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『eLPop今月のお気に入り!2021年7月』

2021.09.01

またまた非常事態宣言延長な状況の昨今、『eLPop今月のお気に入り!2021年7月』をお届けしたいと思います。

新譜・旧譜、新作・旧作関係なく、音盤あり曲あり映画あり、本あり、社会問題ありと様々ですが、この月はなぜかこれだった、というのをチョイスしました。この月の気分が含まれた雑誌、プレイリストのように楽しんで頂ければ幸いです。

【目次】
◆山口元一 『コロンビア最新ヒット/シマロン、ペトローナ・マルティネス』(コロンビア)
◆宮田信  『ロス・ロボス“NATIVE SON”』(チカーノ)
◆水口良樹 『フェミサイドとの闘いと音楽』(ラテン・アメリカ)
◆長嶺修  『ナオミ・クライン『楽園をめぐる闘い』』(USA/プエルトリコ)
◆岡本郁生 『追悼ジョニー・ベントゥーラ』(ドミニカ共和国)
◆高橋めぐみ『NETFLIXで観られるお勧め番組を3作!(音楽もお勧め!)』
◆高橋政資 『ついにジョージ・クリントンとコラボしたシマファンク』(キューバ)
◆伊藤嘉章 『ラテン・トラップの広がり:トニー・スッカール、ベニート・マルティネス』(NY/プエルトリコ)
◆佐藤由美 『余録『イン・ザ・ハイツ』 舞台を思い出しながら映画を観た』(NY/ラテン)
◆石橋純  『「イン・ザ・ハイツ」を2度楽しむための7項』(NY/ラテン)





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◆山口元一("Ay hombe"担当/コロンビア)
『コロンビア最新ヒット!シマロン、ペトローナ・マルティネス』

Cimarrón
コロンビアの最新ヒットを紹介するコーナー、"Ay Hombe”です。

7月の1曲目は、コロンビア・東部平原地帯(ジャノス)から、当地の音楽を代表する楽団・シマロン(Cimarrón)の”Zumbajam”。

Cimarrón - Zumbajam (Live From the Orinoco River Plains

https://www.youtube.com/watch?v=p8cv4Y0zhXo

アフロ系のリズムや楽器を取り入れるなどして、隣国ベネズエラのそれと比較しても素朴というかどことなくイモ臭かったコロンビアのホローポをイケてる化し、国際的に認知させることに成功した楽団で、来日したこともあります(来日時のFacebookから。
https://www.facebook.com/294226464681/photos/a.10150215036469682/10154973285379682/
ちなみに一番後ろではじけてるハゲが俺です)。

だが2020年1月に創設者にしてリーダー、ハープ奏者のカルロス"クコ”ロハスが急死、活動に急ブレーキがかかってしまいました。

このまま自然消滅となるのかな、と少々がっかりしていたのですが、歌手のアナ・ベイドーを中心に帰ってまいりました。昨年12月にyoutubeチャンネルで彼らのホームランド・オリノコ川平原からの一連のライブ演奏が公開、新曲ではありませんが、これが実にすばらしい。

もう一曲、”Orinoco”

Cimarrón - Orinoco (Live From the Orinoco River Plains)

https://www.youtube.com/watch?v=ujZXBn2MJ4w

“鳥よ、鳥よ、私の土地を歌え オリノコの平原 野生溢れる草原 おまえの小道で私は育った 大雨と乾きの土地で私は輝ける魂を歌おう 道に舞う土埃を それが私のおてんば時代”

確かにみんながタップすると土埃がすごい。新生シマロン、今後も要注目です。

3曲目は、"Bobby"。ブジェレンゲのグランマ、ペトローナ・マルティネス(Petrona
Martínez)が、各ジャンルのアフロ・ルーツの女性シンガーと組んだ企画ものから、パシフィコの歌姫、グルーポ・カナロン・デ・ティンビキ(Grupo Canalon de Timbiqui)のシンガー・ニディア・ゴンゴーラ (Nidia Gongora)とのコラボです。

Bobby (Son Palenque-Rumba Pacifica) (feat. Nidia Gongora & Eryen Korath)

https://www.youtube.com/watch?v=UTJ_MeIj6xs

いや似合いますね、ペトローナのクルラオ!

いきなりマニアックなことを書いて申し訳ないんですが、コロンビア太平洋岸の音楽として知られるクルラオですが、エミルト・デ・リマが1942年に発表したコロンビア民俗音楽研究の古典“Folklore Colombiano”では、Cumbiamba(クンビアンバ)、ポロ(Porro)、チチャマヤ(Chicha Maya)、プーヤ(Puya)、マパレー(Mapalé)、メレンゲ(Merengue)、ガイタ(Gaita Indigena)と並んで大西洋岸の音楽として紹介されています。アフロ系、ヨーロッパ系、先住民系の要素が絡みあいながらも、各地域がそれぞれ保守的な嗜好をもったまま強い郷土意識をアピールするのがコロンビア音楽の最大の特徴で(そのわりに、サルサ、メレンゲ、タンゴ、ランチェラからソカ、アフリカンポップスまで、知らないうちにちゃっかり「わが音楽」にする面もありますが・・・)。

そのため、今までの研究では、コスタとパシフィコについては、陽気で外向的なコスタ、暗く内省的なパシフィコという特質から相違を強調するものが多かったように思いますが、メディアの発達する前は、案外、クルラオもコスタで聴かれていたのかな、なんて思うことがあります。・・・と思いながらダラダラ本を眺めていたら、「孫引き」というか「ひ孫引き」ですが、現在はあきらかに太平洋岸の音楽であるクルラオについて、元々はクンビア系コスタの音楽だったという記述がありました。

“Colombia y su Música”,José Portaccio Fontalvo, 1995の引用する“La Música Folklórica
Colombiana”Guillermo Abadía Moralesの引用するダビッドソンという人の音楽事典(正式タイトル不明)だそうです。なんでも20世紀の初頭にコスタ音楽から別れたとのことだそうですが、例によって録音のない時代のことなので、確認のしようがないです。まあ、細けえことはいいや。今年5月の発表です。すばらしい。



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◆宮田信(DANCE TO MY MAMBO担当/USA+MEXICO)
『ロス・ロボス“NATIVE SON”』


ロス・ロボスの最新作がリリースされている。

イースト・ロサンゼルスの音楽、そして街=バリオの変動を60年代後半からリアルタイムで知っている大ベテランのチカーノ・ロッカーたちだが、バンドとしての結成もあと数年で50周年を迎える。もはや不動の存在だ。そんな大御所たちも昨年春から始まったパンデミックのなかで活動をストップ。そうした状況のなかで生まれたのが、地元ロサンゼルス出身のバンドのナンバーをカヴァーした本作だ。

