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『eLPop今月のお気に入り!2021年5月』

2021.07.01

またまた非常事態宣言延長な状況の昨今、『eLPop今月のお気に入り!2021年5月』をお届けしたいと思います。

新譜・旧譜、新作・旧作関係なく、音盤あり曲あり映画あり、本あり、社会問題ありと様々ですが、この月はなぜかこれだった、というのをチョイスしました。この月の気分が含まれた雑誌、プレイリストのように楽しんで頂ければ幸いです。

【目次】
◆山口元一 『コロンビア最新ヒット/アベラルド・カルボノ、ビクトリア・スール』(コロンビア)
◆石橋純  『オジサン心をわし掴みにするインディ流メジャー映画「ラ・バンバ」再考』(USA)
◆高橋めぐみ『「汚れなき悪戯」(映画)、ナイジェリア作家2冊(本)』
◆高橋政資 『クバディスコ』(キューバ)
◆水口良樹 『笹久保伸』(日本)
◆佐藤由美 『ナラ・レオンが愛したブラジルの古謡(うた)』(ブラジル)
◆岡本郁生 『エドウィン・ペレス/La Salsa Que Me Crió』(NY)
◆宮田信  『ブレインストーリー"ライプ"』(チカーノ)
◆伊藤嘉章 『ジリアン・カニサレス、アフロ・アーバニティ、ACJP』(キューバ、日本)
◆長嶺修  『5月の映画と本』


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◆山口元一("Ay hombe"担当/コロンビア)
『アベラルド・カルボノfeat.メリディアン・ブラザーズ、ビクトリア・スール&スサーナ・バカ』


コロンビアの最新ヒットを紹介するコーナー(とするつもり)、今月の1曲目は“Cumbia sampuesana”、演奏はアベラルド・カルボノfeat.メリディアン・ブラザーズ(Abelardo Carbonó feat, Meridian Brothers)。

La Cumbia Sampuesana

https://www.youtube.com/watch?v=23Q-Ok2I-s4

作曲はホセ・ホアキン・ベティン・マルティネス( José Joaquín Bettín Martínez. )、アニセト・モリーナ(Aniceto Molina)の大ヒットやガルシア・マルケスのノーベル賞受賞式でスレータ兄弟が演奏したことでも知られるクンビアの名曲です。

どこが最新ヒットだよと突っ込まれそうですが−ちなみに作曲は1952年−ほんとに今年2月に発表された曲なんだからしかたないです。チャンペータのレジェンドギタリスト、Covid-19でたいへんな目にあったそうですが、回復した大御所のカムバックを奇才エブリス・アルバレス(Eblis Alvarez)によるプロジェクト・メリディアン・ブラザーズ(Meridian Brothers)が祝います。


2曲目はビクトリア・スール(Victoria Sur)がペルーの大御所・スサーナ・バカ(Susana Baca)と、メデジンの詩人の作品を題材にコラボした”Camino de la Pátria”。

CAMINO DE LA PATRIA: VICTORIA SUR/SUSANA BACA

https://www.youtube.com/watch?v=5G8ax15aTwc

“Cuando la paz recobre su paloma y acudan los vecinos a mirarla.Cuando el
amor sacuda las cadenas y le nazcan dos alas en la espalda.Solo en aquella
hora podrá el hombre decir que tiene patria”

(平和が鳩を取り戻し、隣人がそれを見に来るときに、愛が鎖を揺らす時、背中に二つの翼が生える、そのとき初めて人は祖国を取り戻す)。Covid-19で破壊された社会の再生への思いが込められているのかも知れませんね。





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◆石橋純(熱帯秘法館/CASA CACHIBACHI担当/ベネズエラ& more)
オジサン心をわし掴みにするインディ流メジャー映画『ラ・バンバ』再考


5月13日はリッチー・ヴァレンス(1941〜1959)の生誕記念日だった。1958年7月から翌年2月までの短期間、3曲たてつづけに全米チャート入りヒットを出した伝説のロックンローラーである。本名リチャード・バレンスエラ。メキシコ系二世としてカリフォルニア州サンフェルナンドに生まれた。メキシコ民謡「ラ・バンバ」が世界的に知られるようになったのは、ロックンロール仕立てで歌われたリッチー・ヴァレンスのバージョンによるところが大きい。彗星のごとく現れたリッチーは、レコード・デビューの8ヶ月後飛行機事故で夭逝。17歳と10ヶ月の生涯を閉じた。生きていれば80歳だ。


Ritchie Valens "La Bamba"(1959)

https://youtu.be/BycLmWI97Nc

その短くも劇的な生涯を描いたのが伝記映画「ラ・バンバ」(ルイス・バルデス脚本・監督)だ。1987年に公開され、興行収入5千万ドルを超す世界的ヒットとなった。リッチー生誕80年の節目の年の5月全米の大型劇場網でひさびさに「ラ・バンバ」が回顧上映されたという。私もこの機にDVDを購入し、約30年ぶりで映画をじっくり見直してみた。あらためて確認できたのは、この作品がインディ映画の精神とマス・エンタテインメント製作の奇跡的なバランスのうえに成り立つ、たぐいまれな傑作だということだ。

映画「ラ・バンバ」予告編。冒頭シーンで季節農場労働のシーンが見られる。このシーンのエキストラとしてバルデス監督とリッチー・ヴァレンスの家族が動員されている

https://youtu.be/n-JpzvCT71g

脚本・監督のルイス・バルデス(1940-)はメキシコ系二世で、この映画で世界的にリスペクトされる作家となったが、元来筋金入りのチカーノ(メキシコ系アメリカ人)運動家でもある。デラノ出身のバルデスは幼少期に季節農場キャンプでの生活と労働を経験している。1965年に彼が旗揚げしたEl Teatro Campesino(農場労働者劇場・略称ETC)は、「Acto」と呼ばれる一幕芝居を得意とした。これは米国前衛演劇、プロレタリアート演劇、ラ米民衆演劇そしてそしてコメディア・デラルテの技法を織り交ぜた独自のスタイルだ。季節農場をトラック巡業し、現場での労働者との対話を英語・スペイン語2言語で台本に取り込み、しばしば観客自身にも演じさせるという実験的手法で上演された。米国公民権運動の主要指導者のひとりであるセサル・チャベス率いるチカーノ政治団体UFW(農場労働者同盟)の文化部門を担う存在だったのがETCだ。

