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4/28:PURAHÉI SOUL (from PARAGUAY)@ブルーノート東京

2023.05.26

 新型コロナの5類感染症への移行が検討され始めたころから、来日公演がどんどん増え始めてきた。やっとコロナ禍前の状態にエンターテイメント業界も戻りつつあるのを実感する。だが、この急激な変化はコロナ禍前以上に情報をチェックしていないと、こんなミュージシャンが来ていたのかと、後になって地団駄を踏みかねないので注意したい。4月に中南米諸国からも何組か来日していたが、見逃した方も多いのではないだろうか。プロモーション目的で、政府機関がバックアップしていることも多く、あまりアナウンスがされていなかったり、日本ではほとんど無名のミュージシャンが選ばれることが多いので、こまめにチェックしていないと見逃してしまう。

 ヴォーカルのジェニファー・ヒックス(Jennifer Hicks)とヴォーカルとギターのミゲル・ナルバエス(Miguel Narváez)による男女デュオ、プラヘイ・ソウル(PURAHÉI SOUL)も本国パラグアイ政府のバックアップで来日したそんなグループの一つだった。4月26日と27日に、東京・恵比寿 BLUE NOTE PLACEで、28日にはブルーノート東京でコンサートを行った。また、京都などでも演奏を披露したようだ。今回は、彼らの他、ベーシストのパウラ・ロドリーゲス(Paula Rodríguez)がサポート・メンバーとして一緒に来日、さらにブルーノート東京のステージには、曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)と河村亮(ドラムス) がサポート・メンバーとして参加した。

 パラグアイ音楽というと、アルパ(ハープ)の音楽や、ポルカ(ヨーロッパの2拍子のリズムが、パラグアイでは何故か3拍子と2拍子のポリリズムに変化して根付いた)やガローパ(こちらもポルカ同様、ヨーロッパのリズムが3拍子系の複雑なポリリズムに変化)、バルス(ワルツ)という伝統的な音楽のイメージぐらいしか湧かない中、彼らに関してなんの前知識もなく、28日のファースト・ステージを見に行った。

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 事前にSpotifyで2曲ほど聞いてみたが、欧米のポップスに影響を受けたサウンドぐらいにしか印象は持てず、実はあまり期待はしていなかった。確かに序盤の日本人のバックアップ・メンバーが参加したパートでは、そんな印象だったが、中盤のジェニファー・ヒックスとミゲル・ナルバエス2人だけのパート以降は、アンコールまでどんどんギアを上げていき独自な世界を聞かせてくれた。

 歌う言葉は、スペイン語に英語、そしてラプラタ川地域に住む先住民グアラニー族の言葉であるグアラニー語。途中、パラグアイ音楽の有名なジャンル(リズム)である「ポルカを歌います」とアナウンスした曲なども演奏。もちろん、ただ伝統的なスタイルで演奏するわけではなく、現代らしい男女ハーモニーをとりいれ、多くの世界中の同世代のヴォーカリストたちに共通したアーバンな雰囲気も取り入れていて、開かれた音楽性を感じさせてくれた。また、お隣の国アルゼンチンなどと同様、ヌエバ・カンシオーンなどとも連携したパラグアイに根ざしたロックの躍動も、しっかり受け継いでいるようだ。ショウとして十分楽しめるものであるのと同時に、聞き進むにつれどこか南米の深さも感じさせてくれるのがとても良かった。

● Purahéi Soul - Luna (Acoustic Version) Canadá 2022

https://youtu.be/uWAeIAUPjzc
 多分、「ポルカです」といって歌った曲

● Purahéi Soul - Desapego (Videoclip Oficial)

https://youtu.be/bgdEhcfbUec
 この曲も、ポップだがパラグアイ的なリズムがしっかり聞いてとれる。

● Purahéi Soul - Aju Nderendape - Serenata (Videoclip Oficial)

https://youtu.be/fRKZUPMDSs4
 バルス(ワルツ)のセレナータ

● Purahéi Soul - Swing Guaraní (Live Session)

https://youtu.be/WFa-PbEaQ_s


 帰宅後、プラヘイ・ソウルのことを調べて見たら、パラグアイ本国ではかなり人気のある実力派グループのようだが、ビジュアルはまだ若そうで、そのギャップも魅力と感じた。

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会場で販売されていたCD。
2018年発売のアルバム『Swing Guaraní』全曲に、それ以降に発表された楽曲3曲をプラスしたもの。
2022年のツアー用に特別に作られたアルバムのようだ。