バリオから生まれたチカーノ・ロック、ラジオから聴こえてきたソウルやサーフ・ロックまでロス・ロボスに大きな影響を与えてきたナンバーが13曲収録された。イーストLAのアイドル・グループ、ジ・ミッドナイターズ、モータウンのバレット・ストロング、バッファロー・スプリングフィールド、チカーノ音楽の父、ラロ・ゲレーロ、ジャクソン・ブラウン、ビーチ・ボーイズ、パーシー・メイフィールド、ウィリー・ボボ(!)などなど、秀逸なのはウォーの名曲「世界はゲットーだ」のカヴァー。ジ・ミッドナイターズの歌手、リトル・ウィリー・Gと息子のジェイコ・Gを迎え、チカーノ・テイストを強化しながら1970年代ロサンゼルス・ゲットーの妖しい空気を甦らせている。PVはアルバム・タイトル曲で唯一のオリジナル・ソング。イーストLAの北側のバリオ、美しい丘が続くエル・セレーノで撮影された感動的な展開だ。

LOS LOBOS “NATIVE SON”

https://youtu.be/gEQXT1soR1g



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◆水口良樹(ペルー四方山語り担当/ペルー)
『フェミサイドとの闘いと音楽』


また憎悪に起因する悲しい事件が起こってしまった。フェミサイド(女性憎悪殺人)という言葉は日本ではまだあまりなじみがないが、近年かなりラテンアメリカでも大きな問題となり、社会運動となっている。こうした女性に対する憎悪はまぎれもなく差別と結びついており、社会の構造として存在しているために、気づきにくいし抜け出すことも難しい。それだけにまず声をあげて可視化し、問題意識を作り上げていくところから始まる。

マチスモで知られるラテンアメリカも女性差別に起因する問題が根深い社会でもある。シングルマザーと貧困の問題、DVの問題、そしてフェミサイド。
しかし、そうした状況に対して、2015年のアルゼンチン発の「Ni una menos」運動以降、ラテンアメリカの女性たちはストリートに出て声をあげた。告発する歌を歌い、謝罪と社会の変革を要求した。

私自身がその盛り上がりを改めて強烈に印象づけられたのは2019年、チリの地下鉄値上げに対する高校生たちの反対運動から始まった社会運動が、その後半、警察による女性レイプなどを受けて反フェミサイド運動としても盛り上がった時だった。

こうした問題の可視化は日本では可能か。なぜできないのか。それは女性の問題ではなく、男性の問題であることは確かなのだが、私はそれにどうコミットできるのか。そんなことを考えつつ、ラテンアメリカの反フェミサイドの曲をいろいろ聞いた月だったということで幾つか紹介したいと思います。



■2019年チリで女性たちが歌った「レイプしたのはおまえ“El violador eres tú"」とその特徴的な踊り

violador eres tú - LETRA COMPLETA del HIMNO FEMINISTA Un violador en tu camino

https://www.youtube.com/watch?v=tB1cWh27rmI



■メキシコのシンガーソングライター、ビビール・キンターナによって作曲されたフェミサイドと闘う歌として象徴的な存在となった「恐れのない歌(Cancion sin miedo)」。ラテンアメリカ各国で歌われている。2020年3月のソカロでモン・ラフェルテと共に歌った時のライブと各国のバーション(歌詞の違いにも注目!)。

Vivir Quintana y Mon Laferte "Canción sin miedo"
Mon Laferte canta contra la violencia de género

https://www.youtube.com/watch?v=u5ivdg2P-Ug

 ペルー:プーノ 

https://www.youtube.com/watch?v=J99bgK2DPGQ

 アルゼンチン:チャコ

 https://www.youtube.com/watch?v=D4eq_miShKs

 コロンビア:

https://www.youtube.com/watch?v=KiJJXe2Vsdk

 グアテマラ:


https://www.youtube.com/watch?v=eYbB6eFfEVs


■チリのアナ・ティジュが2015年に発表した「反父権主義」。このタイトルにまずしびれた。

Ana Tijoux "Antipatriarca"

https://www.youtube.com/watch?v=RoKoj8bFg2E



■NYで活躍するメキシコ人歌手レネ・ゴーストによる「親愛なる死(私たちを殺さないで)」

Renee Goust "Querida Muerte (No nos maten)"

https://www.youtube.com/watch?v=EBRAhgvixTg



■プエルトリコのイレが歌った「おまえは恐れる」。これまでに複数回eLPopでも紹介されている。

iLe "Temes"

https://www.youtube.com/watch?v=LCQpUnKe97w



■エクアドルのケチュア・スペイン語ラップでラ・マフィア・アンディナが歌う「ワルミ・ハタリ」

La Mafia Andina "Warmi Hatari"

https://youtu.be/d_bZ7wrTbvo



■ペルーのウェンディ・スルカ、スサナ・バカ、マリエーらによる「山の女(恐れることなく生きる)」

Wendy Sulca,Susana Baca,Marié "Mujer Montaña (Vivir sin miedo)"

https://www.youtube.com/watch?v=hzAH06bnpYY



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◆長嶺修(猫の目雑記帳担当/スペイン & MORE)
『ナオミ・クライン『楽園をめぐる闘い』』



『ショック・ドクトリン』などで知られるカナダ人ジャーナリストのナオミ・クライン。『楽園をめぐる闘い』(星野真志訳、堀之内出版、2019年/原書2018年)は、「災害資本主義者に立ち向かうプエルトリコ」と副題にあるように、2017年のハリケーン・マリアで壊滅的な被害を受けたプエルトリコに焦点を当てた内容です。自然災害時などのショック状態に乗じる惨事便乗型資本主義(災害資本主義)なるものの正体を詳らかにした『ショック・ドクトリン』(幾島幸子・村上由見子訳、岩波書店、2011年/原書2007年)では、2005年にニューオーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナから説き起こし、気候変動を見据えた『これがすべてを変える』(幾島幸子・荒井雅子訳、岩波書店、2017年/原書2014年)でも、ニューヨークに浸水被害をもたらした2012年のハリケーン・サンディに言及しているクラインが、プロテストの声を上げてきたプエルトリコの教員団体に招かれ、現地を訪れて見聞きしたことがレポートされています。