ETCの代表作《Los Vendidos〜売切れ者達〜》 6:00より本編。冒頭5分はオープニンングパフォーマンス

https://youtu.be/IvDmbc8V6Z8?t=345


こうした活動を踏まえつつ、メインストリームとの接点を見いだしたのが1978年初演の舞台作品(のちに映画化)「ズート・スーツ」である。1943年にLAで起こった「ズート・スーツ騒乱」を素材にしたミュージカルだ。これはメキシコ系アメリカ人が標的とされた大規模なヘイトクライム事件であり、チカーノ運動の覚醒の契機ともいわれる。バルデスの「ズート・スーツ」はラティーノ作家によるはじめてのブロードウエイ公演作品となった。「ズート・スーツ」によって米国主流市場に進出したルイス・バルデスが、その名声を世界に轟かせたのが映画「ラ・バンバ」であった。

映画Zoot Suitより、チカーノ音楽の父祖ラロ・ゲレロの名曲"Marijuana Boogie"

https://youtu.be/Fa40Znpjqp0

映画「ラ・バンバ」の企画を長年温めていたのは、ルイスの弟であり俳優兼シンガーソングライターのダニエル(ダニー)・バルデス(1949-)だった。ダニエルもまた兄とともにETCの活動に参加するかたわら、米国のフォークソング運動やラ米のヌエバ・カンシオン運動に触発されたチカーノ・ソングを自作自演し、運動を音楽面から支える存在だった。「ズート・スーツ」でも舞台・映画両方で主演俳優を務めているいる。


チカーノ農場労働者運動を代表するプロテストソング「ピケ看板」(1967)歌と演奏:El Teatro Campesino、ソロ歌手ダニエル・バルデス

https://youtu.be/VsnxVnMUwfs



歌手としてのダニエル・バルデスはメジャーシーンでも活躍しており、リンダ・ロンシュタットの名作『ソングス・オブ・マイ・ファーザー Canciones de mi padre』(1987)にギタリスト兼歌手として参加している。

《Canciones de mi padre》ショー(1987)より"El sol que tú eres" 歌: リンダ・ロンシュタット&ダニエル・バルデス

https://youtu.be/9HOmblKoaIQ


ダニエル・バルデスは1970年代末から自ら主演する作品としてリッチー・ヴァレンスの伝記映画を構想しており、その取材のためリッチーの遺族(母コニー・バレンスエラと異父兄ボブ・モラレス)と親交を結び、彼の短い生涯についての一次資料をコツコツと蓄積していた。ダニエルのライフワークともいうべきリサーチ成果があったからこそ、兄ルイスの筆から緻密な脚本が生まれたのである。

ダニエルの「リッチー・プロジェクト」の実現に貢献したのが、映画監督テイラー・ハックフォード(1944-)である。サンタバーバラ出身のハックフォードはTV局の若手スタッフ時代に、番組出演したダニエルと意気投合する。ふたりは何度もリッチー映画製作の企てに挫折している。監督作品「愛と青春の旅立ち」の成功でハリウッドでの発言力を得たハックフォードは、コロンビア・ピクチャーズにリッチー企画を売り込むことに成功する。こうしてプロデューサー・ハックフォード、副プロデューサー・バルデス弟、脚本監督・バルデス兄からなるチームが発足した。カリフォルニア対抗文化世代の3人組は夢の実現に取りかかる。

南カリフォルニアの季節農場からブロードウエイにまで到達した手練れのルイス・バルデスは、「ラ・バンバ」を巧みなドラマツルギーで構成した。主人公リッチーはミューズに愛された青年(a.k.a.純粋無垢な音楽馬鹿)であり、画に描いたようなアメリカン・ドリームの申し子として描かれる。だからこの役を演ずる俳優は、特別なオーラを放つ存在でなければならない。低予算ゆえにスター俳優を起用できない制約下、主演のルー・ダイヤモンド・フィリップスを見いだすまで、チームは3000人以上をオーディションしたという。

ルイス・バルデスの社会派作家としての力量はリッチーの母コニーと兄ボブの人物描写に発揮される。女手ひとつで息子達を育て上げ、立派な教育を授けるべく奮闘する強い女性像には全世界のあらゆる民族の移民二世が母親の姿を重ね合わせるだろう。この映画を本当に見応えある作品にしているのは、はぐれ者の兄ボブの陰影あるキャラクターだ。モデルとなったボブ・モラレス(1937--2018)は、映画公開時50歳。劇中のボブを、そのまま「ちょい悪オヤジ」にしたようなたたずまいでメイキング映像に登場している(ボブは母コニーとともにたびたび現場に招かれ撮影に立ち会った)。

ボブ役のエサイ・モラレス(左)とボブ・モラレス本人(右)。名シーンとされる乱闘のセットにて
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映画のなかで、兄は弟をメキシコ側の町ティフアナへと連れ出す。私が一番好きなシーンである。めくるめく「異文化」として描かれるナイトクラブのハコバンドを演ずるロス・ロボスが、ベラクルス伝統音楽の「ラ・バンバ」を演奏する。そのサウンドに魅せられたリッチーは、夜の女をさておき、ギターを抱え、舞台下からC・F・G7循環コードで合奏する。彼の瞳は、ミューズに微笑まれてキラキラ輝いている。この「たぶんこうだったんじゃないか劇場」のあまりに抑制の利いた語り口は、ラ米文化を愛する者の胸にグッとくる。「リッチー、いい子だ! 」たんなる親戚のオジサンと化す自分がいた(笑)

映画La Bamba ティフアナ・ユニット ナイトクラブのシーン

https://youtu.be/oEeuca3cMjk


初体験を済ませ、二の腕にタトゥーを入れたリッチーは、ボブの友人の家で朝を迎える。そこでカルロス・カスタネダの「ドン・フアン」師匠のような呪術師からお守りを授かる。本物のリッチー・ヴァレンスはスペイン語を解さなかったし、メキシコ文化とは無縁に育ったとされている。映画でもその通りに描かれる。だが、このシーンで劇作家バルデスは、すくなくともメキシコ系のルーツに目覚める瞬間はあったかもしれない、と示唆する。ドン・フアン役を務めたのはETCのベテラン俳優だ。売春宿の支配人役もETCの演出家が演じている。(ほーら見ろ!オジサンたちはみんなリッチーが大好きなのだ。)この「ティフアナ・ユニット」が、演劇人バルデスのこだわりの対象であったことが、こうした細部にも表れている。遊び心がニクい。