 以下に、ブルーノートのホームページで紹介されているプロフィールを貼り付けておく。これは、彼らの公式HPのプロフィールを要約+アルファした内容だ。

「2013年、ジェニファー・ヒックスとミゲル・ナルバエスによって結成。プラヘイはグアラニー語で歌を意味し、ソウルはアフロサウンドと魂を指す。“音楽と芸術の本来の意味を取り戻す必要性”を標榜し、アート、ファッション、演劇、映画、ダンスなどさまざまな分野と交流。地元のミュージシャン・コミュニティで頭角を現し、2018年12月にはグアラニー語、スペイン語、英語でうたった1stアルバム『Swing Guaraní』を発表。ジャズやソウル、ラテン音楽など多種多様な要素を取り入れたスタイルが評判となり、現在では国内外でツアーを展開する人気ユニットに」

4/28 ブルーノート東京のラインナップ
Jennifer Hicks(vo)
ジェニファー・ヒックス(ヴォーカル)
Miguel Narváez(g,vo)
ミゲル・ナルバエス(ギター、ヴォーカル)
Paula Rodríguez(b)
パウラ・ロドリゲス(ベース)
Mao Soné(tp,p,key)
曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)
Akira Kawamura(ds)
河村亮(ドラムス)

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posted by eLPop at 19:00 | 高橋政資のハッピー通信

『ラテンアメリカの民衆芸術』展@国立民族学博物館

2023.04.03


 3月9日から、大阪の国立民族学博物館で開催されている『ラテンアメリカの民衆芸術』展を、見に行ってきた。国立民族学博物館は、EXPO70(1970年の大阪万博)の跡地、万博記念公園の一角に作られた民族学博物館。大阪モノレールの万博記念公園駅から、万博記念公園を横切るように向かうのだが、ちょうど「桜まつり」が行われていて天気も良かったこともあり、家族連れなどで大混雑。

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太陽の塔

 後で国立民族学博物館の方に聞いた話だと、普段はほとんど人出は無く、今日の混雑ぶりはビックリだということ。何はともあれ、太陽の塔と桜を横目に見ながら、無事会場に到着。会場入り口では、今回の特別展のイメージキャラクター(?)にもなっている“ヤギのナワル”の看板が出迎えてくれるので、本館とは別の特別展示館へもスムーズにアクセスできた。

 「ラテンアメリカでは、民衆のつくる洗練された手工芸品を民衆芸術(スペイン語でArte Popular=アルテ・ポプラル)とよびます。北はメキシコから南はアルゼンチンまで、古代文明の遺物から現代のアート・コレクティブの作品まで、国立民族学博物館が所蔵する作品を中心に約400点のいろいろな民衆芸術作品を展示します」と主催者の説明にある通り、時間、地域ともに幅広く、展示数の多さとクオリティーの高さに圧倒された。

 展示物は、先コロンブス、コロンブス後の混淆の時代、そして、現代の抵抗のアートとしての活動までを体系つけて紹介しているので、中南米の歴史に興味がある人にも刺激的な内容となっている。
 手工芸品を、1920~30年代から国のアイデンティティとして育て紹介していったメキシコとペルーから多くの世界的に知られた作家が出たことは、両国のインディヘニスモ運動から、それぞれ独自の音楽がつくられ世界的に知れ渡ったことと呼応していて、作品群をより興味深く見ることが出来た。ただ、両国の展示物が結果的に他地域より圧倒的に多かったのは致し方ないが、カリブなどの展示はもう少し見たかったというのも本音。

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祭用楽器(ボリビア)

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焼きのも(ペルー)

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モラ(パナマ)

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仮面(ブラジル)

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死者の日祭壇(メキシコ)

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ガリフナ(ホンジュラス)

 ただ、初めて知ることも多く、日本や中国をはじめとするアジアの漆器や絣(かすり)が、植民地時代にはすでに中南米の工芸に影響を及ぼしていたことなどは、驚きだった。

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漆器の入れ物(メキシコ)


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首長人形(ペルー)

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レタブロ(ペルー)

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命の木(メキシコ)

