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ラテン音楽Webマガジン"eLPop" キックオフ・パーティ◆紹介曲

2014.02.23

 2月21日は、eLPopのキックオフパーティにたくさんのご来場いただき有難うございました。おかげさまで非常に刺激的で楽しい夜を過ごすことが出来ました。
 ペルー音楽担当の私は、ペルー音楽との出会った時期に心奪われた名曲2曲と、今より多くの方に聴いて欲しいイチオシの曲を2曲選ばせていただきました。よろしければこの機会に手にとって聴いてみて欲しい素晴らしい曲です(と自画自賛)。
◆「愛聴ウン十年!?私が惚れ続けるラテン・ナンバー」

1. Los Amaru de Tinta  "Hermoso Tinta" [huayno cusqueño]
 ロス・アマル・デ・ティンタ 「エルモソ・ティンタ(麗しのティンタ)」(ワイノ・クスケーニョ)
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 インカの首都クスコ近郊の町ティンタの老舗コンフント、ロス・アマル・デ・ティンタの代表曲、エルモソ・ティンタ。クスコ地方のチャランゴが心ゆくまで満喫できる数少ないコンフントの一つだ。クスコは、音楽的には豊かな地域でありながら、アヤクーチョやアンカシュ、ワンカーヨなどに押されて音楽的知名度は決して高いとはいえない。そんな中でも比較的知名度もあり、非常に洗練されたクスコ地方のミスティ(アンデス地方都市のメスティソ層)の素晴らしいワイノが聴けるのがこのコンフント。アヤクーチョ地方のような泣きのコブシやアンカシュなどの伸びやかな疾走感はないが、クスコ地方の牧歌的で優しい曲の響きは病み付きになる要素を持っている。とくにこのコンフントの男性コーラスと絶妙なチャランゴとギターの絡みで演奏されるワイノは絶品と言っていい。ティンタ出身の英雄、インカ王の末裔として植民地政府に反乱を起こしたトゥパック・アマル二世の地である誇りを高らかに歌い上げている。カセットテープが擦り切れるまで聴いた大好きなコンフントだ。ちなみに、ワイノとはアンデス地域で広く演奏される音楽形式で、地域差や階層差がはっきりしているため、故郷のワイノを聴けばその人の出自がわかるというほどアンデスの人々に根ざした音楽だ。



2. Nicomedes Santa Cruz y su conjunto Cumanana "Mandame quitar la vida" [marinera limeña y resbalosa]
 ニコメデス・サンタ・クルスとクマナナ 「マンダメ・キタール・ラ・ビダ」(マリネラ・リメーニャとレスバロサ)
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アフロペルー音楽復興に尽力した偉大なる詩人ニコメデス・サンタ・クルスの代表作であり、アフロペルー音楽史においてもっとも重要なアルバムでもある「クマナナ」(1964年)に収録されたペルーの国民舞踊マリネラの名曲。アフロペルーの音楽文化復興を目指す中でニコメデスが重要視した一つのレパートリーがマリネラ・リメーニャ(リマ風マリネラ)だ。ペルーの首都リマは、もっともアフロ色が強いマリネラが残っているとされる地域でもあり、バリオ(下町)のパーティなどでは、即興で歌われるコプラ(四行詩)形式の歌の掛け合いに乗せて、踊り手のペアもハンカチを片手に粋に踊ったものだった。そうした古きよきマリネラを復興させようと録音されたのがこの「マンダメ・キタール・ラ・ビダ」だ。当時最高のアフロ音楽家が集まって作っただけあって、のっけからギターの渋いベースとガンガン容赦なく叩かれるカホンの応酬がビンビン心に響いてくる。そしてそのギターとカホンの掛け合いにのせて野太くも伸びやかな声が歌い始めるともうすっかり心はこの曲の虜になってしまう。そんな風にこの曲と出会い、以来、事あるごとにこの曲を聴き続け、聴くたびに今なおノックアウトされ続けている。そんな曲だ。そして後半さらにレスバロサと呼ばれるより激しい音楽へとスイッチしていくとその興奮はもう青天井に上り詰めて昇天してしまうのだ。ぜひ、マリネラ・リメーニャの粋で渋い世界にどっぷりとハマって欲しい、そう切に願ってこの曲を紹介した。