この映画がヒットした最大の理由に、演奏の素晴らしさがあることは、過去30年間に語り尽されている。音楽映画としてこだわりの職人技は随所に見られる。ロス・ロボスが音声吹き替えしているリッチーの歌は言うに及ばず、ワンシーンだけ挿入されたルー・ダイヤモンド・フィリップス本人の歌唱も溌剌としている。クライマックスのロックン・ロール・ショーに登場する歌手役は、俳優でなく音楽家が選ばれている。しかもR&Bのジャッキー・ウィルソン役にハワード・ハンツベリー、ロカビリーのエディ・コクラン役にブライアン・セツラー、バディ・ホリー役にマーシャル・クレンショーなどと、じっさいに当該アーティストに傾倒する歌手を選定している。なお、ダニエル・バルデスも、叔父役としてリッチーの誕生日の場面でコリードを歌っている。(ダニー、あなたにはその権利があるとはいえ・・・ズルすぎないか? )

映画と実在モデルのパフォーマンスを比較するカルトビデオ。冒頭のコリードを歌うのはダニエル・バルデス

https://youtu.be/5VWYo5oJJTY

映画の副産物として、ロス・ロボスの「ラ・バンバ」が1987年の全米ヒットチャートで1位になった。これが、全米音楽市場で初めて1位になったスペイン語の歌である事実を知る人は少ない。

映画「ラ・バンバ」のシーンをふんだんに使い主演俳優ルー・ダイヤモンド・フィリップスもフィーチャーされたたロス・ロボスの「ラ・バンバ」PV(1987)

https://www.youtube.com/watch?v=nLAWPrCUQQ0


全世界に衝撃を与えたリッチー・ヴァレンスの「ラ・バンバ」(1959)は全米では最高22位にとどまっている。坂本九「Sukiyaki」が全米1位を取ったのが1963年だから、当時の米国主流メディアにおいてスペイン語の歌を意図的に締め出す力がいかに強かったかが想像される。半ば忘れ去られた存在でもあったリッチー・ヴァレンスのライフヒストリーを掘り起こし、作品化するバルデス兄弟のプロジェクトは、ロックンロール版楽曲「ラ・バンバ」に歴史を塗りかえる再チャレンジの役割を与えて、見事それを完遂させたといえるだろう。

カリフォルニア対抗文化3人組--バルデス兄弟とハックフォード--は、インディ映画の夢を全うしてこの映画を創りあげた。その興行成績は、はからずも米国エンタメ市場におけるラティーノ・オーディエンスの潜在力を可視化した。結果として「マンボ・キングス」「セレーナ」「エル・カンタンテ」などのラテン系コンテンツが後に続く道を拓いたのだった。





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◆高橋めぐみ(SOY PECADORA担当/スペイン語圏の本・映画)
『汚れなき悪戯(映画)とナイジェリア作家2冊(本)』


■観た映画:
『汚れなき悪戯』(1955)スペイン
(原題:Marcelino, Pan y Vino)
監督:Vajda László / Ladislao Vajda(ヴァイダ・ラースロー)

公式予告編

https://youtu.be/ewVHvDIiZTg

今回は子供の頃に(多分テレビで)観てトラウマ映画となった『汚れなき悪戯』を紹介します。この映画はテーマ曲の日本語バージョンも出てたいへんヒットしたはずなので、ご存じの方も多いかも知れません。
大雑把なあらすじ:映画の時代設定は19世紀前半、村祭りで賑わう日に病気の子供を見舞う修道士が語る「ある物語」として始まります。その昔のある日、修道院の門前に男の赤ん坊が捨てられていました。その日の聖人にちなみマルセリーノと名付けられた赤ん坊を育てられる者は貧しい村にはおらず12人の修道士たちが育てることになります。すくすくと育ち5歳になったマルセリーノは入ってはいけないと言われていた屋根裏部屋で大きな十字架に磔にされた男性像を見つけ、その像と交流(!)、パンとワイン(pan y vino)を差し出し願いを叶えてもらいます。冒頭の村祭りはマルセリーノを讃えた祭りだったのです。マルセリーノの願いとは何だったのでしょうか・・・。

もちろん、マルセリーノのわんぱくでかわいい子供ながら親兄弟を知らない寂しさや個性的な修道士たちや村の人々との楽しく滑稽なエピソードも描かれますが、仏教系の幼稚園に通いつつ日曜学校にも参加していた矛盾した無知な子供には、それが誰かうすうす気づいてはいても(そもそも流血している)動く男性像が恐ろしく「願い」の結末もかなりショックで、今思い出しても少し不安になるトラウマを負いました。12人の修道士たちは皆いい人とはいえ、なかなかに個性的な風貌で少し怖かった記憶があります。

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(公開時のオリジナルポスター)

この映画は14世紀にイタリアのウンブリア地方で起きたらしい民間伝承をヒントに書かれたという、スペインの作家ホセ・マリア・サンチェス・シルバ(1911-2002 José María Sánchez Silva)の同名小説『Marcelino, Pan y Vino(マルセリーノ、パンと葡萄酒)』を元に作られました。サンチェス・シルバは脚本も担当しています。彼はアナキズムに傾倒していたジャーナリストの父が家族を顧みなかったため児童福祉施設などで育ち、速記やタイピングを学びました。政治的にはフランコのファランヘ党の仕事をしていたことからも伺えるように保守的右翼的で、この小説の成功の後、フランコ自身の映画やフレデリック・ロシフの『Mourir à Madrid』(1963)に対抗したドキュメンタリ『Morir en España』(1965)にも関わっています。

とはいえ、この映画は宗教映画の枠を超え世界的に大ヒットした初のスペイン映画となり多くの国で公開され、老若男女の涙を絞りました。マルセリーノ役のパブリート・カルボは子役としていくつの映画に出演した後俳優を辞めています。監督のヴァイダ・ラースローはハンガリー人でイタリアからスペインに渡りスペイン映画の監督として活躍しました。

奇跡が起きた結末が「あれ」、というのは何とも受け入れがたいのですがカトリックの信仰上ではそいうことではないようです。映画はフィリピン(1979)、イタリア(1991)、メキシコ(2010)などでリメイクされ、アニメ(2000-2001。制作には日本アニメーションも参加)にもなっています。



