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ペルー・アンデス・フュージョンの可能性(3)

2014.03.10

 アンデス音楽が都市に生きる若者たちによってどのように再構築されていったのか。そのフュージョンの歴史をチチャ、そしてロック側から追ってきたが、次はアンデス音楽自身がどのように展開していったのか、視点を逆のほうから見てみたい。
 アンデスに生きる若者たち自身がコレが新しい俺達の音楽だ!と提示する音楽は、必ずしもかっこいいとは限らない。いや、むしろなかなかそうはならない。しかし、それが絶妙によかったりするのである。それをダサいからダメということは簡単だ。しかし、ほんとにダメなのか?気がつけば口ずさんでいたりしないか?そのダサさを愛おしく思い返して皆で笑ってハッピーになっていないか?そういう懐の広さがこのアンデス・フュージョンには見られると思う。もちろん、かっこいいものもたくさんある。でも、個人的には絶妙に微妙なものこそズキュンときたりするのもまた本当のことである。とは言え、そういうキワモノばかりをいきなり紹介してもなんなので、今回は王道的紹介を中心にこのアンデス・フュージョンの最終章を語りたいと思う。

 アンデス音楽側からの代表的なフュージョンの試みとしては、たとえはマヌエルチャ・プラドによるプロジェクト・カビランドなどもあるが、なんといってもガイタン・カストロ兄弟らが中心となったワイノのロック化は大きかったといえるだろう。アヤクーチョのギター・デュオにネオ・フォルクローレとさらにロックを融合させた新しいスタイルは若者たちの心を捉え、アヤクーチョ音楽の新たなブームとなった。

 また、クスコからはネオ・フォルクローレとクスコ、アヤクーチョ音楽、それにロック、バラード音楽などを融合させた新しいワイノ・ロマンティカのスタイルを生み出したウィリアム・ルナなどがいる。こうしたバラード色を押し出すことで人気を博した歌手には、甘い声で多くの人の心を掴んだアプリマックの女性歌手ナンシー・マンチェーゴなどもいる。


 さらに、2002年に最初のアルバムを発表したオコバンバは、アンデス出身の3名にドイツ人女性ジェシカを加えた4人組で、ペルーアンデス音楽をベースににフラメンコやバラード、ロック、ネオ・フォルクローレなどを融合させた画期的なバンドだ。特に「メ・ティエネス・ロカ」はアンデスの田舎のカーニバル音楽を絶妙なアレンジで全く違う音楽へと生まれ変わらせているのが素晴らしい。彼らの作品の中でも出色の一曲だろう。

 また、アヤクーチョのワイノ歌手サイワの娘として音楽の英才教育を受けて活動しているダマリスは、バラードとアヤクーチョ音楽、そしてネオ・フォルクローレなどを融合させた楽曲を多数発表している。彼女のレパートリーを聴くと、アンデス・フュージョンの音楽世界が新たな次元へと移行しつつあることを予感させられる。

 その他、アンデス音楽とケチュア語をレゲエと融合させているインカ・ルーツやロック歌手ペペ・アルバ、アンデス音楽とアフロペルー音楽、そしてロックを融合させたデル・プエブロ・デル・バリオ(このバンドは80年代後半より活動している老舗のロック・フュージョンバンドだが)などのバンドも非常に面白いアンデス音楽フュージョンの可能性を感じさせてくれる演奏を展開している。

 更にアンデアン・ジャズの世界を模索するジェアン・ピエール・マグネトとセレナータ・デ・ロス・アンデスは、ジャズの大御所たちを中心に結成されたフュージョン・オーケストラとして独自の音楽を模索している楽団だ。そんなこんなでさまざまな面白い可能性を感じさせてくれるバンドや歌手が少しずつ増えてきているといえるのだ。


 最後に、個人的に大好きなアルパ(アンデス・ハープ)歌謡パランディータ、より一般的には「アルパのクンビア」の名で親しまれている音楽の愛おしい世界を紹介して終わりたい(ちなみに個人的には「女王(レイナ)系」音楽と呼んでいる)。アルパはアンデス音楽世界において重要な楽器でありながら、その奏者がギターに比べてより貧困層に多く見られたことから、アルパ音楽はペルーのアンデス音楽の中でもさらに閉鎖的な音楽となっていた。
 このアルパのクンビアは、リマへ移民してきた各地のアンデス住民たちのアルパ音楽がおそらく融合していくことで生まれた新たなアンデス音楽の一つと言えるだろう。エレキベースにエレキパーカッションとギロを伴い、歌手(多くの場合は女性でお姫様のような衣裳を着てティアラをつけていたりする)は演歌調の歌を甘く甘く歌う。ほとんどそこにクンビア的要素のない、つまり紛れも無いワイノ音楽なのであるが、彼らはこの音楽をアルパのクンビアと呼びたがる。確かに中にはロス・マタドーレス・デ・アルパなどのように時にはクンビアを実際にアルパでやるグループもいるが、それはどちらかと言うと少数派だ。この音楽は永らくペルー各地のドサ周りで人気を集めてきたが、2000年代に入りにわかに注目を浴び、その代表的な歌手であったディナ・パウカルの成功物語がTVドラマ化され人気を博すなど、一気にペルーの音楽市場の表舞台へと躍り出た。

 そんな沢山の女王様たちの中の一人に、ラウリータ・パチェコという自身がアルパを弾きながら歌う歌手がいる。アルパを弾き語り女性歌手というそれ自体が異色なのだが、彼女は「アルパのレゲトン」と言いながらダディー・ヤンキーのヒット曲「ロ・ケ・パソ・パソ」をレゲトンを織り交ぜたワイノでやるという離れ業を行なっている。確かに「ロ・ケ・パソ・パソ」だ、と思うのもつかの間、歌が始まると何のことはない、いつもどおりのワイノで、サビだけが再び「ロ・ケ・パソ・パソ」だったりするのだ。でも、そういうところも含めて本当に愛おしいのがこのアルパの女王たちの繰り広げるファンタジーの世界なのだ。

 ペルーのアンデス・フュージョンの可能性と言いながら、最後にこんな話で終わっていいのか、という気も若干しないわけではないのだが、それでも彼らにとってはこれはクンビアでありレゲトンである、という意味ではこれもフュージョンなのだろう。たとえ我々にはなかなかそうは聴こえなくても。そしてこうした音楽の越境が彼らの閉鎖的で内旋的なアンデス音楽世界に新風を取り込み、アンデス民衆音楽を年寄りの音楽と言わせない、新たな飛躍のための力となっていって欲しいと思いながら、時に素っ頓狂で粘着質なアンデス音楽の魅力にますますはまっていってしまうのである。
posted by eLPop at 01:49 | 水口良樹のペルー四方山がたり