The Battle For Paradise.jpg

 大型化したハリケーンによる自然災害が、電力や物資の不足、医療の機能不全、あるいは公共資産の投げ売りをここぞとばかりに進めてしまおうとする悪だくみなどへ、複合的に拡がっていくなか、オルタナティブを模索する幾つかのコミュニティの存在と連帯が希望を繋ぐ一方で、リゾート地の豪邸を買うだけでなく、自分たちの街をつくるのに足る広大な土地の購入を検討し始めたり、プエルトリコ人がスペイン語を話すことが少し「カルチャーショック」だったという、この島に立ち現れた「プエルトピア人」とは、どんな人たち(cf.「こんな人たち」)か? 新書サイズのコンパクトな本書を紐解いてみてください(下記にリンクした動画でも触れられていますが)。プエルトリコと沖縄を結んでいく訳者解説も興味を引くのではないかと思います。

 本書の次に出たクラインの『地球が燃えている』(中野真紀子・関房江訳、大月書店、2020年/原書2019年)は、2010年以降に発表した文章や講演録をまとめたもので、本書と同じくインターネットメディアのインターセプトに寄せた、ハリケーン・マリアの被害から1年を経て、プエルトリコのことを改めて振り返る文章も収められていますが、イギリス労働党大会でのスピーチ(2017年のハリケーン・マリアによる被害が発生したすぐ後)の書き起こしで、彼女は次のように語っています。

「私が、ここでプエルトリコのことをお話しすることにした理由は、状況が非常に緊急であるからだけでなく、プエルトリコが世界中で起きているもっと大規模な危機の縮図であり、重なりあう要素が多くあるからです。その要素とは、気候変動危機の加速、軍国主義、植民地支配の歴史、脆弱で放置されてきた公共空間、完全に機能不全となった民主主義、などです。(中略)しかし、私が今日皆さんにお届けしたいメッセージは、これらの危機を「ショック・ドクトリン」に利用させる必要はない、ということです(中略)反対方向に行くこともできるのです」。

★The Battle for Paradise: Naomi Klein Reports from Puerto Rico(plenerosも一瞬登場)

https://youtu.be/pTiZtYaB3Zo

★上記動画の挿入曲=チリにルーツを持つフランスで生まれ育ったアーティスト、Ana Tijouxが『ショック・ドクトリン』にインスパイアされたというナンバー「Shock」
Shock - Ana Tijoux (Official Music Video)

https://youtu.be/177-s44MSVQ

★本書の中身について語る「デモクラシー・ナウ!」でのナオミ・クライン(日本語字幕付版もあるのでYouTube内で検索してください)
“The Battle for Paradise”: Naomi Klein on Disaster Capitalism & the Fight for Puerto Rico’s Future

https://youtu.be/OjG7qqomvBk




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◆岡本郁生(ラテン横丁・USA LATIN & MORE)
『追悼ジョニー・ベントゥーラ』


ラテン音楽を聴き始めたころ、ジョニー・ベントゥーラには何となくとっつきにくさを感じていた。それは彼が王道中の王道だったからかもしれない。初心者のガキにとっては、ゲテモノ趣味満載(笑)のウィルフリード・バルガスや、アラミス・カミロのうさん臭さ、フェルナンディト・ビジャロナのアイドル性みたいのものが新鮮に響いて、ちょっと古臭い感じがしていたのかもしれない。

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しかし、来日したロス・ベシーノスのミリーが「メレンゲをここまでにしてくれたのは何といってもジョニー・ベントゥーラの功績。私たちは彼に本当に感謝している」と熱く語るのを聞いてへぇ〜と思い、改めて聞き直して「こりゃやっぱり凄い!」と実感した。不明を恥じるばかりである。

 彼の最大の武器はなんといっても、その太く艶やかで豊かな声だ。歌自体が伴奏をグイグイと引っ張っていくスピード感も凄まじく、他の誰にもない気品がそこはかとなく感じられるのも良い。

1940年3月8日、首都サントドミンゴ(1930年から61年まで独裁者として君臨したトルヒージョ大統領の全盛期で当時はトルヒージョ市という名前)に生まれたジョニー・ベントゥーラ(本名:フアン・デ・ディオス・ベントゥーラ・ソリアーノ)は55年、「ラ・ボス・デ・ラ・アレグリア」というラジオ局のオーディション番組に出演して1位を獲得。何週か勝ち抜いてチャンピオンになると奨学金を得て歌を学ぶようになり、59年、師匠のホセ・ドロレス・セロンの助言により、ジョニー・ベントゥーラという芸名でさまざまなグループで歌い始める。

 61年にはパーカッショニストのドナルド・ワイルド率いる楽団で歌い、62年にはルイス・ペレス率いるコンボ・カリベに参加し初録音も経験。63年には、パパ・モリーナ率いる人気楽団ラ・スーパー・オルケスタ・サン・ホセに歌手兼グイラ奏者として引き抜かれ、彼の踊りや歌は大いに注目を集めることになった。

そして64年、ドミニカ共和国在住キューバ人プロモーターのアンヘル・ギネアのすすめでついに自己のグループ、エル・コンボ・ショウを結成。ギネアの売り込みによってナイトクラブ、ラジオ、TVなどで人気が爆発し、米国をはじめ、プエルトリコ、コロンビアといった中南米地域へも進出する。

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"El Combo Show" 1964.2.2.

 メレンゲのもともとの形は“ペリーコ・リピアオ”とか“メレンゲ・ティピコ”と呼ばれる小さなコンボによるもの。タンボーラ(太鼓)にグイラ(金属製のグイロ)、ギター、マリンブラ(ベース)、アコーディオンそして歌、というのが基本的な編成で、いまでも特に地方都市などでは根強い人気を誇っているが、ジョニー・ベントゥーラのエル・コンボ・ショウが目指したものは、より都会的で洗練され躍動感あふれるエンターテインメント・ショウだった。アコーディオンが担当していた細かいリフを、サックスを中心とするホーン・セクションに置き換えることで迫力アップ! ピアノ、コンガ、ティンバレスといった楽器を加えたオルケスタ編成によって、より力強くバイラブレ(ダンサブル)なショウを生み出した。

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"ペリーコ・リピアオ(Perico Ripiao)"

 そんなわけで、メレンゲの王様、“エル・カバジョ・マジョル(素晴らしい馬)”と呼ばれるジョニー・ベントゥーラはまさに王道中の王道……というかその王道を切り拓いてきた人。彼こそが60年代以降のモダン・メレンゲを作り上げた張本人であり、先駆者、第一人者だからだ。代表曲「ジョ・ソイ・エル・メレンゲ(俺がメレンゲだ)」で歌われるとおり、彼自身がメレンゲそのものだったといえる。1998年〜2002年、首都サントドミンゴの市長をつとめたのも当然の成り行きだっただろう。

そんなスーパースター、ジョニー・ベントゥーラが7月28日、81歳で亡くなってしまった。前述のように大昔から聞いているので、もっともっと年上のイメージがあったのだが、まだまだ若いじゃないですか……。数年前までコンスタントに新作をリリースしており晩年の作品も素晴らしいのだが、ここでは、若いころの強烈な歌の数々を楽しんでいただこう。