読んだ本:ナイジェリアのミニ特集-前編(来月後編を予定)。
カリブ中南米にも深く関係しているアフリカのナイジェリアの文学の新旧注目作品です。

◆『マイ・シスター、シリアルキラー』(2018-日本での出版年は2021)
原題:My Sister, The Serial Killer
著者:オインカン・​ブレイスウェイト, Oyinkan Braithwaite
翻訳:粟飯原 文子
ハヤカワ・ミステリ/早川書房

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https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014731/


ナイジェリアの若き新星オインカン・​ブレイスウェイトが描く異色ミステリ。

物語の舞台は原題のナイジェリアの大都会ラゴスですが、ナイジェリアであることはまずあまり意識しなくても問題なく読み進めます。物語としても完成度が高くたいへんおもしろいのです。欧米で数々の賞を受賞しただけのことはあります。

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(オリジナルの表紙)

看護師として真面目一徹に働く優秀だが容姿にはあまり恵まれていない姉コレデに対して、老若男女すべてが魅了されてしまう魅力的な美女でありながら人殺しの妹のアヨオラ。頭脳以外はすべて妹に負けている姉は様々な葛藤の中、妹の殺人の後始末に奔走し、勤め先の病院に入院中の昏睡状態になっている患者に本音をぶちまけています。しかし、付き合う男を殺してしまう妹は姉が密かに恋する医師に案の定近づいて、そして...どうなるコレデ。姉はいつも妹にこき使われる!

姉妹の共依存的な関係がもたらす悲劇なのか、ファムファタールに振り回される人々のまぬけさか、男はやっぱり顔なんだね!と呆れるか、ひとつぶで何回も美味しい!



◆『崩れゆく絆』(1958--新訳での出版年は2013)
※1977年に古川博巳氏の翻訳で門土社より出ている。
原題:Things Fall Apart
著者:チヌア・アチェベ , Chinua Achebe
翻訳:粟飯原 文子
光文社古典新訳文庫

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https://www.kotensinyaku.jp/books/book180/

今、このときに粟飯原文子さんという翻訳者が存在することを深く感謝したいのです。というのはこの世界的な名作である『崩れゆく絆』は19世紀末のナイジェリアのイボ族の村が舞台なので、『マイ・シスター、〜』と違い情報が必要だからです。できれば詳しい情報が。その情報は注釈として丁寧にもたらされているので、安心して読み進めることが出来ます。個人的には例えば過去の著名な文学作品や映画などが言及された場合にくどくどと注釈が付けられるとうるさく感じる方なのですが、この場合は絶対に必要です。もしこの作品を読んで何かを得たと思った方は、リンク先にある訳者による「あとがきのあとがき」もぜひお読みいただきたいです。優れた翻訳者はすぐれた作家と同等(あるいはそれ以上)に必要な存在です。

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(オリジナルの表紙)

『崩れゆく絆』は、ひとりのよりよく生きようとする男が時代の流れに飲み込まれて行く物語です。自然の中で真面目に根気よく働き家族を養い部族のために生きる勇猛な戦士でもあるオコンクウォ。その生活を危うくするものは近代化の名を借りた「キリスト教」という宗教として現れます。時代設定は前述したとおり19世紀末、まさにイギリスからもたらされた宗教によってナイジェリアの文化が大きく揺さぶられた時代です。「アフリカ文学の父」と称される著者のチヌア・アチェベ(1930-2013)が、ナイジェリア独立の2年前の1958年に発表し全世界で一千万部以上売れた小説です。

読み終わった後に(実際に打ち込まれたことありませんが)胸に杭を打ち込まれたような衝撃を受けました。





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◆高橋政資(ハッピー通信担当/キューバ、ペルー、スペイン)
『クバディスコ』



● Cubadisco 2020 2021

昨年、コロナ禍で中止された『クバディスコ(Cubadisco)』が、5/15〜5/23の日程で、オンラインを中心に『Cubadisco 2020 2021』として、2年分をまとめる形で開催された。

クバディスコは、1997年に開始され今年が24回目。その年に発売されたオーディオやヴィデオ作品から賞を決めたり、音楽産業に長年貢献した人物や団体に賞を与えたりというのが柱になっており、U.S.A.のグラミー賞と同じような音楽フェスティヴァルだ。

当初は、経済危機から脱するためにキューバ政府がとった“市場開放”と“海外企業の条件付きの進出許可”にリンクしたものとして、海外のレーベルやプロモーターが参加する音楽見本市(Feria)という面も強かったが、10年ぐらい前からは、音楽賞と市民も巻き込んだ音楽フェスティヴァルという面を押し出したものに変容してきた。
毎回、セカンド・テーマとして、ゲスト国を決めその国のミュージシャンなどを招待してきたが、今年はスペインだったようだ。十数年前には日本が選ばれ、日本からもミュージシャンだけでなく、フェスティヴァル参加ツアーも組まれ、多くの一般のファンもこのフェスティヴァルに参加。読者の中には、実際に楽しんだ方も居られるのではないだろうか。

先月の伊藤嘉章氏の記事とダブってしまうが、まずはグラン・プレミオ(大賞)をとった2作品をご紹介したい。

* Gastón Joya & Rolando Luna『Fusion de almas』
ピアニスト、ロランド・ルナとベーシスト、ガストン・ホヤによるデュオ・アルバム。普段は、ジャズ、キューバン・ジャズを指向する2人が、18世紀から19世紀初頭までのカリブ、中南米のクラシック作曲家の作品ばかりを取り上げた作品となっている。

取り上げたのは、イオグナシオ・セルバンテス、アレハンドロ・ガルシア・クトゥルラらのキューバ人作曲家、アルゼンチンのアルベルト・ヒナステラ、フリアン・アギーレ、ブラジルのエルネスト・ナザレーというラインナップ。このラインナップからもお解りのように、中南米カリブ独自な音楽を感じ取って作曲し、後のポピュラー音楽にも繋がるような作品を残した人たちばかり。ロランド・ルナとガストン・ホヤは、自身のルーツを感じながら演奏しているようで、気品と優しさが感じられる。

なお、この2人は、数年前のオマーラ・ポルトゥオンドの来日公演でバックをつとめていた。ロランド・ルナは、映画『キューバップ』にも出演していたので日本でも有名だが、ガストン・ホヤも本国でリーダー作も発表している実力派だ。

