しばらく活動を中断していたが、2019年に再出発。カリプソ、ブラジル音楽、クラシックと、メンバーの出自である音楽ジャンルはもちろん、既存のジャンルにとらわれない、心地よくもオリジナルな楽曲を丁寧に磨き上げているユニットだ。2022年5月にははそんな彼らのオリジナル作品10曲を集めた1st アルバム《どこかの街角で》をリリース。ポルトガル語で「街角」を意味するバンド名の通りライブハウス、カフェ、レストランなどに限らず、お寺、家具屋、古民家、キャンプサイト、博物館、ギャラリーなど、さまざまな場所でライブを行ってきた。
カントジフア1stアルバム《どこかの街角で》より「フルーツ市場のサンバ」
https://youtu.be/NdIPrkziCVk
カントジフアが昨年12月に出した2ndアルバムはバッハの「ゴールドベルク変奏曲」全曲演奏。私はすでにストリーミングでアリアと30の変奏をすべて聴衆していたが、緻密なアンサンブルと緩やかな響きがあいまったその完成度ゆえに、スタジオ限定プロジェクトだと思い込んでいた。5月7日、銀座の小さなカフェで全曲通してのライブが上演されるということで、聴きに行ってきた。
がんらいバロック器楽には、ある種の可塑性があるように思う。とりわけバッハの音楽は、ジャズでもよくとりあげられてきた。管弦楽や器楽の組曲などに含まれる舞曲のなかには、ラテンアメリカ伝統音楽とも共通のルーツをもつリズムも存在し、ラテンアメリカの様々なジャンルの音楽家から愛されてきた。トリニダードで行われるスチールバンドのクラシックコンサートでも、必ずといってよいほどバッハは演目に入る。
カントジフアはそうした先例に見られる換骨奪胎、ニューアレンジとは一線を画している。鍵盤楽器用の原典になるべく忠実に3つの楽器にパート分けしたアンサンブルの試みなのだ。
カントジフア「ゴールドベルク変奏曲」
https://youtu.be/3ud_xRb_JAo
5月7日、東京銀座のカフェ「月のはなれ」で演奏されたゴールドベルク全曲は、すばらしかった。平素チェンバロやピアノで聞き慣れているあの旋律たちが、ギター、チェロ、パンの音色により、フルカラー3次元できこえてくる。フーガなど対位法の妙を尽くした変奏は、音色のまったくことなる3つの楽器で3人が演奏するので、一人の鍵盤楽器奏者が演奏するより、不即不離の遊びごころが際立つ。もちろん難所をのりきる緊張感も、合奏ならではのものだ。
バッハの音楽と真剣に戯れるために、カントジフアはこの楽曲の指導を、バッハの専門家である指揮者・鍵盤奏者の鈴木優人に依頼したという。鈴木はこのプロジェクトについて「心おきない仲間たちの会話に思わず笑顔がこぼれる「ラテン」なバッハ」という賛辞を寄せている。私に言わせれば、「ラ米伝統音楽とバッハの音楽がもつ共通の身体性が、3人の日本人奏者によって引き出された」となるだろうか。
カントジフアは今年日本各地でこのプロジェクトをお披露目して回る。その多くは、彼らの信条である、小規模の会場でのライブとなるそうだ。一足先に体験してきたリスナーとして、楽しくも贅沢な時間となることを保証したい。
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