2025年初にリリースされたバッド・バニーの『DeBÍ TiRAR MáS FOToS』は発売翌日26か国で再生回数10億超えのトップになり、7月から9月にプエルトリコで31回行われた「No Me Quiero Ir de AquíーResidencia」公演は60万人を動員。続く中南米公演を含め計260万のチケットが売れているという、前例のない数字を叩き出している。
Bad bunny dtmf video official
https://youtu.be/v_Tgq5OUrmE?si=5IzkhO1Lgj90R67D
今年3月に行われる、全米で最も視聴率の高いエンタテインメントの「NFL ハーフタイムショウ」への出演と「スペイン語のみでのパフォーマンス」という宣言は、アメリカの白人至上主義方面/トランプ支持者方面から文句を受けているが、NFL側は無視なので、この快挙は今のところ実現しそうだ。
上はインスタで「バッド・バニーのNFL公演はなんで大事か?!」を発信する例のひとつ。ほんとうに色々な意見が表明されていてアメリカの理解に役立つ。
これらの個別の事も十分快挙なのだが、一連の出来事から色々な事が動き始めている事がより重要かと思う。
プエルトリコの豊かさを見直そう、というアルバムとコンサートのメッセージは今、島と本土のプエルトリカンの意識を揺さぶり、報道やSNSでは色々な動きが生まれている事が分かる。
また、ヒスパニックの人口がアメリカの2割に達し、様々な社会問題のはけ口がヒスパニックを筆頭とする非白人や移民に向かっている。バッドバニーの態度の表明は、憎悪や差別に置き換えようとする動きが今後どうなっていくのかを見るための、一つの事象となっている。2025年は個人的には今年はそんな点からあちらのニュースを追っかけた年だった。具体的にどんなことを追ってたのはこんな感じ。
■プエルトリコ固有の音楽とその歴史の見直し:ボンバ、プレーナ、ヒバロからサルサ、レゲトン(old school)まで、今までに増して若い世代が音を作り始めている。
例えばこのミサエル・ゴンサレスのグループとカルロス・カルデロン率いるカイコのコラボとか、ボンバに限らず他にもたくさんの動きが増えている感がある。
-REPÓRTENSE- Misael González & El Batey Botánico X La Bomba de Caiko
https://youtu.be/docuZAg6b_w?si=MoNE5QkwNbvewSE1
バッド・バニーがアルバム/コンサートでフィーチャーした若手ミュージシャンはと周辺の活動は各々、Tiny Desk出演やまたYoung Mikoのように単独でスタジアム公演を成功させたり、Vogue誌やピッチフォークのアイコニックな記事の対象となったりと、シーンが広がる起爆剤となっている。
Young Miko - Likey Likey
https://youtu.be/8wQBHfpa2K0?si=myJa73giVes0qPwB
チュウィも見逃せない。
"GUERRA" - CHUWI
https://youtu.be/6ca5mpw1QKc?si=-SWvibRhJWZK0wMv
従来トラップやエレクトロ、そして近年サルサを取り上げていたラウ・アレハンドロがボンバまで行きついているのも、近年のストリートのボンバ指向に沿ったものでもあるが、バッド・バーニーの作った空気と無縁ではないだろう。様々な個性がプエルトリコ固有の音にチャレンジしている。
Rauw Alejandro - Carita Linda
https://www.youtube.com/watch?v=WdSGEvDGZAo...
■英語ONLYの話者に対して、スペイン語の勉強を強く勧めるSNSに加え、プエルトリコ独特のスペイン語についての解説だけでなく、ラテンアメリカの様々な国から「アメリカ合衆国/世界で誤解されている/意識されていない、ラテンアメリカの歴史や実態」を説明するSNSが激増している。
上記はプエルトリコ特有の単語や言い回しを解説してくれるSNSの一つ。スペインのスペイン語との比較やアラブ起源、タイノ起源などの言葉の解説があったりで、カリブの混淆を提示することによって、分断のばからしさ、無意味さを感じさせてくれたりする。
プエルトリコからだけでなく、全てのラテンアメリカから「自身は/自分の国の人たちはどういう人か」というような発信もこの1年本当に増えた。上記はドミニカ共和国から。「自分は「黒人」じゃなく「ドミニカ人」だという意味を語っている。
■観光資源の再構築やSNSでの発信も相当増え、プエルトリコでは観光収入が増加している。
■従来諦め半分・現状追認的だった「未だに植民地」のプエルトリコの制度・法律の修正要求の機運が高まっている。
などだ。この傾向値が今後どんな風に動いて行くのか、音楽にどう影響するのか、日本の様々な出来事とどう重ねて考えていくのか、ちょっと楽しみです。
【2025年の訃報の一部】2025年、様々なラテンの素晴らしい音楽家たちが空へ。
いずれもただその音楽に感謝するばかり…
■ルビー・ペレス(4/8, 69):メレンゲ歌手。ライブ会場の天井崩落で逝去
■フラコ・ヒメネス(7/31, 86):テハノ・ミュージックの巨星、アコーディオン奏者・歌手
■エディ・パルミエリ(8/6, 88):ラテンジャズ〜サルサの巨星、ピアニスト、作品曲家、バンドリーダー
■エルメート・パスコアル(9/13,89):プラジル音楽の巨人。
■ラファエル・イティエール(12/6,99):コルティーホ・バンド出身、エル・グランコンボのリーダー、ピアニスト
■パポ・ロサリオ(12/12, 78):エル・グラン・コンボを近年まで支えた素晴らしい歌手の一人。
【本】最後に、エルポップ・メンバーが関わった2025年の本の事を。
●『都市のリズム』石橋純、伊藤嘉章 編著(鹿島出版会)2025.10.15
世界の都市とその街に関係する音楽についての18のエッセイ+2つのインタビューやコラムで構成した本。
石橋純さんと共に編著者として作り、eLPopメンバーの水口良樹、高橋めぐみにも寄稿頂きました。宮田信へのインタビューも掲載。
石橋さんはNYのワシントン・ハイツの事を、伊藤はパナマ〜プエルトリコのレゲトンの事と、NYのジャズとヒップホップの事を、水口さんはリマとムシカ・クリオーヤの事を、高橋めぐみさんはビーゴとガリシア人の音楽の事を、各々エッセイにしています。
●『ゼロから分かるラテン音楽入門』伊藤嘉章、岡本郁生監修(世界文化社)2025.10.15
15年ぶりくらいのラテン音楽総合入門本。とはいえ、初心者からベテランまで楽しんで頂けることを重視しました。QRコードつけて関連の音が直ぐに聴けるようにしたり、15年間に起こったレゲトンからトラップまでもカバーし、日本とラテン、ジャズとラテン、クラシックとラテンなど色々な視点の章も用意。
eLPopよりは、岡本&伊藤の執筆に加え、高橋政資(キューバ)、高橋めぐみ(映画)、山口元一(コロンビア)、水口良樹(ペルー)、宮田信(チカーノ)の寄稿も。
幸い、ミュージック・マガジン、Intoxicate、レコードコレクターズ、Jaz.inなどで良い評価を頂きほっとしています。
●『日本から考えるラテンアメリカとフェミニズム』水口良樹、柳原恵、洲崎圭子編(中南米マガジン社)
ラテンアメリカのさまざまなフェミニズムの運動や実践を取り上げた本。伊藤も少し音楽の所で参加しました。
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