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ソンのルーツを探しに 〜キューバ、グアンタナモへの旅〜(その3) by二田綾子

2021.10.21

二田綾子さんによる『ソンのルーツを探しに 〜キューバ、グアンタナモへの旅〜』第3回目です!

◆◆◆◆◆◆
(その2から続く)

<チャングイはどこで生まれたのか?>

 しばしばチャングイはソンの先行ジャンルと言われるが、チャングイが生まれる以前に、グアンタナモよりさらに東に約150kmに位置するキューバ最東端の町、バラコアでネンゴンという非常にシンプルな音楽が生まれた。2小節のモントゥーノ(コール&レスポンスによる掛け合い)が何度も反復され、ほとんど即興的な要素もなく非常にシンプルな構成でできている。チャングイを演奏するグループの多くがネンゴンをレパートリーとして演奏しているあたり、ネンゴンとチャングイは密接な関係があるように思える。その他、同じくバラコアにはキリバという、これもモントゥーノが繰り返される様式が存在するが、こちらもグアンタナモのチャングイ・グループの演奏でよく聴くことができる。また、グアンタナモにレヒーナやモントンポロなどという、こちらもネンゴン同様モントゥーノの反復による音楽様式が伝承しているが、これらのようなシンプルなソロとコーラスによる掛け合いの音楽様式が土台となり、チャングイが生まれたと考えられる。

<田舎チャングイの本拠地、ヤテーラス>

 滞在中、モンゴが「チャングイを知りたいならヤテーラスに行かないとダメだ!」と大騒ぎするので、それまで聞いたこともなかったその村に行くことになった。何でもヤテーラスはチャングイの発祥に大きく関わっている土地らしい。モンゴだけではなく、チャングイ関係者が口々に「ヤテーラス」と騒ぐので、どうしてもそこを訪れたくなった。
 ヤテーラスはグアンタナモ市内からかなり遠い所にあるらしい。何でも、Jamaicaと書いてハマイカと呼ぶ場所よりさらに遠いらしい。まるで隣国ジャマイカに行くような大げさな口調でみんなが「遠い、遠い」と言う。日本からはるばるグアンタナモまで来たことを考えると、グアンタナモ郊外にあるヤテーラスに行くなんて、あまりにも簡単な話だと私は思うのだが。
 よく聞いてみると、ヤテーラスまではグアンタナモ市内から車で一時間程度で着くらしい。1998年当時、ガソリン不足のキューバでは車を調達するのが難しかったので、これでもけっこうな大移動だった。
 結局、知り合いの車を調達することができヤテーラスまで連れて行ってくれることになった。その途中、ピエドラ動物園の近くを通りかかった。確か『地球の歩き方』に載っていた有名な動物園だったはず、とぼんやりと思いながらそこを通り過ぎた。ピエドラとは石を意味するが、私はなぜ「石動物園」という名前なのかという理由なんか深く考えずに「後でちょっと寄りたいね」と友達と話していた。
 かなり長閑な田舎の山道を通り、到着した地名が「フェリシダー」。幸福という意味のこの集落、みんな穏やかそうで、ここにいるとホントに幸せになれるのかも・・・と思わせてくれるような雰囲気に満ちていた。
 リゾート風のわらの屋根の下で素朴な人たちが私たちを出迎えてくれた。ファミリーだろうか。「彼らがチャングイのルーツを握っているピピ率いるエストレージャス・カンペシーナスだ!」とモンゴに紹介してもらった。
 「田舎の星」という意味のこのグループ、元々は家族でチャングイを継承していた素朴なグループだったが、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」等によるキューバ音楽ブームをきっかけに90年代後半から国内外のフェスティバルやドキュメンタリー映画などにも登場するようになり、若手メンバーとの世代交代も経て今や「グルーポ・チャングイ・デ・グアンタナモ」と双璧をなすチャングイの名門グループに成長している。
 さて、一人ひとりと挨拶をしたのだが、よく見ると絶滅したはずの先住民族タイーノのような容貌の人もいるではないか!
 「すごい・・・ハバナの人たちはみんなインディオなんていないって言っていたけれど、こんな奥地に来るとまだいるんだ。」とびっくりしていると、
 「私のあだ名はインディオです、インディオと呼んでください。」と挨拶された。
その後、モンゴや他の人々から聞いたのだが、全滅したとされているインディオの血が残る人々が今でもオリエンテ地方の山村に存在しているそうだ。確かに文化や習慣などはほとんど失われているのだが、このような顔立ちは明らかに先住民族のものだ。アフリカでもスペインでもあり得ない。キューバに残る先住民の研究を、誰か深く掘り下げてやってくれないものだろうか。

