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「eLPopがガイドするラテン音楽最新地図Vol.2」(その3)

2020.05.13

去る2月6日に代官山「晴れたら空に豆まいて」で開催した「eLPopがガイドするラテン音楽最新地図Vol.2」の採録。<その3>は、水口良樹による「ペルー編」です。

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 水口です。ペルーの音楽を中心にいろいろ見たり聴いたりごくたまに参加したりしております。ペルーの最新音楽、と言われて選ぶんだけど、これは毎回すっごく悩む。それは何をどう切り取って紹介するかによって見えてくる世界がまったく異なるからなんですね。とはいえ、せっかくこんなふうに「ラテン音楽最新地図」みたいなイベントができるんだから、色んな人にとって貴重な出会いとなれるような作品を近作の中からなるべく幅広く選ぶように心がけています。例によって欲張りなので盛りだくさんです(笑)。

 今日紹介するまず第一曲目は、名だたるラテンシンガーたちがペルーを象徴するムシカ・クリオーヤの貴婦人、チャブーカ・グランダに捧げたオマージュアルバム『ア・チャブーカ(チャブーカに)』の第2弾から(実は今年2月にリマで「ア・チャブーカ」のコンサートに行ってきました。これまた本当に素晴らしかったです)。前作でもその豪華なラインナップが話題となりましたが、第二弾でも名前を聴くだけでテンションが上がる名前とたくさん出会うことができて、聴く前からワクワクが止まらない一枚となっていますね。

 その中で紹介させていただいたのは、プエルト・リコのラップ音楽を牽引しているカジェ・トレセ(Calle 13)のサポートメンバーからソロデビューしたイレ(iLe)です。彼女の作品の多くは抑圧された女性が抱える問題をテーマにしていて、それを超一流の音楽へと昇華していて本当に素晴らしい歌手なんですが(そのあたりはモフォンゴ伊藤さんの前回及び今回の「地図」でも語られているのでそちらをご参照下さい)、彼女が歌ったチャブーカの「マリア・ランドー」もまさに他人のために人生の大部分を擦り削りながら働いているたくさんの名もなき人々に捧げられた曲なんですね(そしてここでいう「他人」とはたいてい自分よりも権力もお金もあって、生まれたときから自分はちょっと特別だなんて特に考えることもなく信じている人たちだったりするわけですね)。ああ、なんてピッタリの選曲なんだ、と思いました。

01: iLe "María landó" (landó), アルバム「A Chabuca dos」, 2019


 つづく2曲めは、アフロペルーの女性歌手とアメリカのジャズの融合した作品を紹介したいと思います。ニューヨークのジャズユニット、ジャストプレイはこれまでにもニューオリンズやハバナ(キューバ)、サンフアン(プエルトリコ)などで地元の民衆音楽にかかわり、そのスタイルをリスペクトしながら演奏をしてきた。この最新のプロジェクトでは、ペルーの首都リマを舞台にアフロペルー音楽の女性歌手とともに音楽を作り上げています。

 ここで何より特筆すべきは、地元でライブをこなし非常に人気のある歌手でも、昨今はなかなかCDなどを出すことも難しく、まだまだ海外ではあまり知られていない女性歌手が数多くいるんですね。そういった歌手がここで一気に取り上げられているのは本当に素晴らしいし嬉しいな、と。アルバム一枚、どの曲も素晴らしい作品でPVもたくさん出ているのでぜひ検索して見てほしいと思います。

02: Just Play Perú ft. Sofia Buitrón(Sofia con Z) y Charo Goyoneche "Tumba y Cajón" (festejo), アルバム「The Warrior Women of Afro-peruvian Music」, 2019


 さて、ここからはペルーのラップ文化について、これまで私はほとんど紹介してこなかったので、これを機会にいくつか最近の面白いもの、私の好きなものなんかを数曲に渡って紹介していきたいと思います。

