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「eLPopがガイドするラテン音楽最新地図Vol.2」(その4)

2020.05.16

去る2月6日に代官山「晴れたら空に豆まいて」で開催した「eLPopがガイドするラテン音楽最新地図Vol.2」の採録。ラストは、伊藤嘉章と岡本郁生による「プエルトリコ〜ニューヨーク〜カリブ編」です。


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◆Shakira & J. Lo's FULL Pepsi Super Bowl LIV Halftime Show


・伊藤×岡本の掛け合いでスタートした1曲目は今年の2月2日フロリダ州マイアミガーデンズのハードロック・スタジアムで行われた第54回のスーパーボウルのハーフショウから。
スーパーボウルはそのシーズンのアメリカンフットボールのチャンピオンを決定するアメリカ最大のスポーツイベント。そのハーフショウは全米の視聴者が視聴するトップレベルのエンタテイメントで、出演者の選択も内容も全米が納得するものが選ばれる。
そして今年はジェニファー・ロペスシャキーラを中心にバッド・バニーJ・バルビンのラテン勢が出演となったのは画期的だ。前代未聞と言ってもいい。
昨年の全米チャートを見るとラテン勢の活躍、特にレゲトンやラテン・トラップを含むダンスミュージックや歌ものがあえてラテンという必要のないほど大きなポジションをとっている。

がっちり構成されたダンサーと共に踊り歌われた曲は以下の通り。
She Wolf / Shakira
Empire / Shakira
Whenever, whenever / Shakira
I Like It / Shakira & Bad Bunny (Cardi B cover)
Chantaje /Shakira & Bad Bunny
Hip Don't Lie /Shakira
Jenny from the Block / Jennifer Lopez
I'm Real / Jennifer Lopez
Get Right / Jennifer Lopez
Waiting for Tonight
Love Don't Cost a Thing & Que Calor / J. Balvin & Jennifer Lopez
Mi Gente / Jennifer Lopez with J. Balvin
On the Floor / Jennifer Lopez
Let's get loud / Jennifer Lopez, Emme Maribel Muniz & Shakira
Waka Waka / Shakira & Jennifer Lopez

強力なダンスと音楽ときっちり連動させたライティングやCGも見どころで、NFLの予算の掛け方も相当気合が入っている。これだけラテンをプッシュプログラムをもってきたのは人種差別、マイノリティー差別のひどいトランプ政権へのNFLからの強いメッセージとも言っていいかもしれない。
ステージのハイライトは最後からの2曲目の"Let's Get Loudでのジェニファー・ロペス。アメリカ国旗のをデザインしたケープ状のものに身をくるんでの登場し、娘のEmmeが"Born in the USA"と歌詞を歌う中、ケープを広げると裏側はプエルトリコ旗となっているというサプライズ。
ハリケーン・マリアの被害への援助に冷淡な政権へのプエルトリコからのプライドの主張ともとれる痛快さだ。そしてシャキーラのWaka Wakaから激しいサルサのリズムで締めくくったラテン三昧のプログラムは今のシーンを象徴しているといえる。(伊藤)

・今回のハーフタイムショウは、内容が素晴らしかっただけでなく、そもそもこのようなショウを敢行したということ自体に意味がある。米国を代表する一大イベントでありながら(場所がマイアミだったせいもあるかもしれないが…)、まさに、ラティーノのラティーノによるラティーノのためのショウといった趣だ。米国内における現在のラテン・パワーを見せつけるものとなった。
最大のハイライトはもちろん、JLOによるケープのシーンだったが、もうひとつの大きなポイントは、前半のシャキーラ・パートのラスト、「Hips Don’t Lie」のあとの「No Fighting!」というメッセージであったと思う。
「争いをやめろ!」
世界中で頻発している争いに向けて放たれたこのメッセージが効力を発揮する前に、それとはまったく違った意味での新型コロナウイルスとの戦いが目の前に迫っているとはこのときは思いもよらなかったが、それはともかく、シャキーラは自らのアラブのルーツや、コロンビアらしいアフリカのルーツも前面に押し出し、世界の多様性を強烈にアピールしたのである。(岡本)