エストレージャス・カンペシーナス
写真:*エストレージャス・カンペシーナス

 グループのメンバーに聞くと、グタンタナモ市内よりも以前からこの地域では古くからチャングイが演奏されていたそうだ。誕生会、年末年始、夏の終わりなど、家族や近所の人たちが集まっては歌って踊ってパーティを開催していたそうだ。

豚の丸焼き
*写真:パーティに欠かせない豚の丸焼き

 海外でのキューバ音楽ブームも手伝い、私たちが訪れた頃から外国から訪れる観光客もちらほらいるようだった。そのようなもの好きな外国人たちのためにいつでも演奏できるように彼らは待機している。私たち二人のためにも大歓迎でチャングイを披露してくれた。
 グアンタナモ市内で聴くチャングイよりもさらに野暮ったい感じ。馬に乗った時のスイング感、と前から聞いていたが、まさにそんな感じ。踊りまで野暮ったい。
 ヤテーラスの人たちはとにかく純粋だった。近所で取れたいろんな果物をお土産としていただき、日本からやってきた私たちのことを本当に喜んで迎えてくれた。グアナバナという名前のバカでかくズッシリした果物は濃厚な味で、今でも忘れない。
 残念なことにリーダーのピピは2015年に75歳で亡くなってしまったそうだが、最初に紹介した『チャングイ:ザ・サウンド・オブ・グアンタナモ』では若いミュージシャンが継承していて素晴らしい演奏が聴ける。

<そしてピエドラ動物園へゴー!>

 帰り道、先ほど通りがかった「ピエドラ動物園」に行くことになった。グアンタナモにはどんな動物がいるんだろう、という好奇心でワクワクしながら門をくぐった。しかしそこで見たものは・・・
 石、石、石である。全てが石。まさにピエドラ。つまり、動物を石の彫刻で模った「彫刻動物園」だったのだ。後で『地球の歩き方』を読み返してみると、しっかり彫刻って書いてあったのにちゃんと読んでいなかったから気付かなかったのだ。生きた動物がいる普通の動物園を期待していた私がバカだった。それにしても、まさか全て石でできた動物園なんて、常識でいったら本当に思いもよらない。キューバ人の突飛なアイディアにはいつも度肝を抜かされる。
 そしてさらに驚いたのが、そのアバンギャルドな彫刻たち。蛇が野生動物を食べているシーンなんて序の口、何だか全てがグロ過ぎる。子供が見たら泣いてしまうだろう、というような彫刻でいっぱいだ。ジャングルのようなうっそうとした広大な森の中に、私たちでさえビビってしまうような強烈な彫刻がちらほらあったので、ちょっとしたお化け屋敷気分を味わえた。まがいなりにも動物園なんだから、家族連れも多いだろう。グアンタナモの子供たちはこれらの彫刻を見ても怖がらないのだろうか。その日は私たち以外他のお客を見かけなかったので(やっぱりこんな動物園は流行らないのだろうか?)、どういう客層の人たちがこの動物園を訪れるのかは分からなかった。

ピエドラ動物園
*写真:ピエドラ動物園

 このような石の動物園は世界で一つしかないらしい。しかし、そもそもこんなものを作ろうと思った人がグアンタナモに存在しているということが世界の謎だ。やはりグアンタナモの人々は只者じゃない。あまりにもグロテスクな彫刻を見すぎたせいで、ヤテーラスで聴いた長閑で楽しいチャングイの印象がすっかり薄れてしまい、ホラー映画を見終わった時のような心境になって帰途に着いた。

(その4へつづく)
posted by eLPop at 20:38 | Guindahamacas