Johnny Ventura y su Combo Show - El Guataco

target="_blank">https://www.youtube.com/watch?v=dTcyJvkEy-k


JOHNNY VENTURA Y SU COMBO SHOW - Yo Soy El Merengue (80's)

https://www.youtube.com/watch?v=Z4Yn_tokVgc


JOHNNY VENTURA Y SU COMBO SHOW - La Verdad (80's)

https://www.youtube.com/watch?v=VEBzfgs_QDA

JOHNNY VENTURA (video 80's) - Patacon Pisao - MERENGUE CLASICO

https://www.youtube.com/watch?v=yT7RSacTDL0


JOHNNY VENTURA Y SU COMBO SHOW - Señora - Matilda (80's)

https://www.youtube.com/watch?v=kWvem1ozBxw



JOHNNY VENTURA con ANTHONY RIOS (video 1982) - Caña Brava


https://www.youtube.com/watch?v=mJU9yqYi6sM





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◆高橋めぐみ(SOY PECADORA担当/スペイン語圏の本・映画)
『NETFLIXで観られるお勧め番組を3作!』



(今月予定だった)ナイジェリア後編はふたたび延期します(泣)。
なので、今回はNETFLIXで観られるラテン色の濃いお勧め番組を3作紹介します。
いずれも「音楽」もお勧め要素です!


●ムーチョ・ムーチョ・アモール: カリスマ占星術師ウォルター・メルカドMucho Mucho Amor: The Legend of Walter Mercado

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https://www.netflix.com/jp/title/81200204

プエルトリコ出身で世界的に有名なカリスマ占星術師、ウォルター・メルカドをめぐるドキュメンタリ。美しい容姿でダンサー、俳優を経てプエルトリコ〜米国〜ラテンアメリカで大人気の占い師になった経緯や彼がまとった豪華な衣装、突然メディアへの露出がなくなった件などを、本人を含む関係者への取材からその真の姿と彼が巻き起こした光と影の現象を考察します。

みんな大好き「In The Heights」のリン=マヌエル・ミランダもファンのひとりとして浮かれた感じで登場します。

移動中の車の中で姪っ子たちと「Piel Canela」を歌うシーンが印象的。最後におまけがありますから、必ずエンドクレジットが終わるまで観てください。



●全然まったく大丈夫
Todo va estar bien

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https://www.netflix.com/jp/title/81170234

盟友ガエル・ガルシア・ベルナルとともに現代メキシコを代表する俳優のディエゴ・ルナが制作と監督を務めたシニカルなコメディのファミリー・ドラマ。

7歳の娘がいるフリアとルイの夫婦は様々な理由から別れたいと思っています。裕福な家に生まれ広告関係の仕事でかなりの収入を得ているフリアと、幼い頃に父に捨てられヒッピー的な母に育てられたラジオパーソナリティ(多分)ながらあまり仕事は上手く行っていないルイ。2人の間には次々と普遍的且つ現代的な「問題」が起こります。それはメキシコだけの問題ではなく、そのまま日本にも当てはまるようなことばかりです。それらになんとか対処しながらこの先どうするかを考えていくふたり。

周囲の人も巻き込んではたして「全然まったく大丈夫」になるのでしょうか。 全8話で1話は役30分なのであっという間に観てしまいますが、内容はなかなか濃くよく考えられた脚本です。

●ビーボ
VIVO

Vivo.jpg
https://www.netflix.com/jp/title/81199052

ハバナでミュージシャンのアンドレスと日銭を稼ぐ大道芸をしながら楽しく暮らしていたキンカジュー(アライグマ科の猿の一種)のビーボ。

しかし、アンドレスの元にかつての共演者で今はマイアミで成功している歌手のマルタから「最後のコンサートに来て」という手紙と飛行機のチケットが届き、ビーボの運命は大きく変わります。ビーボは楽しいハバナの生活を手放したくないのですが、アンドレスにとってマルタは忘れられない運命の人なのです。

突然の悲しい出来事のために、アンドレスはマイアミに行くことが出来なくなってしまいます。そのため、彼がマルタのために書いた曲「Para Marta」をなんとしても彼女の元に届けなければならなくなったビーボ。さて、無事にマイアミに着いてマルタに曲を届けることが出来るのでしょうか?

ビーボの声はリン=マヌエル・ミランダ、アンドレスがフアン・デ・マルコス・ゴンサーレス(!)、マルタはグロリア・エステファン(!)なので日本語吹き替えではなくぜひオリジナル音声/字幕でご覧ください。






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◆高橋政資(ハッピー通信担当/キューバ、ペルー、スペイン)
『ついにジョージ・クリントンとコラボしたシマファンク』




<Cimafunk, George Clinton - Funk Aspirin>

https://youtu.be/eVIDa5hOMJg


またシマファンクか、と思われそうですが、P-FUNK総裁のジョージ・クリントンとのコラボが発表されたのだから、仕方ありません。

今回はこれまでより、クリントンよりのルーズでゆるりとしたファンク・グルーヴで聞かせていますが、シマファンクのあの声がクリントンの声と掛け合うと、もう独特な世界が出来上がっています。

で、私はなんでこんなにシマファンクの活動を紹介したがるのか? 少し分析してみました。
それは、何回も書いてきましたが、ジャズ系でもサルサ系(コンテンポラリー・ソンやティンバを含む)でもポップス系でもレゲトン系、ヒップ・ホップ系でもないからなのかな、と思います。もちろんこれらはジャンルとして好きですが、キューバ人がこれらのジャンルを演ると、必ずマイアミを中心としたU.S.A.のキューバ人社会と、いろいろな意味で対峙せざるを得ない歴史があります。あっ、ジャズは除きます。マイアミとその周辺には、キューバ系住民が65万人以上も暮らし、ハバナに次いで多いそうで、当然、政治的経済的影響力も強いわけです。ただ、そこに暮らす人たちもいろいろなスタンスの人がいるわけですが、大きく分けると、亡命派と経済移住(移民)派に別けられると思います。

亡命派というのは、1959年のキューバ(第二)革命直後に、自身の意志で祖国を出た第1世代と、当時子供だった1.5世代ともいうべき人たちが中心で、現在の革命政府が倒れるまで、一時帰国も含め祖国には帰らないという強い意志を持った人たちと定義することが出来るかもしれません。もちろん第2世代以降や後にU.S.A.に移住した人たちの中にも、このような考えの人は少なからずいます。一方、経済移住(移民)派というのは、キューバ国内での経済活動に限界を感じ、海外をめざす人たちで、いつでも祖国に帰る準備もある人たちです。