◆Mia / Drake & Bad Bunny


このハーフタイムショーで、シャキーラとのカラミで登場したのが、いまプエルトリコで絶大な人気者を誇るバッド・バニー。ご紹介したのはドレイクと組んだ2018年の特大ヒット「ミア」だが、ここではドレイクもしっかりスペイン語で歌っている。全米チャートにラテンがここまでガッツリ食い込んでくるような時代になっているのだ。
ちなみにバッド・バニーは今年(2020年)2月28日にいきなり新作アルバム『YHLQMDLG』(『Yo Hago Lo Que Me Da La Gana(俺はやりたいことをやるぜ)』)をリリースして大ヒット。さらに、5月10日には何の前触れもなくアルバム『Las Que No Iban A Salir(出るはずじゃなかった曲たち)』をリリースして驚かせた。(岡本)

◆TEMES / iLe


初アルバムで2016年のグラミー、翌年のラテン・グラミーと鮮烈なデビューとなったiLe(イレ)。兄のグループCalle 13 (カジェ・トレセ)に参加しつつ掘り下げ濃縮された彼女自身の歌や社会に対する問題意識が見事に表現された作品だった。
その彼女の2枚目のアルバム『Almadura』はジャンヌダルクかと思わせるジェケット。タイトルは"強い魂"の意味だがスペイン語で一文字違いの甲冑(Armadura)と掛詞のようになっている。ハリケーン・マリアで壊滅状態となったプエルトリコへの人種差別的なトランプ政権の対応、地元政府のていたらく、またその中で強く浮かび上がる女性蔑視や暴力、社会問題などに切り込み、同時にプエルトリコに限らず我々の社会のあり方や未来へ多くの視点が盛り込まれている。

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最初にPVと共にリリースされた"Temes"はその歌詞と彼女の静かで力強い歌、そして映像の強烈な印象と共に、聴くものを揺り動かす作品だ。
性暴力やDVを想起させる映像と共に、「あなたはなぜ私を恐れるの?」(Por qué me temes?)と問いかけるその歌詞は、理不尽に力を行使するものの内面のもろさ、弱さを浮き彫りにする。人間の弱さや欺瞞、ごまかし、強弁、そしてそれに起因する差別や紛争や、戦争をも深く考えさせる。(伊藤)

◆Tu Rumba / iLe


心を動かされる相手に出会った時の内面の情景が静かに描かれる。恋愛の歌と思うが、自分自身をぶれずに素直に持ったま、相手に合わせるでも依存するでもなく対峙してゆく様がとても彼女らしく一貫している。相手の存在をルンバ、自分をマンボと置きながらそのリズムが溶け合うかどうか、ゆっくり近づいてゆくような作品に重ねられた映像はボンバの演奏とダンス。
プエルトリコのアフロ系音楽の一つであるボンバは近年若い世代に大きく支持されていることは何度がお伝えしてきたが、踊り手と太鼓奏者の緊密で対等なリズムでの対話のシーンは、歌の内容とシンクロして素晴らしい。(伊藤)

◆Voy / Nella


昨年(2019年)の<第20回ラテン・グラミー>で新人賞を獲得したネラは、ベネズエラ生まれ、米国のバークリー音楽大学で学んだという歌手。1989年生まれだそうで、新人賞とはいうもののけっこう年齢が行ってからの受賞となるのだが、これまでの経歴があまりよくわからない。写真のファッショナブルな雰囲気からするとモデルや女優などをやっていた人なのだろうか? ジャズやフォークソング、かすかにスペインの匂いも感じさせる、じっくりと歌いこむスタイルが特徴だ。

◆Volveré A Mi Tierra / Nella


そのネラが歌う「Volveré A Mi Tierra(私の土地に帰ろう)」のPVは、ニューヨークの街角で歌うネラの姿から始まり、次から次へとさまざまな人物が登場してリレーのように歌う様子がコラージュされた(ただし歌声はネラのもの)作品。出てくるのはおそらくニューヨーク在住のベネズエラ人たちで、この数年、政治的対立から始まって社会的・経済的な大混乱に陥っている、いまは帰ることのできない故郷・ベネズエラへの愛を歌ったものだ。
しかし帰れぬ故郷はベネズエラだけではない。シリアだったり、ウイグルだったり、パレスチナだったり……あるいは単に物理的な要因で帰れない人もいるだろう。人にはさまざまな事情があり、それぞれの思いがある。そしてそんな人々を懐深く迎え入れてくれる街、ニューヨーク。故郷を思うすべての人たちに通ずる歌であり、PVである。(岡本)

