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アルゼンチン、そしてブラジルの吟遊詩人

2024.12.12

◆アルゼンチンの吟遊詩人は大草原に歌う…

 なんだかんだ言って、吟遊詩人の伝統が今なお重んじられるアルゼンチン。なんせ国民文学と謳われるホセ・エルナンデス(1834―1886)著『マルティン・フィエロEl Gauho Martín Fierro』は、反骨の吟遊詩人パジャドールがギター携えて紡ぐ詩歌によって語られる苦くも哀しいストーリーなのだから。即興の詩形にはデシマ(十行詩)、コプラとも呼ぶクアルテータ(四行詩)、セギディージャ、ロマンセ、そしてデシマの一種セステートなどがあるという。時代は移ろえど、マルティン・フィエロの人物像とは大草原パンパで19世紀に栄えた伝統の即興芸パジャーダを体現する、放浪牧童ガウチョのシンボルであり続けるのだろう。

 1968年アルゼンチン制作の映画『Martín Fierro』全編をYoutubeで観られるのだが、残念ながら歌のシーンの音声のズレがどうにも気になって……。代わりにご紹介したいのは、別の歌対決コントラプント白眉のシーン。制作年不詳だが、スペインrtveによるTVドラマシリーズ『Martín Fierro』内の名場面。ヒゲのミロンガ弾きが主人公マルティン・フィエロ。相手方は近年“アフロアルヘンティーノ最後のパジャドール”と認識されているそうで、この演者はベネズエラ人とのこと。

Payada de Martin Fierro (de la serie de rtve)

https://www.youtube.com/watch?v=6Cd50JfSBig

定義はともかく、巨匠アタウアルパ・ユパンキ(1908―1992)の弾き語りを“20世紀最高の吟遊詩人”と呼ぶことをためらう理由はない。20代の頃ユパンキの国内盤を聴き漁り、幸い1976年の来日公演とファンの集い(みたいな催し?)にも巡り合えたが……そも前世紀の録音物や放送媒体の尺には限界があるし、世界を旅した大物アーティストの演唱にどれほど自由な即興成分が含まれていたのか判らない。

ただ、2014年に帯・解説付きで日本国内盤として紹介された2000年作『こんばんは、同胞たちよ〜ライヴ1983(原題:Buenas noches, compatriotas…)』はお薦め。ユパンキの語りと朗誦入り、珍しい至芸が味わえる1983年マルデルプラタ、ラディオ・シティー劇場での公演を収録したアルバムだ。当然ながら、言葉を完全に理解し合える同胞=観客相手だからこそ成り立つ空気感なのだろうが。

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ユパンキを心から敬い、母国でのユパンキの葬儀にもっとも身近なところで立ち合った社会派のパジャドール、アルヘンティーノ・ルナ(1941―2011)。生粋のパジャドール・スタイルで国内外を旅し(1993年、パジャドールをこよなく愛した高野太郎さんの招きで来日)雄々しき美声で高い人気を誇ったアルヘンティーノ・ルナ。以下は2009年コスキン祭のステージ、当時19歳の若きパジャドール、ニコラス・メンブリアーニとの共演映像。

Argentino Luna y Nicolás Membriani en Cosquín

https://www.youtube.com/watch?v=omAvY2crHe0


◆ブラジルの即興芸人ヘペンチスタ

 即興混じりの吟詠を披露する芸人たちを、ポルトガルとブラジルでヘペンチスタ(レペンティスタ)repentistaと呼ぶ。彼らは口承文芸や、印字されたコルデルという大衆向けの冊子に基づく説話を広め歩いていたという。詩形は多種多様、主に内陸部ではヴィオラ(複弦ギター)弾き語りで歌われる。

北東部のヘペンチスタを特別にカントリアcantoriaと呼びならわし、民俗事典によれば他にも南部リオ・グランジ・ド・スール州ではトローヴァtrovaといい、ミナス・ジェライス州北部地域でジョガール・ヴェルソスjogar versos(言葉遊びの意)、中西部ではチラール・ヴェルソスtirar versos(前者とほぼ同義)と呼ぶ地域もあるそうだ。ちなみに文化圏が同じ南部リオ・グランジ・ド・スール州では、トローヴァの芸能者をトロヴァドール、またはアルゼンチンやウルグアイに並びパジャドールともいう。

 以下はプロとして活躍するエロマール、ジェラルド・アゼヴェード、ヴィタル・ファリアス、シャンガイ、4人の演唱を収めた懐かしいライヴ・アルバム。カントリアと呼ばれる北東部の、ノスタルジックな趣きを存分に味わっていただけるはず。

Cantoria 1 - Elomar, Geraldo Azevedo, Vital Farias e Xangai

https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=DJMmoWcsACk&t=0s

 もちろんサンバの中にも固定した歌詞以外に、即興の掛け合いを楽しむ場面は散見されるわけだが、ここで例に挙げたいのは再び北東部ノルデスチ。ペルナンブーコ州出身の名コンビ、カジュー&カスターニャの伝統芸! 人気TV番組出演時のパフォーマンスで、左側のカジューは2001年に37歳の若さで他界。彼らの存在は子供時代の録音物がレニーニのアルバムでコラージュされたのをきっかけに、1990年代ノルデスチ・ブームを通して脚光を浴びた。二人揃っての最後のパフォーマンス披露は、1999年のアブリル・プロ・ロックの大舞台だった。

 結果としてギリギリの1997年、目の前であっさりその天性の即興芸を拝めてしまったのだが……いかんせん独特のペルナンブーコ訛りと息を呑む早口の技は、さすがに稚拙な語力じゃほとんど聞き取れんかった。せっかく周囲の土地人から「日本から来たキミのことを織り込んでくれたんだよ」と言われたが(無理無理…涙)。

 なお、他のTV出演でのインタビューによれば「ノルデスチの即興芸のうち、私らみたいにパンデイロで演じる掛け合いをエンボラドーリスemboradoresという。一方でヴィオラによる演唱者をヘペンチスタと呼ぶ」とのこと。彼らコンビの得意とするのはココcocoの音楽スタイル。テーマの作者は別にいるものの、ほぼ即興芸らしい。えーっと……ごめんなさい、やっぱり中身はほとんど聞き取れまっしぇーん(乾いた笑い)。

Caju e castanha - o crente e o Cacheceiro sogra boa. Sogra ruim

https://www.youtube.com/watch?v=KS0L-KCI7AY



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