当然、亡命派の人たちの方が先にU.S.A.に着いて生活の基盤を築いているし、革命直後に逃れてきた人たちは、革命前にある種の利権を持っていた人たちが多いので、経済的にも政治的にも後から来た人たちよりも有利な立場の人たちが多いのです。そこで、後から経済的な活動を主な目的で来た人たちに、政治的立場を明確にすることを強いることがよくあります。特にミュージシャンたちは、民衆への影響力が強いのでその傾向が強く、これまでに、セリア・クルース、ソノーラ・マタンセーラ、グロリア・エステファン、ウィリー・チリーノ、パキート・デ・リベーラ、アルトゥーロ・サンドバル、イスマエル・カントールなどが、反革命を謳ってきました。本心はどうだったかは解りませんが、実際反革命の立場を表明した方が仕事や音楽活動もスムーズ行くのが事実です。そして、オスカル・デ・レオンやライ・クーダーなどキューバ人ではないミュージシャン達も、現在のキューバ本国の文化や社会を肯定的に語ったり、利益をもたらしたりすると謝罪もしくは法律的処置が取られてきました。

オバマ大統領時代には、国交再開を頂点に少しずつその傾向が改善されたりしましたが、トランプ大統領の登場で社会的雰囲気も一転、今まであまり高らかに謳っていなかった人たちも、憂さ晴らしのように対現キューバ政権を批判をする人たちが増えました。キューバで活動していたときには、ハーモニーを活かした新世代ソンを爽やかに歌っていたトレス・デ・ラ・アバナは、トランプ選挙応援ソングまで発表しています。
バイデン政権の誕生でオバマ時代に再修正すると思われていましたが、実際には経済制裁の強化に出ています。そんな中、オリーシャスやヘンテ・デ・ソナといった人から、それまであまり政治的な発言が聞こえてこなかったデスセメール・ブエノまで、反キューバ政府キャンペーンに参加しています。これらは、今年7月11日にキューバで起こった大規模デモにリンクする動きです。ただ、このデモとそれにまつわる動きは、日本に伝わってくる情報が欧米経由でバイアスがかかったのものが多かったり、キューバからダイレクトに伝わる情報も錯綜しているので、現時点では何が本当で何が本当でないのか、語ることは容易ではありません。

そんな状況下、シマファンクは、8月20日にジョージ・クリントンとのコラボ作を発表し、現在(8月末)U.S.A.ツアーを行い、その後欧州でもツアーが用意されています。もちろん彼は、現在もキューバ本国に拠点を置いて活動をしていますので、亡命者又は移民としての活動ではありませんが、これまでもキューバ本国のミュージシャンが、U.S.A.特にマイアミなどでコンサートを行った場合、抗議のプラカードをもった人たちが公演会場の前に押し寄せたり、プロモーターやレコード会社に圧力が掛かったりということはよくありました。

ところで、ジャズというジャンルはファン層がポピュラー系とは違うということもあり、割合その圧力を感じずに活動が出来るのではないかと思います。実際、移住組のペドロ(ペドリート)・マルティネス、アルフレード・ロドリーゲス、キューバ本国拠点組のアロルド・ロペス・ヌサなどは、比較的自由に活動しているように思います。そして、シマファンクはファンクという武器で、ラテン系ファンが中心のラテン・ポップスやレゲトン、ティンバ(キューバン・サルサ)とは違う、より広い層をターゲットにすることによって、圧力から回避しているのではないかと思っています。シマファンクが創り出すサウンド自体に、多くを引き付ける魅力があるわけですが、U.S.A.のエージェントやスタッフもそこを意識してプロモーションを行っているのだろうと思います。以前ここで紹介した「HAVANA MEETS KINGSTON」への参加とアロルド・ロペス・ヌサのアルバムへの参加、トニー・スカールのアルバムへのゲスト出演、「Talks at Google」や「Tiny Desk Concert」への出演等々。そしてこの秋にはヨーロッパツアーが組まれ、その途中10月にはワールド・ミュージックの見本市「WOMEX」でのショーケース出演も決まっています。ヨーロッパ進出も着々と進んでいるようなのです。さらに来春には、中南米カリブ・ツアーも予定されているようです。

革命と反革命という狭間にいつも置かれる、キューバのミュージシャンたち。その押し寄せる波を、その音楽のように軽やかにステップを踏みながら乗り越えていく、そんなシマファンクに、私はロマンを感じてしまうのです。

<Cimafunk - Cun Cun Prá>

https://youtu.be/Xo7zZdfawUw

● 昨年12月に発表された曲。この公式ヴィデオのダンスが話題になり、星野源の「恋ダンス」AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」よろしく、自分たちのダンス動画をアップするのが流行したようです。

Cun cun pra - King Dance cimafunk

https://youtu.be/TLhb0sRjk9E

CIMAFUNK CUN CUN PRA CHALLENGE ~ Coreografía por Yanai Stable, Equipo Casona Del Son

https://youtu.be/2ypjE2S1HBo

Cun cun prá - Cimafunk

https://youtu.be/A_aJf4X3V6Q

P.S.)ファンクの最高峰P-ファンクの総帥ジョージ・クリントンとのコラボで、シマファンクも「とても光栄だ」とコメントし、さぞかしアゲアゲになっているだろうと思っていたところ、数年前にインタビューした早稲田大学准教授の岩村健二郎氏から、その時、「P-ファンクのことはよく知らない」「タワー・オブ・パワーが好きだ」と話していたと聞きました。このエピソードも、なんともシマファンクっぽくて、グッときてしまいます。




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◆伊藤嘉章(カリブ熱中症担当/カリブ諸島+カリブ沿岸)
『ラテン・トラップの広がり:トニー・スッカール、ベニート・マルティネス』



ヒップホップでの「トラップ」というジャンルの萌芽は2000年代初頭でちょうどレゲトンのブレイクと同じ頃だったのは今思うと面白い。

この2つのジャンルはまだ直ぐに混じり合う事はなかったが、レゲトンが一段落した2007-2008年の頃だろうか当時のトラップの動き、例えばグッチ・メイン(Gucci Mane)とかの影響があったのか、それともプエルトリコのお得意の哀感と歌謡性の発展形だったのか、プエルトリコのアルカンヘル(Arcangel)やデ・ラ・ゲットー(De La Ghetto)などのコラボの中からトラップと共通する音が出て来た。

それは2010年代に入り「ラテン・トラップ」と言われ始める。アメリカのチャートで最初にブレイクしたのはやはり2016年の”La Ocasion”だろう。そして2017年以降オスナ(Ozuna)、マルーマ(Maluma)、カーディB(Cardi B)やバッド・バニー(Bad Bunny)、J バルビン(J. Balvin)などがシーンを押し上げた。