 まずは、リマのカヤオで活動するカヤオ・カルテル。この数年はちょっとあんまり積極的に活動していないっぽいのですが、カヤオのラップで一番好きなのは彼らですね(ゲストとしては活動しているようです)。港湾都市であるカヤオはペルーのリマでももっとも危険な地区の一つでもあります。名前もカルテルとか名乗っていますし、PVでもワル感を出した作りになっています。しかし、そんな一見悪ぶってるように見えて、でもそれは生まれによってそうならざるを得ない境遇なんだ、というやるせなさが全体に切実ににじみ出ているのが(個人的に)グッと来てなんだか何度も聞いてしまうんですね。とにかくなんか染み入る。もっとスタイリッシュなインカス・モブなんかも悪くはないんだけど、やっぱりリマのラップの中でカヤオ・カルテルは私の中で特別な位置づけにあるんです。


03: Callao Cartel "Soy de Barrio" (hip hop), アルバム「Mis raíces」, 2016


 つづいて、アフロペルー性を前面に出したヒップホップ活動をしているチスパ・ラップ・バレンシアを紹介したいです。この「エル・ルンボン」という曲は、アフロペルー・ラップを標榜している彼が、アフロペルーのクラブ音楽やラップ音楽のさきがけとして活躍していたグァハハことホセ・デ・ラ・クルスと夢の共演を実現しているのが地味に胸アツな一曲です。PVでもチスパのグァハハへのリスペクトを非常に感じるのがいいです。ちなみにこちらも舞台はカヤオ。こういう時にはラ・ビクトリアでもなくやっぱりカヤオなんだなぁ(ラ・ビクトリアもアフロ系が多いバリオとして有名。チスパ・ラップは別にカヤオ出身ではないらしい)。

 冒頭は、アフロ系歌手のアルトゥーロ・"サンボ"・カベーロが歌って有名になったバルス「日曜日はいつもミサの後12時に」をカホンを叩きながら熱唱する女性から始まるなかなかニクイ演出。まるまるワンコーラス熱く歌い終えたところでおもむろに始まるタイトル曲。すると映っている風景は同じなのに一気に別世界へと聴いている方の感覚が転換していく感じが面白い。今どきのクールなチスパ・ラップに対して、相変わらずちょっとコミカル感がある熱いグァハハという二人の非常に対称的な感じもなかなかいいです。

04:Chispa Rap Valencia ft. Guajaja "El Rumbón" (hip hop afroperuana), シングル「El Rumbón」, 2018


 そしてアフロが来たら次はやっぱりアンデス系、ということでアンデス系ラップから2人ほど、今注目のラッパーたちを紹介したいと思います。

 ひとりはヒップホップ・ケチュアを牽引しているリベラト・カニことリカルド・フローレス。すでにアルバムも出しており、グラン・テアトロ・ナシオナルでも公演するなど、スキャンダルもありつつ今もっとも注目されているアンデス系ラッパーの一人になります。リマで生まれましたが、9歳の時に母の死によってアンデスの高地であるアプリマック県の町アンダワイラスの祖父母のもとでしばらく暮らしたことでケチュア語話者となりました。12歳で再びリマに戻った彼はラップに惹かれ、当時前人未到だったケチュア語によるラップにチャレンジし始めたといいます。ハサミ踊り、チャランゴ、サンポーニャ、サックス、アルパなどさまざまなアンデス音楽の楽器や踊りなどを、単に切り取って持っていくるのではなく、その世界観も含めてどう取り込んでいくかに挑んでいる感じがして好感度が高い。ちなみに彼のアーティスト名であるリベラト・カニは「自由を愛する人」という意味なんですね。

05:Liberato Kani "Harawi" (hip hop quechua), Live Playlizt.pe, 2019 (アルバム「Rimay Pueblo」2016収録曲)


 そしてもうひとりは女性歌手になります。レナタ・フローレス・リベラは、アヤクーチョ生まれで、14歳のときにマイケル・ジャクソンの曲をケチュア語で歌ったものをネットにアップして一気に注目を集めて歌手になりました。以降ケチュア語と歌唱力を武器に活動を行う中で、次第にケチュア語のラップで評価を得て、今やケチュア・ラップの女王と呼ばれている新進気鋭の若手シンガーです。彼女はリベラト・カニとは違いラップ一辺倒というよりはもっと歌寄りで、彼女自身の歌唱力を非常にうまく使いながら活動しているのが印象的ですね。やっぱりこのあたりを聴いているとひとつ世代が変わってきたんだなぁという感じが非常に強くします。