<アルバム表題曲「Fusión de alma」イオグナシオ・セルバンテス>

https://youtu.be/itqEfe9bh2k

<「Danza del tambor」アレハンドロ・ガルシア・クトゥルラ>

https://youtu.be/BmFiyxC6jAM

<「Danza de la moza」アルベルト・ヒナステラ>

https://youtu.be/p-qS-qb-ZTA

<「Polka Cabakiño」エルネスト・ナザレー>

https://youtu.be/3-Gyxqa3X9A


* Manolio Simonét『Al son del caballero』
マノリート・シモネーが音楽プロデューサーになって制作されたアダルベルト・アルバレス・トリビュート作。彼自身のグループ、トラブーコの他、ロス・ケ・ソン・ソン、ロス・バン・バン、レベ、エネヘー・ラ・バンダ、アラゴン、エル・ニーニョ、マイケル・ブランコ、アレクサンデル・アブレウなどなど人気グループばかりが参加。バンボレオは、アダルベルトと繋がりの深いプエルトリコのヒルベルト・サンタ・ロサをフィーチャリングしている。アダルベルト・アルバレスの代表作を中心に、彼に捧げた曲なども収録。
ソンの復興と発展、ラテン・アメリカ各国での復権を担ってきたアダルベルト・アルバレスは、自身のオルケスタ結成35年も評価され、特別賞を受賞したそうだ。

<アルバム表題曲「Al son del caballero」マノリート・シモネー・イ・ス・トラブーコ>

https://youtu.be/X-tKDzW-Ne4

<「A Bayamo en Coche」エル・ニーニョ・イ・ラ・ベルダ>

https://youtu.be/BUOXgEHlBcs

<「Hacer una Canción」ラサロ・バルデース・イ・バンボレオ ft.ヒルベルト・サンタ・ロサ>

https://youtu.be/HcDckPv8DDE


* YUKO FONG『HABANA, NOVIA DE MIS SUENOS』
* OKAN YORUBA『OKAN YORUBA 2 ~Oru Igbodu~』

知る人ぞ知る、キューバで活躍する日本人女性、YUKO FONGさん関連の作品2タイトルもノミネートされたのも話題。

『HABANA, NOVIA DE MIS SUENOS』は、2013年にホアキン・ベタンコーをプロデューサーに迎え録音を開始。長年掛け様々なスタイルを豪華ミュージシャンで創り上げた作品。

<YUKO FONG feat.Rumberos de Cuba•OBOROZUKI• Dir.Joseph Ros>
日本の「朧月」をルンバで歌った、アルバムのクライマックス曲

https://youtu.be/vkMz24Xvd0g

OKAN YORUBA『OKAN YORUBA 2 ~Oru Igbodu~』は、YOKO FONGが、長年ライフ・ワークとしてきたサンテリーアの重鎮アンヘル・ボラーニョスの文化的遺産を記録した録音の第2弾。
儀礼の最初に演奏され、歌も踊りもなく、3本の両面タイコ、バタのリズムだけで奉納されるOru Igbodú(オル・イボドゥ)を収めた、これまでなかなか録音物として聞くことが出来なかった貴重な内容が、認められたようだ。


なお、今回のクバディスコでどんなアルバムがノミネートされたか、興味のある方は、『El Periódico Cubarte』のYouTubeチャンネルで確かめられる。

Cubana.jpg
https://www.youtube.com/channel/UC34fauvOYJ81hinlOACcE0Q/videos

にしても、ほとんどがまだCDなどフィジカルな商品にはなっていない、早くて半年から2年先だろう。CDにならないものも多い。時代なのでしょうがないが、配信だけというのは逆になかなか情報が掴みにくい、と思うのは、おやじ世代からなのだろうか(つぶやきです)。


クバディスコは、賞レース、コンサート意外に、様々なシンポジウムも開催されるのだが、基本スペイン語なので、私のようなスペイン語が得意でないものには敷居が高い。そんな中で、今回言葉が分からなくても楽しめたものがあった。あくまで私にとってだが。

音楽公社「EGREM エグレム」が主催した「Suena a Cuba . Encuentro Internacional de Coleccionistas y Melómanos. Primera Edición.」。要するに「キューバ音楽コレクターと愛好者の国際ミーティング」。
世界中の有名、無名コレクターがコレクションを自慢し、とっておきの1曲(1枚)を紹介するという趣旨のミーティング。有名どころでは、ディスコグラフィーと音楽研究書の著作で有名なCristobal Diaz Alaya氏や世界的なラテンの大コレクション団体、Gladys Palmeraの代表者が参加していた。他に、キューバの有名な研究者Radamés Gira氏も出演していて興味深かった。

前半には、イラケレの元メンバーによるイラケレとチューチョ・バルデースのレコード対談、最後には、キューバを代表するトレス奏者、パンチョ・アマート氏が、若手女性トレス奏者と共演&レクチャーするコーナーも設けられ、一般の音楽ファンも楽しめる内容となっていた。
<Suena a Cuba . Encuentro Internacional de Coleccionistas y Melómanos. Primera Edición.>

suena.jpg
https://fb.watch/62GSbY6GEB/




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◆水口良樹(ペルー四方山語り担当/ペルー)
『笹久保伸』


今月は笹久保伸さんの新譜「Chichibu」と前作「perspectivism」をあげたいと思います。
新譜は宣伝動画などがないようなのでとりあえず前作の方のYouTubeのみリンクをあげておきますね。


https://www.youtube.com/watch?v=4NaANRHg2ps

eLPop読者のみなさんには、笹久保伸さんの紹介はもういらないような気もしますが、簡単に。

笹久保さんは秩父でギターを学び、その後ペルーでアンデスギターの鬼才ダニエル・キルワヨに師事し、ペルー各地の音楽や芸術を吸収し、帰国後は再び秩父を拠点に秩父前衛派として音楽だけでなく美術や映画など多方面で活躍しているまさに芸術家として生きているギタリストである。彼のギターは一度聴くと忘れられない。特に生で聴くと響きがぶっ飛んでいてガツンと頭にしばらく鳴り響き余韻が残る。クラシックギターやアンデスの伝統的スタイルなどをきちんと学んだ上でさまざまなスタイルを取り込み模索し続けているその音楽は、まさに変化し続け目が離せない、そんな希有のギタリストです。

