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カッサヴとズーク(その1) by 山口誠治

2019.10.05

久しぶりのゲスト・コーナーに登場頂くのはグラフィック・デザイナーにして、フレンチ・カリビアン・フリークの山口誠治さん

ズークを代表するグループ、カッサヴの今月‪10/21‬の公演に併せ、SNSでの連載があまりに濃くて楽しくて、eLPopサイトへの転載許可をお願いし、快諾頂きました!!

スペイン語圏の音をカバーするeLPopですが、カリブ海の音には欧州のコントルダンス/コントラダンサを共有し、アフリカからの音はカリンダやジュバなど今でも英仏西語圏に共通して残るリズム名からも「ひとつのカリブ」の土台が伺われます。その後もヴィキングスのようにNYサルサを取り上げるなど交流のある中で、仏語/フレンチ・クレオール語圏で生まれたカリブの強力な音がズーク。ぜひお楽しみください!

【山口誠治さんプロフィール】
グラフィックデザイナー。また月刊フリーペーパー「SALSA120%」編集長として、スペイン語圏カリブ/ラテン音楽に通じながら、大のフレンチカリビアン・フリーク。『カリブ・ラテンアメリカ 音の地図』『世界は音楽でできている』などガイドブックや音楽誌への解説、CDライナーノーツなど執筆多数。日本で唯一(?)グアドループの音楽グゥオ・カ(Gwo ka)の太鼓を所有し伝統のリズムをガンガン叩き分けたりもされます。毎月池袋のBar King Rumでフレンチカリブとスパニッシュカリブの音をかけてラムを楽しむイベント"Dos Antillanos"も行っています。

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カッサヴの再来日にともないネットの記事を読んでいると「おや?」と思うことがあるので、いまさら恐縮ではあるのですが、ここに記しておきます。

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大丸2︎カッサヴとズーク(1)

フレンチカリブ(マルティニーク&グアドループ)、その周辺のフレンチパトワを使う島々や、ハイチ、フレンチ・ギアナとかニューオリンズなど。選曲の手駒はこうしたクレオール音楽オンリー。

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そんななか「この曲はコンパズーク?」というような質問をDJ中にいただく。クレオール語のニュアンスもグルーヴも互いに異なるけれど、ズークっぽいコンパもあれば、コンパっぽいズークもあり、音の生い立ちを知れば混同するのも仕方がないことだと思う。

フランスからのコントルダンスが土着化して、農村やストリートのメラングが生まれ、海を挟んだ隣国キューバにも音楽的影響をもたらしたハイチだが、音楽文化が進んだキューバからは技量を学び、1950年代にハイチ音楽は目覚ましい発展を遂げる。ビッグバンド化が進んだその時代に、共にサックス奏者/バンドリーダーであったヌムール・ジャン・バティストとウェベール・シコーの二人は、自らの音楽を各々「コンパ・ディレクト」「カダンス・ランパ」と名付け、大衆から多くの支持を受けていた。呼び方は違うが二人の音楽に大差はない。現在のハイチの中心的音楽であるコンパは、ヌムール・ジャン=バティストによるこのコンパ・ディレクトに始まっている。

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1960年代にかけて、ビッグバンドからスモールコンボへとトレンドは変化していくが、ハイチ音楽は同じクレオール語を話すフレンチカリブを含む小アンティルの島々でも人気となっていた。ところがこの辺りの島々にはビギンやカリプソをはじめとするハネ感の強い音楽の伝統があるせいか、リズムは元々のハイチのものよりもアッパー気味に変化する。

一般に「カダンス」と呼ばれる音楽だけれど、オリジナルのカダンス・ランパのことではなく、そこから派生したカダンス・リプソと名付けられた新しい音楽を指す。力学的に強かった「コンパ」ではなく何故「カダンス」から名称を引き継いだのだろうかという疑問は、単純に言葉の好みもあるかも知れないが、グアドループとマルティニークのレーベルで録音を残したウェベール・シコーの活動域も理由にあると思う。


ハイチのコンパがよりアメリカナイズドされミニジャズへと進化していく一方、1960後〜80年代のフレンチカリブは、カダンスのグループが数多く活躍した時代だ。グラマックス、アイグロンズ、マクセルズ、ギャラクシー、ペルフェクタ…etc。カダンス・リプソのオリジネーターである、ドミニカ国(ドミニカ共和国ではない)のエグザイル・ワンも関わったグアドループのヴィキングは、ファンク色が強くNYサルサもレパートリーとした雑食性の強い人気バンド。だが70年代も終わりになると、メンバー個々の活動を理由にグアドループの(同名の別バンドがハイチとマルティニークにも存在したため、くどいが「グアドループの」と付けている)ヴィキングは一旦活動休止となる。(※結成50周年の2016年に復活ライブを行う)