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コヨーテのナワル(メキシコ)

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精霊の神話的変化(ペルー)

 さらに、現代の抵抗のアートとしての展示も充実していて、メキシコでのアート・コレクティブの活動などは、映像でも紹介されていて、今を生きる民衆芸術にも目を配っているのは流石。

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アヨツィナパ文書(メキシコ)

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呪われた者たち(ペルー)

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アルビジュラ「窓の外を見つめる女性」(チリ)

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木版画「8-M」(メキシコ)

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木版画「メキシコの黒人ディアスポラシリーズ(メキシコ)

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「グアテマラの民族衣装はだれのものか」

 とにかく、中南米カリブの文化に興味ある方はもちろん、現代史に興味ある方も必見の特別展示は、5月30日まで。途中、関連イヴェントもいくつか企画されているので、そちらと合わせて訪れるのも良さそうだ。
『ラテンアメリカの民衆芸術』HP
https://www.minpaku.ac.jp/ai1ec_event/37894

 常設展の方も約15年ぶりに見てみたが、現代進行形の文化も紹介され、以前と一部展示内容が入れ替えられていて、こちらも興味深く見て回った。ただ、世界の全ての地域を対象にしているので、その数は膨大。『ラテンアメリカの民衆芸術』展と合わせて見るには1日仕事になるので、そのようにプランされるのをお勧めする。

国立民族学博物館 HP
https://www.minpaku.ac.jp/exhibition/permanent/main

 ちなみに、関西地区には、ほかに天理教大学付属の「天理参考館」という、これまた素晴らしい民族学博物館があるので、こちらと合わせ“関西民族(俗)学ツアー”の旅も可能。
天理参考館 HP
https://www.sankokan.jp/


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http://elpop.jp/article/190261244.html
posted by eLPop at 13:16 | 高橋政資のハッピー通信

2019年インテラクティボ来日、その3:インテラクティボはジャンルではない?

2019.10.13

 この夏は、キューバン・ミュージシャンの来日公演が多かった。インテラクティボの後にも、8月の中旬には、ゴンサロ・ルバルカーバ&アイメー・ヌビオラ、8月下旬には、エリート・レベ・イ・ス・チャランゴンが来日し、それぞれ充実したパフォーマンスを見せつけてくれた。それぞれのリーダーは、偉大すぎる父親を持つミュージシャンばかりだ。キューバでは、さほど珍しいことではないが、重圧はいかばかりかと思う。

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posted by eLPop at 20:04 | 高橋政資のハッピー通信

2019年インテラクティボ来日、その2:ライヴ・レポート

インテラクティボ、ライヴ・レポート(2019年7月30日、ブルーノート東京)

 インタビューのあと、東京で1回限りのライヴを見た。
 去年のフジロックでは、現在の主要メンバーである、テルマリー、ブレンダ・ナバレテとフリオ・パドロン、マリア・デ・ラ・パスが、他の仕事のため来日出来ず、逆に今年は、ウィリアム・ビバンコ、そして「Me Voy」が大ヒットしたシマフンク(CIMAFUNK)がソロ活動多忙により、不参加。メンバーそれぞれの個性を全面に出すインテラクテイボだけに、全体のサウンドの印象も昨年とは多少異なるものになっていた。特に、女性が13人中6名ということもあり、個々のインプロヴィゼーションより、アンサンブルのしなやかさが強調されたパフォーマンスだったように思う。そんな女性陣の中、リセッテ・オチョアの刻むグイロ(ギロ)が全体の演奏を引き締めていたのが、特に印象的だった。

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撮影 : 古賀 恒雄


こちらは、昨年(2018年)のフジロックでのパフォーマンス
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posted by eLPop at 16:49 | 高橋政資のハッピー通信

2019年インテラクティボ来日、その1:ロベルト・カルカセースへのインタビュー

2019.10.12

昨年(2018年)に引き続き、異例の2年連続でフジロックに出演した、キューバのインテラクティボ。今年は、フジロックを主宰し、彼らの招聘元でもあるスマッシュの意向で、東京公演も実現。会場となったブルーノート東京で、リーダーのロベルト・カルカセースに、本番前の30分間という短い時間だったが、インタビューすることが出来た。

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posted by eLPop at 21:01 | 高橋政資のハッピー通信