笹久保伸さんの前作「perspectivism」は、ちょうどブラジルの文化人類学者ヴィヴェイロス・デ・カストロの多自然主義とパースペクティヴィズムの論考を友人と読書会していたタイミングでもあったので非常にタイミング良く、「なんじゃこりゃ?」と素直に衝撃を受けた。改めて彼の視野の広さ、考えの源泉などをいろいろ想像する機会になりました。

それぞれの存在が生きるポジションによって異なる世界として認識され立ち現れる多自然主義的な世界を描き出すヴィヴェイロス・デ・カストロの「パースペクティヴィズム」。その一種難解でスリリングな概念をアルバムタイトルに据えているだけあり、その音色の多様さやメロディ世界の広がりに圧倒されたかと思えば、同じタイトル曲の曲が異なる世界をまとって現れるといったアルバムの構成は秀逸で、しばらくは繰り返し聴いたアルバムだった。今回、「Chichibu」発売ということで手元にCDが届くまで久しぶりに「perspectivism」を聴き返したが、やはりすごいアルバムだなぁと改めて強く感じた。

そして新譜の「Chichibu」。ようやく届いたものを聴いてみると、今作もそれに負けておらず、一見近いようで全然違う味わいをもった名盤だなぁと改めて感じた。笹久保さんのこれまでの活動にも、ふるさと秩父に対する強い思いが溢れていたが、それがついに真っ向勝負のシンプルなタイトルとなった新譜「Chichibu」では、全曲が各国のアーティストたちとコラボしている。むしろ秩父という日本の地方の町をタイトルにしつつ、世界とそれがダイレクトにつながっていることを感じさせる作品になっている(そしてそれは非常に重要なメッセージだ)。またそれぞれの演奏が絶妙に絡み合うようで、実はセッション的録音ではなく笹久保さんの演奏にかぶせる形で後から録音されたものという、驚天動地のアルバムでもある。それだけでなんだかこの時間差の対話の妙に目が行くが(そしてコラボの相手の人もほんとうにスゴイ人ばかりなのですが)、それ以前に笹久保さんのギターがひときわ冴え渡っていることがこのアルバムの揺るがない基層ととなっており、いや、それだけでなく、ギター自体の緩急、変転の自由さが、共演者の想像力を否応なくかき立て絶妙なやり取りへと誘いだし結実したのだろうなと感じさせる、そんな非常に完成度の高いこれまた度肝を抜かれたアルバムでした。

今回は初のレコード発売もされるということで、最近うちのレコードプレーヤーがあまりにポンコツで予約は見送ったのですが、じりじりと衝動的にポチってしまいそうな日々を送っています(その前に売り切れるかも知れませんが)。







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◆佐藤由美(GO! アデントロ!/南米、ブラジル & more)
『ナラ・レオンが愛したブラジルの古謡(うた)』

『ナラ・レオンが愛したブラジルの古謡(うた)/V.A.』(ディスコロヒア/オフィ
ス・サンビーニャ)
 
古い奴だとお思いでしょうが、古い奴“ほど古めかしい歌”を欲しがるもんでござ
います…ぶはは、まんまやんけ。

 “ボサノヴァのミューズ”と謳われたナラ・レオンがアルバムに録音、新しいレ
パートリーと同時に親しんだボサノヴァ誕生以前のサンバ、マルシャ、ショーロ、ト
アーダなど全25曲を編んだCD。ナラ・レオンがらみの曲ということで、楽曲ヒット当
時に録音され口ずさまれた、往年のスター勢揃いの豪華娯楽アルバム。カルメン・ミ
ランダ、ノエル・ローザ、オルランド・シルヴァ、アラシー・ジ・アルメイダ、アン
ジョス・ド・インフェルノ、ディック・ファーニー等、錚々たる顔ぶれと美声&個性
の歌だらけ。多彩な演奏もすこぶる味わい深い。

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 実は新譜を追いかける業務から離れた逃避行中、リオの逗留先でよくケーブルテレ
ビのCanal Brasilをつけては、古い映画ばかり観ていた。ちょうど白黒映画のテクニ
カラー化が始まった頃で、カルメン・ミランダ主演の代表作はことごとく錦の衣をま
とって観る者を圧倒。侮蔑の意味を込め“シャンシャーダ”と称された大衆向け国産
ミュージカル・コメディ作品の数々にも、うっとり〜。なんせ劇中、往時のスター歌
手たちが酒場の舞台を自身のヒット名曲で彩ってくれたりするのだから…もうたまら
ん。

カルメン・ミランダ「ハートがチクタク」

https://www.youtube.com/watch?v=BKutWmNKALg

 そうそ、1985年の来日公演で当アルバム収録曲「黒いツバメ」を、ナラが幸せそう
に歌っていたっけ…。



ナラ・レオン自身の75年作より「サビアー・ラランジェイラ(オレンジの木の小鳥)〜黒いツバメ」

https://youtu.be/BKutWmNKALg




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◆岡本郁生(ラテン横丁・USA LATIN & MORE)
『エドウィン・ペレス/La Salsa Que Me Crió』


Edwin Perez - La Salsa Que Me Crió

https://www.youtube.com/watch?v=Ga9ZQSaz6LE


エドウィン・ペレスはプエルトリコ生まれだが、いつの時点でかニューヨークに移住、ハードコア・サルサのラ・エクセレンシアでリード・ボーカルをつとめたあとソロとなって『ラ・ボス・デル・プエブロ』でデビューした。

少し前に出た2作目『ストリート・コーナー・クロニクルズ』の1曲目に収録されたのがこの「ラ・サルサ・ケ・メ・クリオ」だが、この動画、なんともたまらない内容ではないか!
まずはブロンクスのストリート歩くエドウィンから始まり、街の様子が挟み込まれながら、「俺を育ててくれたサルサ」について歌われる。

街角で踊る人たち、お祭りで盛り上がる人たち、スティックボールに興じる人たち・・・それはあの「アワ・ラテン・シング」のシーンにも似て、この街にたくましく生きる人々の姿がイキイキと映し出されているのだ。

しかし、こんなに楽しそうなときだけでないことは、誰もが知っている。生きてりゃ辛いことが多いけどさ、それでも生きてるぜ。サルサは死なないぜ、と頼もしい宣言をしてくれているように聞こえるのだ。


