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アルモドバルの映画と音楽(5)

2014.03.14

いよいよ最終日3/14の曲と映画です。
radiko.jpで全国どこからでも聞ける「RN2」の再放送22:20~には間に合いました。

今日は、アルモドバルの映画の中でも私が特に好きな2作が含まれています。
そして、日本でもヒットした「Todo sobre mi madre(邦題:オール・アバウト・マイ・マザー)」と「Hable con ella(邦題:トーク・トゥー・ハー)」は取り上げていません。私の身近でもスペイン映画やアルモドバルの映画にあまり興味がないが、この2作だけ、あるいは「トーク・トゥー・ハー」だけを見たという人が多いので、ぜひ他のもっとアルモドバルならでは映画を見てほしいという思いと、個人的な好みからそうしました。
映画の内容とは関係ありませんが、英語になったスペイン語のタイトルをそのままカタカナ表記で邦題というのはどうなのでしょうか。「オール・アバウト・マイ・マザー=私の母に関するすべて」と「トーク・トゥー・ハー=彼女に話して」という意味なのはわかりますが、なんだかしっくりきません。
英語ならいいの?

1.「Luz de luna」Chavela Vargas
映画「Kika (邦題:キカ)」(1993)から
「キカ」はそのアートっぽいポスターもかっこよく、見る前に「これは面白い映画だろう」という期待が高まる作品です。物語はメイクアップ・アーティストのキカ、その恋人のカメラマン、カメラマンの義父に当たる怪しい作家、殺人事件を扱うテレビのレポーター、さらには家政婦とその弟が織りなすドタバタ・ミステリー・コメディ。ゴルチェのデザインする衣装が鮮やかで奇天烈。さらにキカの部屋のインテリアもかっこいい。公開時の日本での評価はかなり低かったのですが、サイバーパンクっぽい衣装のレポーター役のビクトリア・アブリルが番組の自己紹介のシーンで「私は顔に疵のあるアンドレア」というところががすごくかっこよくてその台詞を覚えてしまったぐらいです。評価などはまったく意に介さず、私はこの作品が好きです。
そして、私の心の歌手、チャベーラ・バルガスが歌う「ルス・デ・ルナ」。夜のバルコニーで全裸の女性が歌うシーンで流れます。その女性のその後の運命が暗示されるような暗く美しいシーンです。チャベーラ・バルガスはメキシコを代表するランチェーラ歌手のひとり。出身はコスタリカですが、若い時にメキシコに移ったので多くの人にメキシコ人だと思われています。ゲイとして生き、2012年に93歳の天寿を全うしました。その波乱に満ちた一生を誰かに伝記にしてほしいです。彼女の歌は、圧倒的な迫力とガラガラとしか言いようのない声、上手さや美しさではなく「ただ、チャベーラが歌ってくれればいい」だけの「歌」であることに意味があるのです。

2.「Tonada de luna llena」Caetano Veloso
映画「La flor de mi secreto(邦題:私の秘密の花)」(1995)から
ペンネームで官能小説を書いている主婦が、留守がちの冷たい夫、親友、彼女に惚れる編集者等々と繰り広げるメロドラマ(?)。当時大人気だったフラメンコ・ダンサーのホアンキン・コルテスが主人公の妹(ロシー・デ・パルマ!)の息子役で出演しています。
曲は、先頃亡くなったベネズエラのシンガー・ソングライター、シモン・ディアスの大名曲「トナーダ・デ・ルナ・ジェナ(満月のトナーダ)」。歌うは日本でも超有名なブラジルのカエターノ・ヴェローゾです。彼は1994年に全編スペイン語で歌ったアルバム「Fina estampa」を発売し、翌年に同名のライブ盤を出していて、この曲はその中に収録されています。「Fina estampa(粋な男)」はペルーのチャブーカ・グランダの代表作でこのカエターノのアルバムの邦題も「粋な男」でした。

3.「El rosario de mi madre」Duquende con Manzanita
映画「Carne trémula(邦題:ライブ・フレッシュ)」(1997)から
アルモドバルには珍しく英のミステリー作家、ルース・レンデルの小説「引き攣る肉」を原作にした作品。二人の刑事、孤独な若者、ヤク中のお嬢様、刑事の妻、発砲事件、車椅子生活になった刑事、とサスペンスフルに展開する物語。ひとりの刑事の妻役のアンヘラ・モリーナが美しく哀しい女を好演して、とても印象に残りました。見終わった後にすぐに席が立てなかったほどです。
曲はペルーのムシカ・クリオーヤの名曲「エル・ロサリオ・デ・ミ・マードレ(母のロサリオ)」です。このバルス(ワルツ)はムシカ・クリオーヤの重要なシンガー・ソングライターのマリオ・カバニャーロがロス・トロベロス・クリオージョスのために書いた曲で、マリア・ドロレス・プラデーラが持ち歌にしてヒットしました。ここでは、カンタオール(フラメンコ歌手)のドュケンデがマンサニータのギターで原曲のイメージを大きく覆して、強烈なオリジナリティをたたきつけています。

4.「Quizás, quizás, quizás」Sara Montiel
映画「La mala educación(邦題:バッド・エデュケーション)」(2004)から
この映画はアルモドバルの半自伝的な作品と言われています。若くして成功を収めた映画監督の元にかつてに親友(で恋人)がいわくありげな脚本を手に現れます。監督役が(私は大好き)フェレ・マルティネスで、親友役は(みんな大好き)ガエル・ガルシア・ベルナルです。この二人が出ているのならあとはどうでもいい、というわけはなく、物語は彼等が過ごした神学校での暗い思い出、そして明かされる秘密。と、とても面白く良くできた映画です。フェレ・マルティネスはとてもいい俳優なのに日本ではあまり知られていないのが残念。アメナーバル監督の長編デビュー作「テシス」のオタク青年役など最高にかっこいいですが。
そして、曲は誰でも知っているキューバのオスバルド・ファレスの大名曲「キサス、キサス、キサス」。歌っているのはスペインの歌う女優、サラ・モンティエル。彼女は50年代にはハリウッドにも進出し、「ベラクルス」の中でゲイリー・クーパーの相手役を務めました。あまりにも有名な「キサス、キサス、キサス」ですが、サラ・モンティエルはかなり早くから歌っていたと思われます。このバージョンは、もう、まったりと濃厚に「いつ何を訊いても、あなたの答えは多分、多分、多分だけね」と歌っています。愛と裏切りの物語にぴったりです。

アルモドバルの映画音楽は、90年代半ばから、その多くをアカデミー賞にもノミネートしているアルベルト・イグレシアスが手がけています。この人は、「ナイロビの蜂」、「裏切りのサーカス」、「君のためなら千回でも」といったメジャーな映画の仕事もしている才人です。
しかし、今回聞いていただいた曲の多くはよい意味で「なぜこのバージョン?」という意外性がセンスの良さに繋がっているので、選曲には監督の意向が強く出ているのだろうと思います。最新作の「Los amantes pasajeros(邦題:アイム・ソー・エキサイテッド)」のタイトル通りのキラーチューンはポインター・シスターズですから。
posted by eLPop at 19:28 | 高橋めぐみのSOY PECADORA