◆「今この時代に聴くべきラテン・ナンバー」

3. Estrellita de Pomabamba "Nuestro error" [chimaychi]
 エストレジータ・デ・ポマバンバ 「私達の過ち」(チマイチ)
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ペルーの北部アンデスの音楽の中心地とも言えるアンカシュ地方のマイナーな民謡の一つにチマイチと呼ばれる音楽がある(決してイマイチではない。間違えないように!)。アルパ(ハープ)とバイオリンにのせて歌われるそのスタイルは他のアンカシュ近郊の風景と一見変わらないのだが、問題はそのメロディだ。他のアンデス音楽とは違う面妖な雰囲気、敢えて言うならアジアを想起させるような独特なバイオリンの前奏に畳み掛けるようにテンポの早い歌が紡がれる。ワイノの亜種でありながら、これほど雰囲気が変わる曲もあるのだと初めて聴いた時には非常に驚いた。
 今回ご紹介した「ヌエストロ・エロール」は、エストレージャ・デ・ポマバンバ(ポマバンバの小さな星)の名前で知られるポマバンバを代表する女性歌手、ニラ・ビヤヌエバ自身の作曲によるチマイチだ。彼女の代表曲としても知られた往年の名曲だが、チマイチ自身は辺境の民謡の一種として彼女が活躍した当時はそれほど注目されなかったようだ。他にも古い音源などでたまにチマイチを聴くこともあったが、その数は非常に少なかった。それが2000年代に入ってチマイチを武器にアンデス音楽界で注目を浴び始めた歌手が誕生した。その歌手マリッツァ・メサの活躍によってチマイチは以前よりも知名度は徐々に上がっているように思われる。チマイチの今後の飛躍を願って、この音楽の最も有名な曲、エストレジータ・デ・ポマバンバの「ヌエストロ・エロール」を紹介させていただいた。

4. Perú Negro "Cañete" [festejo]
 ペルー・ネグロ 「カニェテ」(フェステホ)
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ペルー・ネグロと言えば、1969年結成というアフロペルー音楽で最も長いキャリアを持つ楽団であり、アフロペルー音楽にスタンダードをもたらし、踊りのスタイルを革新した、まさに「伝説」の楽団である。つねに舞踊団とともに活動する彼らのステージは非常に魅力的でいつか来日してほしいものだと思うのだが、なかなかその夢はかなわない…。
 そんなペルー・ネグロも今はロニー・カンポス率いる二代目の時代。しかしながら、ますますハイブリットにその洗練は研ぎ澄まされ、聴く人を虜にする魅力を持つ、まさにアフロペルー音楽を今なお新境地へと誘ってくれる、そんな素晴らしい楽団だ。
 このカニェテは彼らの新作フェステホの名曲で、2007年に発表されたアルバム「サンバ・マラトー」に収録されている。古いフェステホから聴いてきた人は、フェステホはついにここまで来たか、と感慨深いし、初めて聴く人にもその比類なきかっこよさは一気に心をえぐり取ることだろう。カホンを中心にコンガ、ボンゴ、そしてカヒータというアフロペルー特有の打楽器などによるポリリズムに乗せてギターとベースが始まるだけで、これはなにかすごいのが来るぞという気持ちにさせられる。そしてマルコ・カンポスのリードで歌が始まりコール&レスポンスが展開される頃には、やっぱりペルー・ネグロ最高という気持ちでいっぱいになる。ぜひその感動をあなたも味わって、ペルーのアフロ音楽の素晴らしい世界へと分け入って欲しいと願うばかりである。
posted by eLPop at 22:58 | 水口良樹のペルー四方山がたり