日本ではほとんど話題にならない一方で、在米のヒスパニックとカリブ中南米のLatinx(ラティネックス)に絶大な支持と巨大な売り上げをもつジャンルが今も拡大している。


ラテン・トラップにはレゲトンや旧来のラテンからも継続するマチスモ(男性優位主義)、ミソジニー(女性蔑視)、ホモフォビア(同性愛差別)、暴力などの歌詞満載だったが、動きも出てきた。LGBTQや#MeToo や#NiUnaMenos などからの意識の変化や、分断のばかばかしさに対するのメッセージがバッド・バニーやJバルビンなどの作品にもみられるようになる。ラテン・トラップも変化と一層の広がりが出てきていると言える。

さて長くなったが、変化し新しい音を探すラテン・トラップのサルサとのコラボをまず紹介したい。というか、この作品はサルサからのラテントラップへのアプローチ。


■サルサ+トラップ『トニー&ケンジ・スッカール & YX “Worst Way | Tu Mejor Equivocación”

あのトニー・スッカールが弟のケンジ(kenyi)と組み、トラップのYXとコラボした作品だ。今までこの2つのジャンルのがっつりしたコラボはありそうでなかった。

トニー・スッカールらしいシャープなリズムにサルサとラテントラップの歌謡性を溶け合わせている。弟のKenyiは在マイアミ、キーボードを担当。なかなかカッコイイ。

Worst Way | Tu Mejor Equivocación (Music Video) - Tony Succar, YX, Kenyi

https://youtu.be/pT1mcs9zLYM



相当なボリュームのリスナーをつかんで魅了していて、一方で表現の一層の多様化を常に狙っているラテン・トラップが、今後固まった確立されたジャンルになっていくのかは分からないが、そのセンティミエントや歌謡性がラテンの琴線に触れるものを持っているのは明白だ。


■”TE BOTE”

2018年のラテン・トラップの大ヒットに「Te Bote」がある。バッド・バニーやオスナ、ニッキー・ジャム(Nicky Jam)、キャスパー(Casper)、ニオ・ガルシア(Nio Garcia)、ダレル(Darell)のコラボだが、3年前の曲とはいえYouTubeで22億回のビューを獲得している。

この曲のラテンうけな魅力は哀感のメロとともに、(マチスモやエロが含まれるのだが)別れに対するセンティメンタリズムかと思う。


Casper, Nio García, Darell, Nicky Jam, Bad Bunny, Ozuna - Te Bote Remix

https://youtu.be/9jI-z9QN6g8


そのため、歌詞だけ使ったボレロ調の別バージョンを、レゲトン/トラップ野郎とはまったくライフスタイルの違う、街のにいちゃんたちロス・リベラ・デスティノ(Los Rivera Destino)がリリースし大うけした。

Te Boté (Versión Bolero) - Los Rivera Destino

https://youtu.be/6LggLQq79Uk


■”FLOR” ロス・リべラ・デスティノ ft. ベニート・マルティネス

またそのロス・リベラ・デスティノベニート・マルティネスが参加しボレロ”Flor”を歌ったっている。誰だ?そのベニート・マルティネスってのは?なんとバッド・バニーなのだ。本名名義で楽しそうにボレロを歌っているというわけだ。

ジャンルだけ見るとちょっと思いつかない組み合わせだが、トラップの歌謡性が意外な拡張性を以て何かを生み出している、といえるんじゃないだろうか。ラテンはリズムだけではなく、独特の抒情性を持つことで大きな支持を得る形に拡大する。マンボ/サルサのアルバムに必ず1曲入るボレロ、サルサ・ロマンティカの歌謡性、2000年代レゲトンの哀感と中南米への拡大などを例にとる事が出来るかもしれない。

このラインではまだまだ作品がまだ続きそうな気がして楽しみだ。


Los Rivera Destino feat. Benito Martínez – Flor (Official Video)

https://youtu.be/dsBc8FF5LGg





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◆佐藤由美(GO! アデントロ!/南米、ブラジル & more)
『余録『イン・ザ・ハイツ』 舞台を思い出しながら映画を観た』



 11年と2ヵ月前、映画化決定を受けてLAとNYCで再上演中だった舞台版『イン・ザ・
ハイツ』
。この時点では、ケニー・オルテガ(※マイケル・ジャクソン『THIS IS
IT』等を手がけた)が監督を務める予定だった。だが企画はいつしか頓挫し、次に名
乗りを上げたところもトップが破廉恥な訴訟沙汰を起こしたせいで立ち消え。だから
決して忘れていたわけじゃないけれど、やっと完成した作品が今夏公開されると聞い
て、正直びっくらこいた。10年余も経ってしまったので、さすがにリン=マヌエル・
ミランダ
は主人公ウスナビを後進に譲り、重要な狂言回し(?)ピラグア売りに徹し
ている。


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 LAで3夜連続、都内で2晩もしつっこく舞台を観たせいか、すべてがもう懐かしく、
ニーナのテーマ「BREATHE」の一部歌詞は映画を観ながら口ずさめた。

 サントラCDと旧劇場版との聴き較べも、なかなかに面白い!(※あ、11年前の曲解
説はスルーしてください。解析に不備が多々見受けられるので…汗) その筋のプロ
が随所に真正の磨きをかけた豪華な映画版のサウンドと、楽曲の魅力がストレートに
伝わる劇場版の違い、とでも言えるだろうか。

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 そのオリジナル編曲を手がけたのが、音楽総指揮とクレジットされているアレック
ス・ラカモア
(Alex Lacamoire)! 2003〜04年リン=マヌエル・ミランダのチーム
に参加したLA生まれ、9歳でマイアミに移り住んだピアニスト。フランス人の曾祖父
を持つキューバ系ファミリーに育ち、クラシックの素養を身につけた。ラジオから流
れてくるポップミュージック(マイケルやマドンナ、シンディ・ローパー)に親し
み、成長してジャズを学んだ。バークリーで編曲を専攻したが、ピアニストとして
ミュージカルに携わり始めたのは13歳の頃と、かなり早熟。特別なプロジェクト
『ITH』は最優先の仕事で、編曲のため原典の音楽をかなり研究したと語っていたっ
け。

 暑くて暑くて、ドクソ暑かったこの夏。「Calor! Calor! Calor!」と歌い始める
「PACIENCIA Y FE」は、ひょっとして有名なボレロ「Amor」(1941年作)がヒントに
なったのか!?と思いきや…リン=マヌエル・ミランダ、「えー、その歌知らな
い!」と笑ってました。やっぱ世代差がありすぎましたかね。ちなみにリン=マヌエ
ルの生地は、ワシントン・ハイツの北隣り、インウッドらしいです。