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メンバーのベーシスト、ピエール=エドゥアール・デシムスは、パリで活動する同郷グアドループ&マルティニーク出身のスタジオミュージシャンらとともに、新しい音楽へのアプローチをスタートさせる。カダンス自体にハイチの借り物のような意識があったのだろう。グウォカ、ベレやビギン、シュヴァルブワ、カドリーユといった、2島の伝統音楽への回帰と、プロフェッショナルによる先進性の高い音楽の模索。1979年にグループ「カッサヴ」(キャッサバのこと)として最初のリリース行い、大凡のメンバーは固定しつつもフレキシブルにメンバーを出入りさせ、1984年の「Zouk La Sé Sel Médicaman Nou Ni」の大ヒットを迎える。新ジャンル「ズーク」(パーティーやお祭りの意味)としての認知が世界的なものとなった。

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15年ぐらい前だったろうか。カッサヴのメンバーにズークの現在を尋ねたことがあるが「残念だけれど後ろ向き」という答えだった。とはいえ、時代と共に新しい局面を見せつつ、フレンチ・カリビアンの一角を担う音楽であることは変わらず。ラブソング主体の甘いズークラブやダンスホールに傾倒する若いフォロワーにおいても、カッサヴへのリスペクトは忘れていないよう。

大丸2︎カッサヴとズーク(2)

個々の活動も豊かなタレント集団、再来日するカッサヴのオリジナルメンバーはこういったミュージシャン。
まずはジャコブ・デヴァリュー。

Jacob Desvarieux(ジャコブ・デヴァリュー)1955-

パリ生まれのギタリスト。オーバーオールが似合う巨漢、というイメージは今や昔、ずいぶんとスリムになった印象。話すときとはうって変わって、歌うときの押しつぶれたハスキーな声は、多数参加する他アーティストのレコーディングでも、存在がすぐ分かる強烈な個性だ。

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グアドループの両親のもとパリで生まれたジャコブ・デヴァリューは、生まれてまもなくアンティーユ(カリブ海のこと)に移住し、10年間をグアドループとマルティニークで過ごす。その後パリに戻り、さらにセネガルでの生活のなかでギターを始める。このセネガルで暮らした2年が、ジャコブの音楽人生の指針を大きく決定づけ、自身のアフリカネスへの高い意識の芽生えとなったよう。「アンティーユに生まれた人間なら、一度はアフリカに行くべきだ」。

マルセイユで友人たちとロックに親しみ、16歳でアレンジャー、スタジオミュージシャンとなる。1970年代カッサヴ以前には、スウィート・バナナ、ズールー・ギャング、オジラといったフレンチファンク、ディスコ系のグループでレコーディングを残している。

1979年にピエール=エドゥアール・デシムスと出会い相談を受け、カッサヴの創立メンバーとなったが、いきなりセンセーションを起こしたわけでもなく、メンバーの固定を含め話し合いの場は多かったよう。グループのコンセプトが、いわゆる「ワールドミュージック」には適合しなかったという。グアドループとマルティニークにとって、この1970年代から1980年代にかけての政治動向・社会背景がジャコブが描くカッサヴにどう影響していたかはいずれ書くことにするが、とにかく西洋人が喜ぶアイランドミュージックではなく、アンティーユの人々を喜ばせる新たなアンティーユ音楽を目指していたのだ。

1984年にジャコブ・デヴァリューが作曲した「Zouk La Sé Sel Médicaman Nou Ni(ズークだけが俺たちのクスリさ)」は、カッサヴの代表曲として知られるが、彼の固い信念を持った独創的なコンポジションは、多くのアーティストに影響を与えている。当時メレンゲ界きっての策士であったウィルフリード・バルガスも同曲をカバーをしていたことを思い出した。


Wilfrido Vargas/ La medicina [ Reprise de Kassav'/ Zouk la sé sél médikaman nou ni ]

親分肌、という言葉が相応しいかどうか分からないが、カッサヴのまとめ役としてだけではなく、後進をデビューさせるためのオーディションプログラム「アンティーユの夢」や、ズークのアーティストを集結させたイベント「ル・グラン・メシャン・ズーク」の発案。自閉症の救済団体のスポンサーとしての活動も現在行っている模様。多くの若手アーティストからの客人依頼も彼の人望の厚さゆえだろう。


(その2へつづく)



posted by eLPop at 13:14 | Guindahamacas