Edwin Perez, Featuring Orquesta SCC - No Puedo Respirar - "I Can't Breathe"

https://www.youtube.com/watch?v=cyffwqWXo7Y



一方で。1年前に公開されているのが、エドウィンと(ラ・エクセレンシアが名前を変えた楽団ともいえる)オルケスタSCC(サルサ・コン・コンシエンシア=意識を持ったサルサ楽団の意味)が共演した「ノ・プエド・レスピラル」。

「息ができない」というタイトルからわかるとおり、ミネアポリスのジョージ・フロイド事件にインスピレーションを受けたもので、動画には警官が市民(主にアフリカンやラティーノといったマイノリティ)をぶん殴ったり撃ったりするシーンがバンバン出てくる。

このふたつの動画はある意味で表裏一体と思うと、なんとも感慨深い。






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◆宮田信(DANCE TO MY MAMBO担当/USA+MEXICO)
『ブレインストーリー"ライプ"』

BRAINSTORY "RIPE"
チカーノ・バットマン周辺から登場した3人組インディ・バンド、ブレインストーリー

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出身はロサンゼルス郊外のインランド・エンパイア。ブラック・ジャズ、チカーノ・ソウル、オルタナ・ロック、ラテンなどを内包しながら、他とは全く異なるスウィートでサイケデリア溢れるサウンドを奏でる。クルアンビン好きにも超オススメ!

Brainstory - Long Day

https://youtu.be/11K-hQgOJi4

サイケデリア&メロウネス、甘いコーラスワーク、骨太グルーヴ!




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◆伊藤嘉章(カリブ熱中症担当/カリブ諸島+カリブ沿岸)
『ジリアン・カニサレス、アフロ・アーバニティ、ACJP』





欧州を中心に活躍するキューバ出身のジリアン・カニサレス(vo & violin)が先月REMIX ”Yemaya”をリリースした。

Yilian Canizares - Yemayá

https://youtu.be/aEbz2esfEsQ


昨年のアルバム『エルスリエ(ERZULIE) 』からの曲ををグレッグ・ランドゥがジリアンと共にリミックスしたもの。映像も含め魅力的だ。グレッグ・ランドゥはウィスコンシン生まれサン・フランシスコ育ちで80年代にはニカラグアのルイス・エンリケ・メヒア・ゴドイのギタリストとして彼のグループで活動していたが90年代以降は音楽やビデオのプロデューサーとして活躍している。

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ERZULIE

ジリアンの名前は2018年/2019年にオマール・ソーサとの日本公演で知っている方も多いだろう。ハバナ生まれで幼少からバイオリンを学び14歳でベネズエラに、次いで17歳でスイスの西の都市フリブール/フライブルグに留学しジャズと出会う。自己のグループで2枚、本人名義で2枚、オマール・ソーサと2枚の盤を出した後、一昨年『ERZULIE』をリリースした。

数年前のibeyi以来と言っていいのか、アフロキューバンを今の感覚で受け止めた魅力的な作品が出てきているが、『ERZULIE』もその一枚だ。

オマール・ソーサという「特異な」キューバンのピアニストとの共演は彼女のヨーロッパ基盤の活動と相まって、カリブ海とのつながりをヨルバやキューバだけでなく、ハイチやニューオリンズをも取り込んだものとしている。

タイトルの『ERZULIE』はハイチのヴォドゥやニュー・オリンズのヴードゥーでの愛や健康、美や情熱をつかさどる神であり、その起源はダオメー(Dahomey)に繋がるとも言われている。録音はニュー・オリンズだ。

メンバーはまずハイチ出身のポール・ボーブルン(g, vo)。あのミュジック・ラシンのバンド、ブークマン・エクスペリアンスのリーダー、”ロロ”ことテオドール・ボーブルンとシンガーのミメローズ・””マンゼ”・ボーブルンの息子でNYで育ち、ロック/ブルース/そしてハイチ・ルーツの音を作っている。ジャクソン・ブラウンのバンドに参加も。
ベースのチルド・トマスはモザンビーク出身で欧州を中心にオマール・ソーサやサリフ・ケイタ、ジョン・サントスなどと活動。

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Boukman Eksperyans

ドラムスのチャールズ・バーチェルはニュー・オリンズ出身でクリスティアン・スコット(tp)などとも共演。NYにて”ラヴ・エクスペリメント(The Love Experiment)”のメンバーとして活動。The Love Experiment は2018年に日本のソウル・バンドWONKとのコラボ盤をリリースし、日本公演も行っている。パーカッションのイノール・ソトロンゴはハバナ出身。2001年からパリで活動しチャノ・ドミンゲス、オマール・ソーサ、モリ・カンテ、マヌ・ディバンゴ、ロベルト・フォンセカなどと活動しているベテラン。

ゲストがまた面白い。ニュー・オリンズ出身の強力なトランペッター、クリスティアン・スコット。自己のグループやNINETY MILESプロジェクトで何度か来日もしている。

そしてスナーキー・パピーのマイケル・リーグ(b)、ビル・ローレンス(p)、ボビー・スパークス(organ)、ジャスティン・スタントン(kyd)、マルセロ・ウォロスキー(perc)の参加がとても興味深い。彼らは2015/2016/2017/2020年のグラミー賞を獲得してた、ジャズ/ロック/ファンク/ワールドなどの語法を取り込んだユニークなサウンドが身上。

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1曲目はスペイン語でじっくり歌いこんだ後、2曲目はロック色強くポール・ボーブルンのギターがリードし、3曲目のYemayaは今のアフロ・キューバン。4曲目、5曲目はハイチアン・クレオールで歌われる…と、一種不思議な流れだが、アフロ・キューバンにしろハイチアン・ルーツにしろ、現在に連なっている音の流れから一旦離れ、流れと関係なく今の感覚と重なる根っこと直接対話するような音だ。スナーキー・パピーの参加はそんなサウンド・メイキングに必要だったのだと思う。

Yilian Canizares & Resilience Trio - Contradicciones

https://youtu.be/vFEc19n0TKI

3曲目の”Yemaya”を聴いて頭に浮かんだのはアフロ・アーバニティ(Afro Urbanity)の”Yemaya”。アプローチは異なるが、やはりアフロ・キューバンに対し現在の音や感覚での関係性を直接創りに行くような響きが共通する。NANA Cantarina (vo, vocal effect), 津垣博通 (p, synth), 小泉哲夫 (b), 吉羽一星 (timb, perc), 関弘太 (bata, congas), 加納樹麻 (ds), 阿部道子(synth, p)というメンバーのバランスは、スナーキー・パピーと共通するものがあるかもしれない。デビュー盤『Afro Urbanity』は丁度制作が『ERZULIE』と同時期で、なにか同時代性も感じる。