(PS:編集部より:2014年の関連記事もぜひ参照ください)

佐藤由美『日本版初上演にちなみ、『イン・ザ・ハイツ』こぼれ話を』2014.4.18
http://elpop.jp/article/93365210.html
]



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◆石橋純(熱帯秘法館/CASA CACHIBACHI担当/ベネズエラ& more)
『「イン・ザ・ハイツ」を2度楽しむための7項』



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消火栓放水で暑さをしのぐ(劇場パンフレットより)

「イン・ザ・ハイツ」は、ニューヨークのバリオ(下層地域社会)であるワシントンハイツを舞台に、スペイン語圏カリブからの移民達が、主流社会からの承認を勝ち取るべく各人のフィールドでチャレンジするミュージカル映画だ。主要登場人物の若者4人が目指すのは「ささやかな夢」の実現。ボデガ(食料品店兼雑貨屋)を営むドミニカ系一世のウスナビは、故国の観光ビーチで父が経営したバー《Sueñito》(ささやかな夢)の再建を夢見る。ウスナビの恋人バネッサは、ネイリストとして働きながらアパレルデザイナーを目ざす。アフリカンアメリカンのベニーはビジネススクールを出て経営者になることを夢見る。難関スタンフォード大学に入学したバリオの才媛・プエルトリコ系2世のニーナは、法律家を目指す。バリオに再開発の波が迫るなか、各人は細部をおろそかにせずに日々奮闘していく。時代設定は、ニューヨークを大停電が襲うという事件から、2003年8月であることがほのめかされている。

映画未見の方へ
本稿には、若干のネタバレが含まれます。閲覧にはご注意ください。

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ニーナとベニー(劇場パンフレットより)


1.ちょっとした細部へのこだわり
《Little details to show the world that we are not invisible》 「ちょっとした細部にこだわって、この世に私たちの存在を示すのよ」バリオの長老であり、精神的支柱であるクラウディアばあちゃん(アブエラ)がいつも口にする人生訓だ。この言葉は、この映画のクリエーター・チーム------ジョン・M・チュー(監督)、リン=マヌエル・ミランダ(原作、詞曲、音楽、製作)、キアラ・アレグリア・ヒューディーズ(脚本、製作)------にとってのマニフェストでもある。

細部へのこだわりの例として、ばあちゃんはプエルトリコ伝統の刺繍を紹介する。亡き友(ニーナの母)がひと針ひと針縫いあげた熱帯の花のモチーフのランチョンマットだ。カリフォルニアからひさびさに帰省するニーナを囲む宴会で、刺繍に見合うとびっきりの郷土料理をばあちゃんは用意する。アロス・コン・ポジョ(鶏肉炊き込みご飯)、ギソ・デ・レス(牛ハラミの煮込み)、タマル(トウモロコシ粉ちまき)、ペルニル(豚モモ丸焼き)、さらにスウィーツも3種くらいある(eLPopメンバー高橋めぐみによる料理詳説熱望!)。参加者10人くらいの宴会なのに食べきれないほどの数量とこだわりだ。「このお料理見て!」とばあちゃんもご満悦。この過剰すぎる「お膳立て」もまた、ラティーノの祝宴文化を世界に示すため、製作チームが破格の手間を投下したのだろう。写っている料理は食べても最高に旨いはず! 現場ではキャスト・スタッフに振る舞われたのだろうか? 腹ぺこで映画館に行くことだけは絶対に避けたほうがいい。

2.バリオとは?
この物語における「バリオ」は、標準スペイン語として辞書にも出ている「地区」とは、ニュアンスが異なる。「(米国)ヒスパニックの居住区」という訳語も、説明不足というか、むしろ人種主義的含意のある不適切訳と言えよう。米国ならびにスペイン語圏カリブ海域のスペイン語で《barrio》は都市内部あるいは周縁部に形成される下層地域社会を指す。19世紀初めごろまでに興った原初のバリオは、植民地期に形成された沿岸部の城壁都市の外側に、自由身分のアフリカ系人や奴隷身分からの逃亡者、混血の人々、英仏蘭領からの移民などが集住した地域であった。こうした旧来のバリオは、20世紀以降、都市拡大により旧市街の一部として呑み込まれ、下層地域として残存した。いっぽう近代化とともに出現したバリオには次の3つのタイプがある。

A インナーシティ型 交通手段の発達ともに、郊外の新興住宅街への人口流出が起ったことにより低所得者地区と化した旧市街(←ワシントンハイツはこれ)
B 不法占拠型 斜面や低湿地など未/低開発地域に農村部から流入した人々が形成した地域
C 団地型 行政によって開発された低所得者向け集合住宅群

「ゲットー」「スラム」「シャンティタウン」「貧民街」「ドヤ街」などとはことなり、「バリオ」は、草の根民衆が自律的に創建した地域社会として、誇りをこめて使用されることもある。この呼称ともに祝祭・サルサ・壁画・ヒップホップなどの民衆文化が発信されてきた。

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バリオを出て行くことは、社会上昇すること(劇場パンフレットより)

3.バリオを忘れたラティーノ
この物語の枠内で、実際に夢を果した人はひとりもいない。小さな冒険に成功したり、挫折を乗り越えたりはするが、目指す夢を実現するか、諦めてしまうかは、物語の外の「未来」のこととなる。大学中退を心に決めたニーナは、父の英断と仲間の励ましを得て、復学の途につく。だが彼女を待ち受ける「未来」は甘くはない。なぜなら、プエルトリコ系、褐色肌(トリゲーニャ)、バリオ出身、女性という4重のハンディを抱えているからだ。マイノリティの出自を持つ者は、高学歴を積めば積むほど、それに釣りあう就職機会を得にくくなる。学歴エリートにふさわしいポジションを必死に得ようとするあまり、主流社会に過剰適応し、自分のルーツを否定したり、それに羞恥心を感じたりするケースも少なくない。その結果、出自への劣等感を覆い隠す虚勢とともに社会上昇の階梯を登っていく------「バリオを忘れたラティーノ」としてよくある話だ。そんな「プラスティック」な弁護士のキャリアを積むために汲々とするより、収入は少なくとも、バリオに戻って、「肉と骨のある」社会派弁護士として地上げ屋とやりあうのがニーナにとっての最適解かもしれない。「出世してもバリオを忘れない」-----そんな若者が、実在するだろうか? いや、してほしい!


