1.プレーナ
プレーナはボンバと並ぶプエルトリコのアフロ系リズムの音楽で、楽器は手で持てるタンバリン的なハンドドラム(パンデレータ、パンデーロなどと呼ばれる)を使う。
文献等で遡るには限界があるが19世紀には形になっていたと言われる。島の南岸ポンセへの英領からの移民(セントトーマス、トルトーラ、セント・クリストファーなどから。イングレセス(ingleses)、トント(tonto)、トルトリートス (los tortolitos)ココロス(cocolos) などと呼ばれた人たち)が持ち込んだものが原型と言われたりする。
プレーナの名前の起源も諸説あり、演奏の時に“Play Ana”とか”Play Now, you Play Now”とはやしたのが「プレーナ」となったとい言われてたりする。一方でハンドドラムの形は中東のレクなどが遠い祖先とも言われていて、その場合スペインやカナリー経由の移民とも関係ある可能性もあり、実際の所よくわかっていない。
「歌う新聞」との別名があるように、その時の事件や噂話、物語などを即興の詞を紡ぎながらハンドドラムで歌い、街から町、村へと回る。
歴史的には20世紀初頭からのJocelin Bum Bum OppenheimerやSindo Mangual Oppenheimer、John Clerk & Cathelin George, Carolなどの先人の演奏が文献や映像に残っている。下記の映像では7:55くらいからがプレーナでその内8:30くらいからがBum Bum Oppenheimerが即興で詞をつくり演奏している映像となっている。
La Plena puertorriqueña
https://youtu.be/c_yDJg7H_Go?si=rYzE9X5gP415TXwB
その伝統は受け継がれ、1940年代のマヌエル・"エル・カナリオ"・ヒメネスの諸作には町の出来事が多く描写されており、またプエルトリコの名作曲家ラファエル・エルナンデス(1892-1965)のプレーナの作品<テンポラル>は「ハリケーンがきたぞ、どうなるんだプエルトリコは」との描写があったりする。
Temporal
https://youtu.be/hJb_0K3Uawk?si=Nd7IEOwh3MVaonVq
ハリケーンで何度も大被害を受けた当地ならではの歌だ。筆者が住んでいた当時、ハリケーン近づくとご近所のみなさんは大量の水、食料、ビールやラムまでをスーパーで買い込み準備する。幸い直撃を免れた場合は買い込んだ物の処分の大宴会となり、プレーナで<テンポラル>歌い大いに盛り上がった事もあった。「どうなるんだプエルトリコは」という歌詞の答えは「ハリケーンが来ないと宴会になる」ということがわかった。
(だが来ると本当に被害が大きい)
1990年代後半の第3次プレーナブームの時に登場した若いグループ「プレーナ・リブレ」は丁度その頃普及し始めた携帯の事をすかさず恋愛の歌に取り込みヒットとなったが、とてもプレーナらしい。
プエルトリコのカーニバル的な1月の「Fiesta de la Calle San Sebastian」でも多くのプレーナ隊がキューバのコンパルサと同様に練り歩き即興で歌を歌う。
Canta mi pueblo... sanse 2015
https://youtu.be/JYQm1PyFI90?si=I9hKwTbu9EXEBCG7
政府への抗議から、当地出身のオリンピックのメダリストやの大リーガーの凱旋パレードなどにも必ずプレーナ隊は登場し、その場の即興で抗議の歌や、賞賛の曲を作って練り歩く。
下記は2年前の経済危機時の教員給与&教員数削減に対する抗議行動。1:06あたりでプレーナのデモ隊が登場。即興で抗議歌詞を作り歌う。
Miles de personas protestan de nuevo en San Juan para pedir mejoras laborales
https://youtu.be/5y1HRkcpkoc?si=a3ATVnlh3zlrJ94c
という感じでプレーナの吟遊詩人は現代にもしっかりと生きている。
2.ヒバロ音楽
ヒバロはプエルトリコの丘陵/山岳地帯の基本スペイン系移民が祖先である農民の呼び名。
ビバロのイメージ
音楽はスペイン系のさまざまなものがローカル化している。楽器はプエルトリカン・クアトロ(復弦5コース)、ギター、グィロ(サルサ用より刻みが細かくブラシ状のスクレイパーでこする)、ボンゴなどを使う。
リズムはシンプルだがやはり微妙にアフロ感も染み込んでいる。
歌はスペイン系。子守歌はスペインの古い詩形の「セギディージャ」(音節が7・5・7・5の四行詩)でメロディーはフラメンコでおなじみのスパニッシュモード(旋法)(ミから始まるフリジアンモード)だったりする。
またクリスマスに歌われる「アギナルド」、踊りを伴う多様な「セイス」などがあるが、このセイスには即興で詞をひねり出し歌うものがある。「セイス・デ・コントロベルシア」(歌試合のセイス)と「セイス・コン・デシマ」(十行詩のセイス)だ。どちらもトロバドール(吟遊詩人)が即興詩の技を楽しませてくれる。
即興詩はデシマ(脚韻を踏んだ十行詩)の形で歌われ、その詩形は脚韻を ABBA/ACCDDCという形を守って歌わなくてはいけない。詩形も韻も考えて即興で歌うこと、そして気の利いた内容を即時に考えないといけないのはなかなか大変。このデシマの伝統はスペイン語圏にはよくあり、アルゼンチンのバジャドール、チリのプエタ、キューバのレペンティスタなどに共通する。
