2022年9月4日@DDD AOYAMA CROSS THEATER
出演者
シンガー:岸のりこ、NORA、志村享子、やまもときょうこ、寿永アリサ、MASAYO、奈奈カンタリーナ
ソリスト:赤木りえ(Fl.)、SAYAKA(Vn)
バンド:阿部道子(Pf.)、坂口かおる(B.)、岩月香央梨(Dr. Tim.)、藤橋万記(Con.)、安達奈央美(Tp.)、桝家小雪(Tb.)、石毛杏子(Sax.)
配信視聴チケット販売中(2022年9月11日まで)
https://fiesta-latina-2022.peatix.com
こんなに素敵で素晴らしく楽しい経験ができたのは本当に久しぶりです!
ジェンダフリーが叫ばれる昨今ですが、まだまだラテン音楽に女性のミュージシャンは少ないのです。そこで、ロックの「NAONのYAON」的な女性ミュージシャンによる「FIESTA LATINA〜女達のラテン祭り2022〜」が9月4日に渋谷で開催されました。今回は第1回目なのでシンガーは各2曲、ソリストは1曲という縛りのプログラムでしたが、将来はぜひ大きな会場で半日ぐらいのフェスに育ってくれることを早くも願っております。
ものすごく大雑把な歴史を辿ると、日本におけるラテン音楽を牽引してきたのは、20世紀半ばから活動している見砂直照と東京キューバン・ボーイズや有馬徹とノーチェ・クバーナに代表されるオルケスタや松岡直也が率いた一連のグループ、最近では伝説のオルケスタ 246、オルケスタ・デル・ソル、チカ・ブーンをはじめに、グラミー賞も受賞したオルケスタ・デ・ラ・ルスを代名詞としたサルサ・バンドでしょうか。ここでは歴史については触れませんが、いつか他の詳しいメンバーの方たちに解説してほしいものです。
今回のイベントの中心人物のひとりは、そのオルケスタ・デ・ラ・ルスの看板歌手で正に世界的に著名なNORAです。一時期の日本女性はカリブ中南米の旅先で「NORAか?」と言われた経験があると思います。私も言われました!歌えないけど(笑)。そのNORAの「もっとたくさんの人にラテン音楽を知っていただけるようなイベントがやりたい!」いう思いが、レーベルを主宰しイベントの企画なども行っている奈奈カンタリーナに伝わり、今回の企画がスタートしたそうです。
そのふたりが司会進行と、なんとコロ(コーラス)を担当するという、正直あり得ない豪華さにびっくりする内に、フェスティバルは始まりました。それぞれの演奏/歌唱曲の紹介と、簡単な感想を述べます。
バンドのメンバーがスタンバイした後に、まずは、ヴァイオリンのSAYAKAが登場。なかなかのハードなテクニックが必要な「Un violín para Chano」で鮮やかな演奏を披露。観客の心を掴みます。この曲はイラケレやNG ラ・バンダで活躍した名サックス奏者のヘルマン・ベラスコが伝説のパーカッショニスト、チャノ・ポソに捧げた曲です。
SAYAKA
続いてゴージャスなフラメンコ風衣装で、やまもときょうこが登場。美しい黒髪と大輪の花の様な艶やかさで、自身のアルバムからの「Brilla」とイーグルスの名曲「ホテル・カリフォルニア」をスペイン語バージョンで熱唱、そのスケールの大きさを見せつけてくれます。
やまもときょうこ
お次は北海道が誇るMASAYO。彼女は宝塚の男役スターのようなキリッとしたかっこよさがあって、本当に舞台映えします。まずはマイアミ・サウンド・マシーンのヒット曲で軽快な「A Toda Máquina」、続いて自身が歌詞をした「遠くへ」をしっとりと歌い上げます。
MASAYO
そして、ラテン音楽界の高貴な血筋!の寿永アリサ。そのほっそりとした容姿からは想像できないパワフルな歌声で名曲「Tres Palablas」と「Para tu Altar」を聞かせてくれます。彼女のステージを初めて観たわけではありませんが、そのリズム感が図抜けていることを改めて実感しました。歌詞の乗せ方、ちょっとしたリズムのずらし方の見事さは一朝一夕にできることではありません。
寿永アリサ
前半しんがりは、司会も務めている奈奈カンタリーナ。コロには交代でやまもときょうこが入ります。彼女はティーンの頃からプロのミュージシャンとして活動し、作詞作曲の他、グラフィックデザインも手がけるマルチな才能の持ち主です。いくつかのユニットを同時進行していて、今回のミュージカル・ディレクションで大活躍した阿部道子らとのユニット、Afro Urbanityも注目されています。今回披露してくれたのはいずれもオリジナルのしっとりした「La Ola Suave」と、どっしりしたアフロキューバンの「Dile Adiós」。今回のグラフィック全般とTシャツのデザインも彼女の作品です。