06:Renata Flores ft. Kayfex "Tijeras" (trap quechua), シングル「Tijeras」, 2018


 さて、そんな最先端のアンデス・ラップを紹介したらもう一本、アンデスのいなたい方の最先端音楽も紹介させていただいてちょっとほっこりしてほしいと思います。

 クスコ近郊では、バンドゥリアという鉄弦4コースの弦楽器が先住民の間に定着していて、カーニバルの時なんかには男女の恋の駆け引きを即興の歌でやりとりする歌垣が今でも行われていてもりあがるのですが、そんなバンドゥリアのカーニバル音楽の最前線から一曲PVを紹介したいと思います。

 アンデス農村部の祭りにもグローバルな流行は当然入り込んでいて、それがアンデス独自の美学と解釈によって、彼らのスタイルとして非常に独特な進化を遂げているといえるかと思います。私たちのかっこいいとは違う、彼らの「かっこいい」が確実にあって、それが本当にズレてるんですよね。それで、一瞬目が点になったりする部分もあるんですけど、それでもやっぱり猛烈に伝統的でありつつ、世界の流れをしっかりと受けて解釈して新しい伝統へとどんどんバージョンアップしているところ、それが本当に素晴らしいと思います。

 さて、PVですが、冒頭の空撮などは今流行りのドローンを使って非常に美しい映像づくりをしていて期待が高まる感じです。そのへんの技術はもうしっかりと使いこなしているわけですよね。ところがそこで曲が始まると民族衣装にサングラスを掛けてたりなんかするパーカッション奏者やダンサーが登場するわけです。電子パーカッションとキーボード、そして主役の弦楽器のバンドゥリアに合わせて、やたら切れの良いオーバーアクションぎみで不思議な踊りが一瞬踊られた後、伝統的な歌垣パートへと入っていく。歌は冒頭一番だけスペイン語で歌われた後はケチュア語へとスイッチしていきます。ここで男性が「私の好きなものは〜」と歌っているのですが、その好きなものはスズキのバイクと君のお尻と歌っているわけなんですね(「シキ」はケチュア語でお尻。「ス」はスペイン語であなたの、という意味)。言うまでもなく、スズキとスシキを語呂合わせにして歌っているんです(しかも映っているバイクはヤマハ…)。

 ちなみに私の名前は良樹(ヨシキ)ですが、スペイン語で「ヨ」は私という意味になる。なので、ペルーのアンデス地域で名前を言うと、ヨシキは「私おしり」さん扱いされることがしばしばありました。ヨ・シキ?トゥ・シキ?ミ・シキ?、ワハハとかね(「トゥ」は「君の」、「ミ」は「私の」)。新聞に「ヤナ・シキ(黒い尻)」と名前を間違えて(?)掲載されて友人に随分とからかわれたこともあったりして。まあ、そういうわけで、私の尻事情、じゃなかった名前にまつわる脱線はともかく、もう一つのアンデス最新音楽事情の一端として、ちょっといろいろほっこり微笑ましいアンデスの最新カーニバル音楽の一つを私の個人的な趣味とともにご紹介させていただきました。

07:Los Fieles de la Bandurria "Suzuki, Su siki" (carnaval), Cusco, 2019


 さて、ちょっとリラックスしていただいたところで最後にちょこっとスタイリッシュなバンドを流しながら終わりたいと思います。紹介させていただくのは、スペル・シミオ。シミオは類人猿。超類人猿、スーパー類人猿なバンドです。いい名前でぐっと来ますね。

 クンビアをベースにいろんな音楽をミックスしてちょっと懐かしい感じと今風な感じの絶妙なところをついてきているなぁという最近のお気に入りバンドの一つです。どうも配信中心でCDのプレスはしていないようで、そういう活動がもう主流になってきているのかなというのは個人的には非常に残念なところですけど、これからが楽しみなバンドですね。

08:Super Simio "Bajo la luna", Live Playlizt-.pe, 2019 (アルバム「Yo te sigo, tú me sigues」 2018収録曲)


ということで長くなりましたが、この辺で今回は終わらせていただきます。ありがとうございました。(水口良樹)

posted by eLPop at 19:26 | Calle eLPop