリティとなったラテン系(ヒスパニック)のリスナーやUSAの一般リスナーがラテンな感性同士の融合したサウンドを自然と受け入れている変化の表れかと思う。もちろんそんな分析とは別に、自分にとってはラテン+ラテンな音は安心感と新鮮さが楽しい、ということなのだが。ランダムにいくつかご紹介を。


マルマ & マーク・アンソニー/Maluma, Marc Anthony, “La fórmula”
こういう組み合わせはおなじみ。3月のリリースだがトロピカル・エアプレイ・チャートで2位、ラテン・エアプレイで9位のヒット。

コロンビアのアーバンの雄マルマとサルサのマークの組み合わせを2021年のラテン・グラミーで「プロデューサー・オブ・ザ・イヤー」を獲得した売れっ子テキサス生まれメキシコ系のエドガー・バレラ、コロンビアの売れっ子プロデューサー、ルード・ボーイズ、そしてセルヒオ・ジョージ御大が共同プロデュース。安定の出来。

Maluma, Marc Anthony, “La fórmula”

https://youtu.be/4AtEVbfMVk8


次はコロンビアのレゲトン〜アーバン〜トラップの歌姫カロルG(Karol G)の“Amargura”
ベースはレゲトンだが、だれしもがバッド・バニーの影響下にあるような新人男性レゲトネロに比べ女性歌手は彼女も含め歌が素直。この曲は冒頭にフランキー・ルイスの名曲"La Cura"が使われてるのが面白い。失恋の傷みを歌う曲。

Karol G, “Amargura”

https://youtu.be/hlgx4OKsWtE


そのバッド・バニーはメキシコのグルーポ・フロンテーラ(Grupo Frontera)とのコラボの“un x100to”をリリースしオールジャンルのホット100チャートで5位、ホット・ラテン・ソング・チャートで2位を記録。
グルーポ・フロンテーラは2019年デビュー、テキサス出身のノルテーニョのバンド。またもエドガー・バレーラとブルックリン生まれのプエルトリカン=ドミニカンのMAGがプロデュースに参加。ちょっとノスタルジックで不思議なブレンド。

Grupo Frontera x Bad Bunny, “un x100to”

https://youtu.be/3inw26U-os4


メキシコ系と言えばエスラボン・アルマドペソ・プルマ(Eslabón Armado & Peso Pluma)の“Ella baila sola”のレキントとブラスというノルテーニョ/シエレーニョ王道を今の感覚でプレイした曲がチャートトップを獲得しビルボード・グローバル200や"メキシコ・リージョナル・チャートでも1位となる快挙も面白い。シエレーニャ・パーティーのノリノリの曲。

Eslabón Armado & Peso Pluma “Ella baila sola”

https://youtu.be/lZiaYpD9ZrI


メキシコ系で、もひとつ好きなのはカロンチョ(Caloncho)の “Superdeli”
メキシコのオブレゴン出身のポップ/レゲエのインディーなシンガー・ソングライターだがバチャータ風味がなかなか気持ちいい。

Caloncho“Superdeli”

https://youtu.be/Dc0n0PEebNo


ドミニカ共和国との融合となるとメレンゲは外せない。
フィラデルフィア出身のEDMトラックメーカーのマシュメロ(Marshemello)とコロンビアのモンテリオ生まれの23歳のマヌエル・トゥリソ(Manuel Turizo)が組みEDMとメレンゲをマッチングさせた"El Merengue"
ビルボードのトロピカル・エアプレイ・チャートで、1位だったトゥリソ自身"La bachata"を14週ぶりに2位に追いやってトップに躍り出た曲。こういうサウンドもフロアでは人気なのだろう。

Marshmello, Manuel Turizo, “El merengue"

https://youtu.be/25vNYV0qdgA


最後に曲はほわっとしたアーバン・レゲトンだが、PVのところどころに日本での撮影が登場するロサリアラウ・アレハンドロ"Beso"を。ビルボードのグローバル200チャートでトップとなった曲。PVの日本ロケとか日本の風景を挟み込むとか(カロルGとシャキーラの"TQG"とか)結構多い。日本のミュージシャンとのコラボまで進むと面白いのですが期待したいところ。

Rosalía, Rauw Alejandro, “Beso”

https://youtu.be/QXQQAsIhHMw

posted by eLPop at 14:14 | 伊藤嘉章のカリブ熱中症