奈奈カンタリーナ
前半が終了し、休憩の後、後半へ突入。ここからはさらにいろんな意味で濃厚なラテンの沼が待っています。どっぷり浸かりましょう。
後半はカリビアン・フルートの第一人者、赤木りえの「La Cartera」でスタート。ファニア・オール・スターズや自身のオルケスタで長くラテン音楽界で活躍したラリー・ハーロウがプロデュースしたアルバム『魔法の国の魔法のフルート』にも収録されているハーロウの曲です。流れるような旋律とリズムが織りなす70年代のムードを醸しだし、会場は一気にサルサ黄金期の空気に包まれます。マネの名画「笛を吹く少年」さながらのクラシカルで愛らしい衣装が似合う素晴らしい演奏家は、赤木りえ以外にはいません。
赤木りえ
次に登場したのは、結成30周年を迎えた女性だけのサルサ・バンド、チカ・ブーンのメインボーカリスト、志村享子。オリジナルのヒット曲「カプセル」と「神様お願い」をのびのびと歌います。会場にいたティンバレスの森村あずさがステージに呼ばれ華を添えます(演奏はなし)。森村も日本のラテン音楽を支え続けて来た重要なミュージシャン/プロデューサーのひとりです。今回のバンドのベースの坂口かおるもチカ・ブーンのメンバーなので、いかにこのバンドが後に続く女性ミュージシャンたちに希望を与えてきたか、思わず感慨にふけりました。
志村享子
大トリの前のトリは、NORAです。まずはデューク・エリントンの大名曲「It Don't Mean a Thing」で爆発的なボーカルを聞かせます。さすがとしか言いようのない見事な歌いっぷりです。ベテランのプロの、しかも世界的に評価されている歌手に向かって「上手い!」と言うのは失礼かも知れませんが、歌舞伎の大向こうのようにかけ声を掛けたくなるような圧巻のパフォーマンスです。2曲目は大橋純子の大ヒット曲「シルエット・ロマンス」の美しいスペイン語バージョン。真面目な話、NORAはサルサだけを歌う歌手ではなくR&Bやジャズも歌ってきました。デ・ラ・ルスだけではない、そんな側面を見せてくれる印象的なステージです。NORAがカリブ・中南米諸国や米国で人気があるのは、その「下町のおねえさん」っぽい親しみやすさにも一因があると思います。アジアから来たけれど、私たちの街にもいそうな明るく前向きで抜群に歌がうまい人、嫌いな人はいません。
NORA
そして、遂に大トリ、岸のりこ。間もなく歌手生活50周年。鮮やかなグリーンのロングドレスに真っ赤なショールとターバン。グッと豪華なラテンエレガンスを纏っての登場です。私は職業柄、今回登場したすべてのシンガーのライブを観たことがありますが、最もたくさんその歌を聞いているのは岸のりこです。アルバム『恋の12の料理法』のプロデュースをしたときも「この歌声を音源として残したい」という純粋な気持ちがモチベーションとなりました。岸のりこはこれからもずっと歌い続けるはずですが、この時代の彼女の歌声を未来の人たちが聞いてくれることを願います。さて、感傷的な前置きはこのぐらいにして、ステージに戻ります。岸のりこが歌ったのは煌びやかな「Noche Cubana」、ホセ・アントニオ・メンデスと並ぶフィーリンの巨星、セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルスの名曲です。次はガラッと雰囲気を変えてエルネスト・ドゥアルテの「Dónde Estabas Tú」。浮気な恋人に「昨夜はどこにいたのよ!」と凄む歌詞で小気味よいコロは合唱すべき曲です。
岸のりこ
Orquesta "Fiesta Latina"
フィナーレは全員がステージに集合して、グロリア・ゲイナーの大ヒット曲「I will Survive」のセリア・クルースのスペイン語バージョン「Yo viviré」を交代で歌い継いでいくという、ぞくぞくする"Homanaje a Celia Cruz"方式で歌います。もうかっこよすぎて泣きそうになります。アンコールは1974年のアルバム「Celia & Johnny」(セリア・クルースとジョニー・パチェーコ)に収録され大ヒットとなった「Quimbara」で、大盛り上がりの中終演しました。
若干興奮気味なレポートになりましたが、本当に楽しい3時間でした。個別評は書けませんでしたが、難しい曲、まったくちがう曲調やテンポの曲を弾きこなしたバンドのみなさんも本当に素晴らしかったことは言うまでもありません。
ぜひ、来年も観たい!
by 高橋めぐみ/ eLPop - "Soy Pecadora"