4.Paciencia y fe
ドミニカ随一の観光地プエルトプラタの好立地とはいえ、ハリケーンで吹っ飛んだ亡き父のバーをゼロから再建するチャレンジは、ウスナビにとってリスクが大きすぎる。しばらくはワシントンハイツのボデガを切り盛りして機をうかがうのが、これまた最適解かもしれない。ここで思い当たるのが、ばあちゃんお気に入りのもうひとつの人生訓《Paciencia y fe》だ。劇場版字幕では「忍耐と信仰」と訳されていたが、「あせらず、自分を信じて」---こんな翻訳がいいと私は思う。無理な背伸びをして破綻するより、親しい仲間に囲まれて、そこそこに暮らすことは、決してレベルを下げて妥協するってことじゃない。「あせらず、自分を信じて」進めばいい。これを「主流社会への迎合」「モデル・マイノリティ志向」と類型化してほしくはない。「持たざる者の処世術」と呼びたい。彼ら・彼女らは、日々の暮らしのちょっとした細部に、主流社会への抵抗とルーツへの誇りを込めているかもしれないのだから。

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"Paciencia y Fe" Abuela Claudia (劇場パンフレットより)


5. ピラグア/セピジャオ
劇中で成功を掴む者はひとりとしてないのだが、いつもやられっぱなしの主流社会にひと泡吹かせる奴はいる。「イン・ザ・ハイツ」の生みの親、リン=マヌエル・ミランダおんみずから演ずるかき氷(ピラグア)屋だ。「かき氷」はカリブ海域各地でお国ぶりを表わす名前で呼ばれる。「ピラグア」はプエルトリコ弁。ドミニカでは「ジュンジュン」または「フリオ・フリオ」(JLGの歌にも出てくる)。キューバでは「グラニサオ」、コロンビアとスリア以外のベネズエラでは「ラスパオ」。そしてグアコの故郷・スリアでは「セピジャオ」。eLPop読者の多くがピラグアの歌でグアコの名曲を思い出したはずだ。1984年第26回カリビアン・シリーズ・ベースボール大会のゲスト楽団として招かれたグアコは、サンフアンで「セピジャオ」を熱演している。人気者アミルカル・ボスカンが「ご当地プエルトリコではピラグアでおなじみだよね〜」と即興で歌ったものだ。おっと、脱線しすぎた。主流社会の荒波に呑まれそうな「イン・ザ・ハイツ」のピラグア屋は、延長10回裏、まさかの逆転サヨナラホームランを放つ。ぜひエンドロールを最後まで観てほしい。

Guaco "Cepillao" 1984年カリビアン・シリーズ・ベースボール大会に招かれた際のTVスタジオ・ライブ。「ピラグア」が歌われるのは4分27秒から。

https://youtu.be/548o8cji5p0


6. チュー監督の映像美
ジョン・M・チュー監督の映像はとても美しい。コダックのネガカラー・フィルムで撮影したような柔らかい落ち着いたトーンで、良質なドキュメンタリーを思わせる映像を練り上げた。本物の映画フィルムは「ポジ」なので、「ネガ・フィルムみたいなルックの映画」というのはデジタル技術だからこそできることなのだ。浮き立つビートに乗せて進むドラマの映像は、むしろ静謐基調と言える。ウスナビの店やアパートの日中シーンは窓からの自然光撮影であるように見える。きわめつけはバルコニーのシーン。ハドソン川とワシントン・ブリッジを越えて差し込む夕日が、画面にハレーションを起こす。レンズを直射し、映像処理エンジンののダイナミックレンジを遙かに超えてあふれ出す太陽光が、摩天楼の谷間の小さなバルコニーで肩を寄せ合うニーナとベニーそれぞれに、未来へのエネルギーを照射するかのようだ。そしてふたりはバルコニーから飛び出して踊る。ポスプロチームのSFXも、キャメラ班の自然光撮影に勝るとも劣らない職人技だ。

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本作映像の白眉、夕日のバルコニー(劇場パンフレットより)


随所に登場する水のイメージもまた素晴らしい。カリブの島々にルーツを持つ人々を描くこの映画では、海/水の表象がドラマの導線となっている。ラスト近くでバリオの子どもたちが水浴びに走る------その水源は街角の消火栓だ。マンハッタンの住民が消火栓を勝手に開放して酷暑をしのぐ光景は、百年前から続くNYCの夏の風物詩なのだ。大都会に生まれ育った子ども達が成人するとき、それは「人生最良のひとコマ」として思い出されるに違いない。島生まれの一世がカリブ海のビーチを懐かしむように。


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ウィージー「日曜の午後、チェリー・ストリートで」夕刊『PM』1942年7月20号、32面。Weegee. Naked City. ICP, [DAMIANI]. 2019 (1st edition 1945). p.110.


7. アウトサイダーが捧げるNYCへのオマージュ
ハイテンションで一気にかけぬけた本編の後、スローなレゲトンに乗せてエンドロールが流れる。あわせてストリート・フォトグラフィがスライド・ショーされる。粒状粗めのモノクローム写真が、観る者の高揚感をじょじょに鎮めてゆく……。大きなフィエスタの後また日常に戻る、あのせつなさをも感じさせる。スチール写真家のクレジットは確認できなかったが、NYの街と人をモノクロフィルムで撮った20世紀の巨匠達---スティグリッツ、アボット、アイゼンシュタッド、ウィージー、アーウィットら---へのオマージュだと直感した。この大都会の片隅で、ちょっとした細部にこだわりながら、あせらず自分を信じて、誇りとともに暮らす人びとの営みにまなざしを向けた写真家たち。ここに挙げた巨匠は、みな他所から(多くは移民あるいは亡命者として)この街にやってきて、暮らしと町並みをフィルムに焼き付けた。リン-マヌエル・ミランダが20年以上かけて育て上げたニューヨークのラティーノの物語の映画化を、「新参者」として監督した台湾系一世のジョン・M・チュー。彼は、愛着をもってニューヨークを撮ったアウトサイダー作家の系譜にみずからを連ねることで、街を俯瞰する立ち位置を定め、暮らしの細部を描き込む「ライセンス」を得たのではないだだろうか。エンドロールのモノクロ・ショットは、ひょっとすると監督がみずからロケハン時に愛用の写真機で撮影したのかも……機材はLeica Q2か?……などと妄想が止まらない。

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eLPopでは本稿のほかにも「イン・ザ・ハイツ」についての記事を掲載しています。

『余録『イン・ザ・ハイツ』 舞台を思い出しながら映画を観た』
『eLPop今月のお気に入り!2021年7月』内(本稿の直前にあります)

『eLPop今月のお気に入り!2021年6月』内
佐藤由美『グアコ、イン・ザ・ハイツ、モニカ・サウマーゾ&ネルソン・アイレス、テコ・カルドーゾ』
http://elpop.jp/article/188808737.html

伊藤嘉章記事リンク:映画『イン・ザ・ハイツ』のサウンドトラック
http://elpop.jp/article/188879366.html

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