ラップ世代のミュージカル・マニアは、両親がプエルトリコ出身で、ルーツにメキシコも入っているというNYC生まれのラティーノ。19歳のときに創ったプロットと楽曲を幾度も練り直し、2007年オフ・ブロードウェイで開幕。翌08年オン・ブロードウェイ進出を果たし、三世代の共感を呼ぶ大成功作となった。
2009年グラミー賞・最優秀ミュージカル・アルバム賞を受賞。CD『イン・ザ・ハイツ オリジナル・ブロードウェイ・キャスト盤』が、来日タイミングでリリースされている。(Sony Music Japan SICP-2330〜1)
2010年初夏、映画化決定を受けLAでアンコール上演。日本初上陸が同年の夏で、4年後ついに日本版が完成した!というわけだ。
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いくら普遍的な家族とコミュニティの結束がテーマとはいえ、正直、日本のミュージカル・ファンにとって、スペイン語混じりの隠しネタ満載、ラティーノ群像劇を焼き直して伝えるのって、難しいんじゃね?と思っていた。だって、劇中の「ノ・パレ・シゲ・シゲ」(※もち、プロジェクト・ウノの爆発ヒット「エル・ティブロン」のフレーズ)に喜ぶなんて、当然限られた日本人だけだろうし、配役の世代やルーツごとに使い分けられるソン、サルサにメレンゲ、バチャータ……うまく日本版で活かせるのかね?と。
なんせLAのお客さんたちが、キューバ移民おばあちゃんの「ノ・パレ・シゲ・シゲ」に大笑いし、タクシー会社を営むプエルトリコ移民父ちゃんの差別発言に「ノ――!」と声を上げ、「酔ったチタ・リベーラ程度には踊れるよ」(※往年のラテン系有名女優)なんて台詞が、かなりウケたりしてたもんですから。
でも、そんな漠とした懸念は吹っ飛びました。本質を外すことなく、日本で理解されないであろう引用や下品なスペイン語の間投詞さえも敢えて削らず、丁寧にうまく織り込んで、「キーワードを知っていたらもっと面白いっすよ〜」てな、柔軟な訳詞と演出ぶり! もともとラップの歌詞や台詞って、聞き取りにくい。それが字幕なしで、ある程度きちんと聞き取れるというのは、かなり助かります(なんちって)。
オリジナルの設定に較べ、衣装が小奇麗でドレッシーすぎ(ほれ、いかにもラティーナっぽいピチピチムチムチ感ってあるでしょ?)、グラフィティ・ピートの振付が優美で少々違和感はありましたけど、これ以上の無茶は言いますまい。
不器用で誠実なウスナビ役のMicro兄さん(Def Techのメンバー、ミュージカル初挑戦なのにうまし!)、ヴァネッサ役の大塚千弘さん、美容室経営ダニエラ姐御を演じたマルシアさんが、特にオリジナルに近い味と歌唱力で、好感度大でした。LAで観たときの感興がたちまちよみがえってきたりして……。ま、LAではお客さんの一喜一憂そのものが、とっても興味深かったんですけどね。日本版の演出・振付は、TETSUHARU氏。日本語詞担当がKREVA氏だそうです。
そうそう、プエルトリコ自慢のピラグア・アイス売り、4年前のLA公演時の役者さんがとってもオツでした。さりげなく美声を響かせておいて、袖にハケる場面でブリッと太めのケツを振って踊る! あの粋な一瞬の仕草が大ウケしてました。もし日本版やることになったら、顔つきそっくりの“グッさん”で決まりだねー、なーんて勝手な話を交わしてたもんです。
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さーて、せっかくの機会なので、リン‐マヌエル・ミランダの一部蔵出しコメントをご紹介しときます。
(2010年6月25日、ロサンゼルスにて取材/協力:キョードー東京)
◆主人公のウスナビを、ドミニカーノに設定した理由は?
「僕の育ったワシントン・ハイツ界隈では、ドミニカ系住民が多数を占め、プエルトリカンはマイノリティだった。舞台設定から、ドミニカンにフォーカスしたんだ。しかも、ただドミニカンだけ、プエルトリカンだけなんてバラバラに分断するのではなく、さまざまなルーツのエッセンスを入れた作品にしたかった。
◆クラウディアおばあちゃんには、モデルがいた?
「キャラクターのほとんどが、脚本家のキアラ(・アレグリア・ウデス)と僕のファミリー周辺の人物のミックスだ。キアラは北部フィラデルフィアに育ち、僕はマンハッタン北部に育った。このストーリー自体が、僕たちから家族へのラヴレターみたいなもんだよね。
彼女が『イン・ザ・ハイツ』を観て、どう反応したかだって? 最初に彼女が言ったのは、あんたはこんなに私にお金をくれたけど(※劇中おばあちゃんが宝くじを当てる)、私を殺したね〜、だったよ(笑)。でも、このミュージカルが大好きと言ってくれた」
◆登場人物はみんな悩みを抱え、えらく恋愛下手だが?
「それは、僕が好きな映画やドラマやミュージカルが、ヒューマン・ドラマだから。悪人が口髭を撫で、これから悪事が起きると予感させるストーリーではないからね。僕らは作品を創るにあたって、誰もが苦難に立ち向かう現実を描きたかった。そして、ハリウッドがラティーノをドラッグディーラーや売春婦と形容してきた事実があって、今この瞬間もそんなステレオタイプの形容を続けているわけだが……それに対して僕の描くべきは、この不況の時代にそれぞれのビジネスを抱え、苦労しながら生きる人々だと」
◆主人公ウスナビも、ラティーノなのに口説き下手……まさかご自身の投影?
「ステレオタイプのイメージを壊して申し訳ないが(笑)、僕自身も彼に同じだ。みんながみんな、アントニオ・バンデラスじゃないからね。彼は、僕にとってスクリーン・ヒーローの一人だけど、『デスペラード』を観たとき、一生こんなふうに女の子に向かって喋れないと思ったよ。ラティーノでもシャイな男がいてもいい。僕はエンリケ・イグレシアスになれないし、ならなくていい(笑)」
◆ウスナビという名前は、ドミニカーノによくある? それとも、あのオチを狙ってつけた??
(※劇中、おばあちゃんの歌に……「おまえの名前の由来を思い出してごらん。あんたたち一家がやって来たときのことだよ。通る船を見て、赤ん坊に名づけたんだよ」とある。続けてウスナビ、「それで、US.NAVYってわけなの?」と、つぶやく。客席、ここでネタ割れして爆笑!)
実は移民局で働く友人が、ウスナビって名前の人がいるんだよ!と話してくれてねぇ。これだ!僕の作品のキャラクターに使える!と思ったんだ」
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もひとつ最後に、補足情報を。2008年に生誕から50周年を迎えたミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』は、翌年3月より新プロダクションを得て、ブロードウェイでリバイバル公演を行った。その際、オリジナルでも作詞をつとめたステファン・ソンドハイムが直々に指名。名匠ソンドハイムの依頼でスペイン語詞を手がけたのが、リン‐マヌエル・ミランダだった。
半世紀も慣れ親しんだファンの中には、かえって新たなスペイン語詞に違和を覚える向きもあるようだが、さすがに時代のほうが、不自然な歌詞に改変の必要性を痛感したのだろう。
2009年版『ウエスト・サイド・ストーリー ニュー・ブロードウェイ・キャスト・レコーディング』として、すでに日本盤CDもリリースされているので、ご参考までにどうぞ。(Sony Music Japan SICP-2294))