その中でプエルトリコがユニークなのは2点。
一つはこの吟遊詩人/トロバドールの伝統が近年益々盛んになっている事だ。
1940-60年代には"チュイート・エル・デ・バヤモン"(ヘスス・サンチェス・エラソ)、ラミート(フロレンシオ・モラレス・ラモス)など多くの名人が腕前を披露し、レコードやTV番組の映像が残っている。
下記は名人チュイート(白いスーツ)がヌエバ・トローバの最重要歌手"エル・トポ"(アントニオ・カバン・バレ)(黒いシャツ)とTV番組で歌試合をやっている映像。クアトロは名人マソ・リベラと大変豪華な出演者。
マソ・リベラのアドリブの間に次に歌う側が「さて、何を言ってやろうか」と考えてる風なところも見もの。これがTVで放映されてるわけで、いかに伝統が庶民の中に生きているかわかる。
CHUITO Y EL TOPO parranda controversias
https://youtu.be/gWAVAFgUTQY?si=DxcCyIly4I27EDWZ
実際、現在まで山間の"ヒバロ地帯"の多くの街で「歌試合」(Concurso de Trovadores)が年1回開かれていて、賞金$10,000(150万円)とか気合が入っている。下記はそのポスターの数々。
そして全国大会もある。下記映像は1984-1998のチャンピオンが一堂に会して歌試合をするという豪華版。この名勝負のCDも発売され良く売れた。
ENCUENTRO DECAMPEONES TROVADORES BACARDI 1984 1998
https://youtu.be/1SVlYFT6FKw?si=esh1TSUaNtMtLVKU
毎年やっている歌試合全国大会、これは去年の決勝。
Waldo Torres vs. Humberto Martínez (Bacardí 2023)
https://youtu.be/ODxvwDAKhtc?si=V2OyrFyu9VwK5zxb
また中南米のデシマ国各国からトロバドールを招きその歌を競うイベントも長く毎年行われている。下記は今年のポスター。メキシコ、ウルグアイ、アルセンチン、チリ、コロンビア、スペイン(カナリア諸島)から即興詩人が集合する。
ちなみにこれを毎年企画・開催しているのは「DECIAMNIA(デシマニア)」というデシマのマニアを自負する団体だ。世の中にはいろんなマニアがいる。
もう一つのプエルトリコのユニークな点は、サルサと強く結びついている事だ。
ヒバロ音楽で即興が出来る人をトロバドールと呼び、普通に歌う人はカンタドールと呼んで区別するが、サルサでも即興で歌詞を紡げる歌い手を「ソネーロ」と呼びその即興を「ソネオ」と呼ぶ。通常の歌手はカンタオール/カンタンテだ。
60年代後半にサルサが出来るのに中心的役割を果たしたファニア・レーベルのファニア・オールスターズはほとんどがプエルトリコ人であることは知られているが、歌手が即興のできるソネーロ揃いだったのは、ヒバロ地帯(山間や農村)、またはヒバロ地帯をすぐ背後にもつ地域(ポンセ、アレシボ等)で育ち、脚韻を駆使しながら即興が出来る為だった。NY育ちでも親との帰省先がヒバロ地帯であることも多い。
チェオ・ファリシアーノ(ポンセ)、エクトル・ラボー(ポンセ)、イスマエル・キンターナ(ポンセ)、サントス・コロン(サバナ・グランデ(山間))、イスマエル・ミランダ(アグアダ、農村)、アダルベルト・サンティアゴ(シアレス(山間))、ピート・エル・コンデ・ロドリゲス(ポンセ)…
チェオやラボーは実際子供の頃からヒバロ音楽に親しみ即興で歌って小銭を稼いでいたことを語っている。
そのことは、即興が出来るという詩形作りの技術の話で話だけではなく、庶民として庶民の心を持ち、その心に響く様な詩の内容を瞬時に作れるということが重要だろう。
その意味でサルサのソネーロも吟遊詩人であり、またサルサを中心に庶民の心に響く名曲をたくさん書いたティテ・クレ・アロンソも吟遊詩人の系譜に入れても良いかもしれない。「アナカオーナ」「プランタシオン・アデントロ」などなどサルサ好きな人はティテ・クレの曲を必ず聞いているはずだ。
なぜプエルトリコがサルサ誕生のキーであるというのはこういうところにもあるのだ。
そういう意味では、レゲトンがプエルトリコで発生したのも、即興でライム(韻を踏んだ歌詞)でフローをつくる同様の要素が周囲にある伝統と関係していることもあるだろう。
最後に、トロバドールとレゲトン歌手(レゲトネーロ)の歌試合の映像を。地元ラジオ局が企画したものだが、こういうことをやってリスナーも面白がるところに、プエルトリコに脈々と流れる吟遊詩人の系譜を感じるところだ。トロバドールはヒバロ音楽の名門サナブリア家からフリオ・セサル・サナブリア、対するレゲトネロはフローの上手さで定評のあるヨーモ。番組タイトルは「"トロバトン"の戦い」
Tiraera en El Trovaton: Yomo vs Julio Cesar Sanabria y Waldo Torres en El Circo de La Mega
https://youtu.be/o7Zaipmgip8?si=xwvP3scbtpYPd6UT
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http://elpop.jp/article/191144018.html


