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バコソ/アフロビーツ・オブ・キューバ

2022.12.28

自分を含め5人のDJクルー(Miya, Llumi, Amii, Shochang, mofongo)でカリブとアフリカの音を楽しむイベント『カリバフリカ(Caribafrica)』というのをやっています。

そのスピンアウトでカリブやアフリカのまだ日本に紹介されていない音楽映画に字幕を付けて上映しようという『Caribafrica Film & Music Collection』という企画をDJ miyaが立てたのが今年の春。そしてまずカリブから4作品を選び、契約をし、字幕翻訳を完成させ、9月から4か月かけ上映を行ってきました。ラインナップはこんな感じです。いずれも音楽ドキュメンタリー。

1.『ストレイト・アウッタ・プエルトリコ』(2007)プエルトリコでのレゲトンの誕生を追った作品
2.『ディープ・ルーツ・ミュージック』(2007) レゲエ史を掘り下げる6部構成の作品のVol.1&2
3.『エル・メディコ/ザ・クバトン・ストーリー』(2007) キューバのレゲトン・アーティスト、エル・メディコのストーリー
4.『バコソ/アフロビーツ・オブ・キューバ』(2019) サンチアゴ・デ・キューバでの今のアフロルーツの音を描く作品

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筆者も1.『ストレイト・アウッタ・プエルトリコ』では字幕翻訳(英・西)と1, 3では解説のトークを担当し、3では監督及び出演のミュージシャンをオンラインでつないでのインタビューも行いました。キューバのミュージシャン、エル・メディコとの対話で出てきた生の声はキューバの現状をストレートに語ったものでとても印象的。

4.の『バコソ/アフロビーツ・オブ・キューバ』は12/11の上映会の後、再上映を希望して下さる声も多く、2023年の1/14(土)に銀座のLas Risasで上映会&トークを行うこととなりました。監督のイーライ&主演のDJ Jigue(ヒグェ)とのオンライン・インタビューも現在調整中。うまく行けばこの映画でも監督(米国)、主演(キューバ)と直接話が出来るかもしれません。解説トークと進行は伊藤が担当。

詳しくはこちら↓↓↓(画像をクリック)
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https://fb.me/e/39KhmwrLh

さて、この機会に少し映画の予告編的に内容をご紹介したいと思います。背景や状況の前知識が少しあった方がより楽しめるかと思いますので。

映画はサンティアゴ生まれで、ヨーロッパでDJ活動の後ハバナで長く活躍するDJ Jigueがサンティアゴのアフロ性を「発見」して音を作る過程が描かれる物語。

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DJ Jigue(ヒグゥエ)

サンティアゴの「アフロ」性と聞くとキューバ音楽を知ってる人であればトゥンバ・フランセサやカーニバルでのコンガなどが浮かぶかもしれません。実際コンガの老舗グループ、ロス・オヨスのリーダー、ラサロ・バンデラを含めたチームと共に音を作るシーンも登場します。

Conga Los Hoyos in "La Casa del Caribe"


しかしそれに加えて1960年以降アフリカとのダイレクトな交流が始まり、特に近年2000年以降のアフリカの状況の変化に対応した「今のアフロの音」がキューバに影響していることがこの映画のポイント。

それに先立つ70年代はアンゴラ内戦があり当時のソ連と共にMPLAを支援したキューバは75年から88年の間に35万人の兵隊を送り込みました。同時にアンゴラからキューバに留学生も受け入れましたが、70年代はキューバがアンゴラに限らず途上国の留学生の受け入れを開始した時代です。

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特に医療関係が多く現在でもラテンアメリカ医学大学(La Escuela Latinoamericana de Medicina (ELAM) )の2022年の留学生卒業生は799人で、内コンゴ民主共和国605人、アンゴラ103人、ナンビア51人などアフリカ勢が多くを占めています。その中でアフリカからの留学生たちから、又は彼らが結成した互助団体(アフリカ留学生ユニオン)のイベントなどを通して「アフリカの音」がキューバに直接入って来るようになります。