◆Lámpara Pa' Mis Pies / Juan Luis Guerra


ドミニカ共和国のスーパースター、フアン・ルイス・ゲーラ。5年ぶりのアルバムで、ラテン・グラミーでは<ベスト・コンテンポラリー/トロピカル・フュージョン・アルバム>を受賞した『Literal』からの1曲。
まさにゲーラ節炸裂!といいたい、トラディショナルと最先端が見事にミックスしたスピード感あふれるメレンゲで、プエルト・プラタの街で撮られたPVも最高だ。(岡本)

◆Felicidades pa' la gente mia / Pirulo y la Tribu


ピルーロ・イ・ラ・トリブは2014にデビューしたプエルトリコ新世代のサルサ・グループ。コルティーホのような粘り気の上に、今のサルサの音、ティンバ、ボンバ、アフロキューバン、ヒップホップ感覚などが自然と溶け込み人気高い。
その彼らが山岳地帯の農民音楽であるヒバロをベースに今の感覚満載で彼ららしい味付けをしているのがこの曲。ハリケーン・マリアの後、疲弊したプエルトリコの心を奮い立たせるのはやはり彼らのアイデンティティを強く感じる音楽なのだ。アフロ・ルーツのボンバ、そしてこのヒバロやプレーナといった音楽は今まで災害や経済危機などの時、何度も人々の心を支えてきた。
ヒバロ音楽を代表する楽器、クアトロを弾くのはクリスチャン・ニエベス。親子二代の名手。場所はプエルトリコの山岳地帯のシアレス(Ciales)。クリスマスに欠かせない料理が並ぶ。レチョン(豚の丸焼き)、アロス・コン・ガンドウーレ(豆の炊き込みご飯)、コキート(ココナッツ・ミルクを使ったラムカクテル)・・。ハリケーン・マリア後、島を離れざるを得なかったプエルトリコの人たちが見るときっとちょっと切なく、そして同時にアップテンポで元気がでる曲だ。(伊藤)

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(ここからは、準備していたものの当日時間の関係でカットした楽曲。おまけでご紹介します!)

◆SE FUE - Mucho Manolo y La Tribu de Abrante


前述のボンバをトロピカルなダンス・ミュージックと融合させてる人気バンドがラ・トリブ・デ・アブランテ。今回は新進のムチョ・マノロがコラボを組んだ。
ムチョ・マノロはキューバのサンティアゴの出身。本名José Manuel Borló 。サンティアゴではヒップ・ホップ少年だったようだが、14歳の時に家族と共にマイアミに亡命。フロリダで過ごしレゲトンやトロピカル・ミュージックを続け、2016年にプエルトリコに移住。以来、地元のシーンで少しづつ力をつけてきた。ヒルベルト・サンタ・ロサとの共演があったりこれからが楽しみな一人。この作品ではトリブの重めの個性とマノロの軽快なキャラがいいバランスとなって楽しめる。(伊藤)

◆Te Iras con el Ano Viejo /Vico C & Lunay


レゲトンやラテン・トラップは次々に新しいスターを生んでいるがその一人がこのLunay。プエルトリコの生まれで小学生のころからフリースタイルのラップをはじめ、同時に教会でクリスチャンとして音楽活動を行っていたという経歴。今年20歳という若さだが、OzunaやAriel AAといったレゲトン勢との共演で力を付け、昨年アルバム・デビューした。クリスチャン音楽出身でもあり、暴力や女性蔑視といったタイプの曲とは一線を画す作品を作っている。
毎年年末にプエルトリコ地場の銀行バンコ・ポプラールが音楽の作品を制作し、TV、CD、DVDの形でリリースするが、昨年の盤の中の一曲。ヒップホップの大ベテランのビコCと共に、ヒバロ音楽をベースに即興の歌詞で戦う「コントルベルシア」のスタイルが楽しめるものになっている。(伊藤)

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