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《Afro Urbanity》THEATER LIVE 2021

https://youtu.be/cU0MQ7p1fOM

アフロ・アーバニティのメンバーの関弘太(perc)が参加し、同じくメンバーの阿部道子(kyd)がアレンジとMIXで参加する”ACJP”(Afro Cuban Jazz Project)のデビュー盤『La Luz』も、アフロ・キューバンへの愛と敬意を表明しつつ、いわゆるキューバン・マナーから一旦離れたジャズのアプローチで新鮮な響きを作っている。関根恒太朗(sax, cho)、柴田亮太郎(g, cho)、田中洋平(b, cho)、関弘太(perc, vo)がいわゆるラテン・ジャズとちょっと違うものを創っていくのではないかととても楽しみだ。

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ACJP/Obatalá

https://youtu.be/XNLOXhNnKSM





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◆長嶺修(猫の目雑記帳担当/スペイン & MORE)
『5月の映画と本』

■録り溜めてあった、モーガン・フリーマン主演/クリント・イーストウッド監督の映画『インビクタス/負けざる者たち』(2009年)を観て、“不覚”にも感動してしまったので、まずはこちらから。

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ネルソン・マンデラの大統領就任後、1995年に南アフリカで開催された第3回ラグビーワールドカップにおいて、初出場となる南ア代表チーム「スプリングボクス」(アパルトヘイトにより先行大会の出場機会を逸していた)が、下馬評を覆して覇者になるという実話に基づくお話。国民を束ね熱狂させるナショナリズム高揚のためのスペクタクルということにもなりかねないわけですが、「パンとサーカス」のサーカスとしてでなく、「黒人」と「白人」の分断を解消しようと努め、対立した側が大事にしてきた価値(この場合はラグビー)を尊重し、なにより説得的な言葉を持つ政治的指導者=マンデラの姿とセットで描かれているわけです。もともとスポーツ観戦は好きだったのですが、五輪を巡り分断を助長するような政治屋たちの言動やグローバル・スポーツを牛耳る貴族たちの傲慢な振る舞いに辟易し、ネポティズムやクレプトクラシーが蔓延りビジネスと骨がらみになったスポーツがまったく嫌いになりかけていたなか、改めてスポーツの喚起力を思い起こさせられました。

それにしても、イーストウッドは巧いなあ。この映画は、自身の出演はなく、本人による企画でもなくて、製作総指揮を兼ねるフリーマンからの依頼を引き受けて監督したものということですが、ほとんどお約束の展開ながら、映画的リズムに思わず引き込まれてしまいました。ところで、劇中にマット・デイモンが主将を演じるところの南ア代表チームが、マンデラの収監されていた監獄を訪れるシーンがあるのですが、国連が決議・採択した被拘禁者処遇最低基準規則(2015年改定)のことを、通称「マンデラ・ルール(ルールズ)」というんですよね(入管の収容問題などを想起しつつ)。


■で、もともと取り上げようと思っていたのが、映画館で観た新作、藤元明緒監督・脚本の『海辺の彼女たち』https://umikano.com )。

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ベトナム人技能実習生として来日した3人の女性を主人公とする映画です。物語は、受け入れ企業の処遇に嫌気がさして、身分証などを預けさせられたまま失踪した3人が、不安感を表象するようなどんよりとした雲に覆われた、雪の積もる冬の北国へと逃れ、不法滞在者として漁港での雑務をこなす仕事に就くところから始まります。手持ち撮影を多用し(多用しすぎなようにも思いましたが)、長回しも駆使した、臨場感のある映像。とはいえ、この映画は技能実習制度そのものの問題を焦点化した内容というわけではありません。もちろんそれが、物語の背景としてあるわけですが、ここでは技能実習生という、わたしたちの社会に定着してきながらも顔の見えにくい隣人の、パーソナルで、且つどこででもありうる問題が描かれています。それは、リプロダクティブ・ヘルス/ライツにまつわる問題であったりするんですけど、ここでの「ヘルス」や「ライツ」はおカネによって規定されてしまっていて、人間を束縛するものとしてのカネって、本当にコワいな。


■技能実習制度について、鳥井一平『国家と移民 外国人労働者と日本の未来』(集英社新書、2020年)に、「まずは『技能実習生』と呼ぶ偽装をやめないといけません。『労働者を労働者として受け入れる』。そして『労働者が労働者として移動する』。大切なのは、そういうことだと思います。/技能実習制度の何がズルいかというと、『開発途上国への技術移転』ということを名目にしていることです。お為ごかしです。」とあります。この点については、日本の戦後の政府開発援助(ODA)が、アジア諸国に対する先の戦争の賠償と準賠償から出発し、米国の意向(所謂「逆コース」)に沿いつつ、金銭ではなく日本の生産物や役務を提供する形で、日本企業や日本の経済復興に利益をもたらすものであったことと、繋げて考えてみたりもできるかもしれません。

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なお、近年のこちら方面における南アの隣国モザンビークでの“やらかし”については、下記サイトやYouTubeにアップされているTBS NEWS「モザンビーク『プロサバンナ事業』日本政府が中止に(1)〜(5)」、舩田クラーセンさやかによる岩波書店「web世界」掲載の連載記事「モザンビークで起きていること」などをご一読/ご視聴ください。

モザンビーク「プロサバンナ事業」日本政府が中止に@〜D
https://youtu.be/zukXgKMQt4k
https://youtu.be/qtTIT-TAX0s
https://youtu.be/OBiNqQW1h3U
https://youtu.be/_RHelvc0Er0
https://youtu.be/jDISaOqTw-Y


モザンビークで起きていること
https://websekai.iwanami.co.jp/categories/79


モザンビーク開発を考える
http://stop-prosavana.heteml.net/mozambiquekaihatsu.net/index.html


◉とりとめなく脱線してしまいましたが、音楽要素の欠落した内容になったので、なんの脈絡もないんですけど、最後にオマケのリンク。息抜きにどうぞ!

泉友子・伴淳三郎「アジャパーサンバ」(1953年)

https://youtu.be/dccSggRI7ds




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