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さて、「アフリカの音」と言ってもアフリカは広大。下の地図の通りアフリカは米国、中国、欧州、インド、日本をすべて飲み込む大きさなのです。

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なのでこれら各地の音が全ての時代にわたって入って来たのではありません。例えば映画の中で言及されている、ブラジルのサンバの語源となったアンゴラの「センバ」は内戦の70年代に広まり発展していった音楽ですが、この映画で強く取り上げられているのはそういう音の事ではなく、2000年代以降のアフリカの音のこと。

副題にある「アフロビーツ」は60年代後半以降のナイジェリアのフェラ・クティの「アフロビート」の事を思い浮かべるかもしれません。でもそれの事でもなく、2010年代のダンスホール、ダブ、ヒップホップ、ハウス、EDMにアフリカの要素の加わった強いビートのアフリカの音楽の総称してここでは「アフロビーツ」と呼んでいます。

映画の中では最近のアンゴラ/ポルトガルのクドゥロやガーナのアゾント、南アのパンツーラなどが挙がっていましたが、2010年代のアフリカは経済の相対的な成長・安定があり、一方で安価で高性能な音楽制作ソフト&映像ソフトやPCと周辺機器の普及、ネット回線の普及などで、アフリカの音楽が大きく動いた時期です。つまりここ10年大きく広がって来たアフリカの音の話なのです。

これらの音楽は現地で、また移民が数世代にわたって生活しているヨーロッパの旧宗主国で、またその間の行き来で様々な新しい音を生みました。ダンス・ミュージックだけでなく、例えば近年のUKジャズやフランスのポピュラー音楽などの動きとかで、昔の「ワールドミュージック」の時代と厚みの違うミックスが起こっていると言えるでしょう。

"Joro" Wizkid: ナイジェリア出身のシンガー。UK/ナイジェリアのアフロビーツのシーンのスター

https://youtu.be/FCUk7rIBBAE

"Cara Que Engana feat. Julinho KSD" Deejay Telio: アンゴラ出身。アンゴラ/ポルトガルのヒップホップのスター


この映画の音"BAKOSO"がマーク・アンソニー/ウィル・スミス/バッド・バニーの共作<エスタ・リコ>やジャネット・ジャクソンとダディ・ヤンキーの<メイド・フォー・ナウ>に取り入れられたりしているのは、メジャーでの音楽が常にそんなシーンに目配りしている証拠といえます。そういう意味では国外からダイレクトにピックアップされたBAKOSOを遅まきながらハバナのDJが「発見」するという状況は、なんともキューバの現状を表しているともいえるかもしれません。

Marc Anthony, Will Smith, Bad Bunny - Está Rico

https://youtu.be/--BHuKeveg4

「Bakoso」という言葉は、元々Oba Kosso/Obakosso/Obakosoの形の言葉で、Changóの尊称の一つ。「Kosoの王」の意味をもち、それは”The King does not hang”の意味を持つとも言われています。

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ナイジェリアの劇作家デュロ・ラディポが1963年にナイジェリアのオソグボで初演した演劇『Oba Kò So』はShangoが主人公でObakosoがなぜ”The King does not hang”なのかも含め描かれていたりするのを知るとBakosoという名前で出て来た音楽がヨルバの長い歴史と繋がっている事に改めて感銘します。

Duro Ladipo's OBA KO SO

https://youtu.be/kDZunDercWA

Obakoso/Bakosoと言う名前を何故映画の中のOzkaroが選んだのかはわかりませんが、彼自身が、その音楽が、そしてサンティアゴという街がサンテリアも含めた歴史側からと、ヴィヴィッドな現在からとの両方でアフリカと強く結ばれている事を知ることが出来る作品となっています。このようなムーヴメントがハバナ主導ではなく、サンティアゴから発生している事はとても力強く、今後もその動きに注目して行きたいと思います。


タグ:バコソ
posted by eLPop at 19:02 | 伊藤嘉章のカリブ熱中症