Top > 高橋めぐみのSOY PECADORA > こういう人が日本にもいるんです(2) スペイン語と映画に生きるLa Doña Setsu 後編

こういう人が日本にもいるんです(2) スペイン語と映画に生きるLa Doña Setsu 後編

2014.06.12

 「やっぱり、ボラーニョからどんどん離れている」とお思いの方、それはまだまだ違います。まあ、半分は合っています。しかし、この方がいなければ、私とボラーニョは出会わなかったのです(ちょっと嘘)。とにかくおもろい姉さんの半生記(後編)にチャレンジさせてくださいませ。
 
 ということで後半です。どうしても「ドニャ」だの「姉さん」と呼びたくなってしまうようなラテン女っぽいって言うけど、どんな美女なの?とお思いの方もおられると思うので、写真を載せますね。「手の残像が写るほどの早さでワインリストをめくるドニャ」の図。小股の切れ上がったいい女です。
setsu2.jpg
 さて、27歳で(今のところ一度だけの)結婚をして、青年海外協力隊のコーディネータをしていた夫(今は元夫)と共にケニアに行き、都合2年間をアフリカで過ごした後、英語とスペイン語がペラペラとはいえ「もう語学に関わる仕事はこりごり」な気分で帰国したときは29歳。心機一転、とあるイベント会社で働いた後、またまたフリーになって、今度は当時大盛況だったレゲエ・サンスプラッシュの音響スタッフの通訳などを始める。そこでも(またかいな)、何にでも文句を付けるアーティスト・サイドのディレクターを一喝し、「俺にそんなことを言ったやつはいない!」と逆に信用されることに。(私の知ってる範囲ですが、この手法は「賭け」です。よくぞ言ってくれた!と相手が反省してくれて上手く行けばいいけれど、「なんだ、きさま!」とクビになる可能性も大いにあるわけでして。比嘉さんも「啖呵を切って失敗」談には事欠きませんから)
 そして、1992年、バルセロナ・オリンピックが開催され、スペイン語の通訳が大勢採用されることになり、そこからまた比嘉さんの語学の仕事が本格的に始まるのであるが、今度は「訳すのも反吐が出そうな」企業の親父の通訳ではなかったのでぴったりフィット。(余談ですが、反吐が出そうなことを訳すのは本当に辛い。通訳でも何でもない私でもごく稀に経験しますが、そんな時は「今の千倍スペイン語が出来ても通訳にはなれない」と痛感しますね)
 さらにはNHK BSでTVE(テレビシオン・エスパニョーラ:スペイン国営放送)のニュースの同時通訳の仕事も始まり、「ニュースの通訳は、とにかくきちんと訳せばいい」というところが「自分に合っている」とスペイン語とラテン文化にふたたび近くなる。が、そこで満足しないのが姉さんです。元々好きだった映画にもっと関わりたいと、NHK BSと平行してスペイン映画祭やメキシコ映画祭で仕事をしながら、1999年に自分の会社Action Inc.を設立。いよいよ映画の配給に本格的に挑むことになる!ちなみに、この時期(多分1997年)に青山の草月ホールで「メキシコ映画祭」があって、私は生涯忘れることのない映画「夜の女王(原題:La Reina de la Noche)」(1994 監督:アルトゥーロ・リプスタイン)を見た。ランチェーラ歌手のルチャ・レジェス(Lucha Reyes)の36年の短い生涯をフィクションを交えつつ描いた傑作映画だ。ルチャは美人で素晴らしい歌手で且つとても不幸な私生活の人。暗くて退廃的で絶望的に美しい映画。見ると死にたくなる。だから、一生忘れない。その映画祭に関わっていたのが比嘉さんだったのだ。しかし「夜の女王」はその後BSで一度放映されただけで劇場公開はなかった。「暗くて退廃的で絶望的に美しい映画」を公開に踏み切る劇場がなかったからだろうか。
この写真だとイメージはわかりにくいと思いますが、一応載せておきます。
lareinadelanoche.jpg
 Action Inc.が最初に配給した映画はキューバ映画の「永遠のハバナ」だ。これはハバナの庶民の普段の生活を淡々と描いた台詞がほとんどない映画。最後の方に出てくるあることに涙がこぼれる。音楽もシルビオ・ロドリゲスからバンボレオまでハバナに暮らすキューバ人の日常を彩る選曲が自然で素晴らしい。
suitehabana.jpg
 その後は、突然の民営化の波にさらされた90年代の鉄道員たちの厳しい現実をとらえた社会派ドラマ「今夜、列車は走る」(アルゼンチン)、軍事政権下の現実が8歳の少年の瞳を通して綴られる「瞳は静かに」(アルゼンチン)、突然失業したおばちゃんが生きるために奮闘する「ルイーサ」(アルゼンチン)、民俗植物学者の母とシングル・マザーの娘の関係を軸に老いや病を描く「グッド・ハーブ」(メキシコ)、南米唯一のル・コルビジェの家を舞台に繰り広げられるサスペンス・タッチのブラック・コメディ「ル・コルビジェの家」(アルゼンチン)、聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラが舞台のグランド・ホテル形式のドラマ「朝食、昼食、そして夕食」(スペイン)、女性シェフと二人の彼氏(?)が繰り広げるラブ・コメディ「地中海式 人生のレシピ」(スペイン)、大都会でそれぞれ別々に生きる若い男女の物語「ブエノスアイレス恋愛事情」(アルゼンチン)、サンパウロの片隅で閉塞感を感じて生きる男女3人の物語「聖者の午後」(ブラジル)等々の映画を次々に配給。「グッド・ハーブ」にはウルグアイの伝説的シンガー・ソングライター、エドゥアルド・マテオの「ポル・ケ?」が効果的に使われていたり、「朝食、昼食、そして夕食」では典型的なガリシアのパーティでガイタ吹きが出てきたりと楽しい発見もある映画ばかりだ。
 それぞれ、年代もシチュエーションも主題も様々だが、彼女が配給する映画を決めるポイントは「日本人が想像するステレオ・タイプなイメージを持っていないこと」だそうだ。例えば間もなく公開される「幸せのバランス」は最初のポイントに加えて「テーマは普遍的」→「描きにくいものを描く監督の心意気」→「私がやらなければ誰がやる!」という順番で決まったそうだ。
 Action Inc.配給の映画については比嘉さんの公式ブログ「ラテン!ラテン!ラテン!」が一番詳しいので、ご参照いただきたい。

 そして、6月14日から新宿ケイズシネマで公開されるのが、イタリア映画の「幸せのバランス」だ。ささやかな過ちから、安定していたはずの人生が壊れていく物語。今の日本社会にも充分に起こりうる切なく現実的な映画だ。6月14日(土)と15日(日)は家族2名以上で来場するか、家族の写真持参の人は「父の日を記念して、父の日記念家族割り」で当日料金が、なんと1000円になるそうです!映画の日より安い!
69_2.jpg
posted by eLPop at 14:41 | 高橋めぐみのSOY PECADORA