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イルマ・オスノ「タキ −アヤクーチョ−」インタビュー その3

2017.08.22

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(チンリリを弾くイルマ・オスノ)

2017年6月に出たイルマ・オスノの「タキ −アヤクーチョ−」。
その3では、彼女がこのアルバムで使われている楽器について語ります。また楽器自身が持つ聖なる力についてや、それらをめぐる禁忌についても語られます。
(その1 その2 はこちら)

-それではアヤクーチョ音楽とその楽器について少し日本人の方に紹介していただけますか?先程チンリリについて少し話していただきました。おそらくほとんどの日本人は初めてその楽器の名前を聴いたと思います。なので、まずはチンリリとはどのような楽器なのかから教えていただけますか?
実を言うと、私はこれまで全く楽器を演奏したことがなかったのです。唯一の例外がティンヤでした。ティンヤは平太鼓ですね。弦楽器も管楽器も全くやったことがなかった。アヤクーチョでは一般的に女性は楽器を演奏しないんですよね。基本的に歌だけなんですよ。
でも今回、秩父の私の家にチンリリがあったんですよ。
-まず、家にチンリリがあった、ということから始まったんですね。
使われてないチンリリが打ち捨てられていたんですね。家人が使わなくなって放置していたんですね。かわいそうに(笑)。
-それではまさにその楽器とそこで運命的な出会いをしたと。
そう。まさに運命的な出会い。それでチンリリがかわいそうだから弾いてあげようと思って弾き始めたのです。そうやって弾き歌いを初めて、まず最初の一曲を一年半練習しました。爪を痛めたりしながら毎日少しずつ練習してね。ほんとにとっても難しかった。私はチンリリのスペシャリストではないから、まだ2、3曲しか弾けないけどね。このチンリリという弦楽器が使われているのは、アヤクーチョのビクトル・ファハルド郡だけです。ビクトル・ファハルドの音楽のためにだけ演奏されてきた楽器です。この楽器がワマンガ(アヤクーチョ市)のために使われることは決してありませんでした。また(笹久保)伸さんによれば、この楽器はその地域の音楽のために作られているので、楽器の構造上いくつかの音が足りず演奏できる調に制約があるため、その地域以外に普及しなかったということもあるようです。
チンリリについての歴史や背景について少しずついろいろ読んだり調べたりしているのですが、そうするとその起源はクスコのバンドゥリアにあると言われており、それが少しずつ変わって変わって今のチンリリの形状にたどり着いたのだと言われていることがわかってきました。今やチンリリはさまざまな形が作られています。そしてリマでもビクトル・ファハルドの人々が演奏していたりとずいぶんと広く演奏されるようになりました。リマでもチンリリを弾くために大きいものから小さいものまでいろいろ作られています。
-まさにバンドゥリアがマリマチョ(大型)とかスーペルマリマチョ(超大型)とかあるのと一緒なんですね。
まさにそうです。でも私が持っているのは非常に伝統的なチンリリです。小さな楽器です。これくらいの。音は非常に高く低音は出ません。なのでこの楽器のためには声をかなり張り上げなければなりません。ビクトル・ファハルドで使われている非常に特殊な楽器なのです。

そして私が使っている他の楽器といえば、ティンヤがあります。
ティンヤは小さい平太鼓ですね。こんなふうに上の方を持って片面を叩くんですね。一般的に豚の革で作られます。もしくはヤギ、そしてたまに雌牛でも作られます。片面は分厚く、もう一方の面は非常に非常に薄い皮です。おそらくお腹の皮の下に、もう一枚非常に薄い薄皮があるんですが、それを使ってるのだと思います。そこに共鳴弦をつけています。アヤクーチョでは、ティンヤはカーニバルの時期に使われる楽器です。
また他の楽器にもみられることですが、アヤクーチョではこの楽器を滝に持って行くことが行われます。何のためにか。ラ・シレナ(人魚)が滝に住んでいるからです。彼らがその楽器に美しい音色を与えてくれるのです。楽器を調律して整え直していい音にしてくれるのです。カーニバルの楽団でティンヤがいい音で鳴っていると人々は、シレナが中にいると考えます。「ああ、このティンヤはシレナを持っている(がいる)」とね。「ああ、このティンヤにはシレナはいないね」とかね(笑)。
それを歌った歌もあるんですよ。
 美しきティンヤ
 ティンヤのシレナよ
 メロディアスに歌っている
 私の心をそうやって奪っていく (※ケチュア語の歌)
ティンヤのための歌です。なぜならティンヤは中にシレナがいるって言われているから。とってもいい歌。

ほかに私が使っている楽器は、ティヘラ(ハサミ)ですね。今回はこのハサミを・・・あ、ハサミはワンカベリカとアヤクーチョにあるんですけど、歴史についてはよくわかんないんですよね。いつごろからあるかとか。でもこの楽器は踊る時に使われます(※ハサミ踊りDanza de las tijerasと呼ばれる)。そしてそれは男性だけが踊る踊りなんですね。なのでこの楽器も男性だけが使うことが許された楽器でした。私が小さいときには、ハサミに触れることは絶対に許されないことでした。女性は絶対にハサミに触ってはいけなかった、禁忌だったのです。
でも私はずっとすっごく興味があってね。好奇心でいっぱいで、どうやって鳴るのかとか、男の人たちがどうやって踊っているのか、とかね。おお、まるで神様みたいだ、あんなアクロバティックに動いたり針を体に刺したり。なのに血が出ないんですよ。なんでそうなるの?私もやってみたいってね。でもお母さんも町の人もけっして私を踊らせてはくれませんでした。日本に来るまでね。で、日本に来たらナオミ(佐々木直美)さんが踊っているのを見て、うぉぉぉ〜ってね。そうか、今はもうお母さんからも遠いし、やったー、踊れるんだってね。今こそやる時だってね!自由だ!って。(※佐々木直美:日本人唯一のハサミ踊りの舞手)
それで日本で初めてハサミ踊りの練習を初めたんですよ。
-それじゃあ、あなたの村でもハサミ踊りは踊られていたんですね。
はい。今も踊っていますよ。踊り続けてます。
私の故郷もハサミ踊りを踊っている地域でしたから。伝統的にね。
-なのでそんなに小さいときからいつも聴いたり見たりしていていつの日かって。
そうなの。やりたーい!ってね。踊ってる人見ながらね。そんなふうに踊ることってどういうことなのか、知りたかった。だってものすごく力強く、神様みたいに踊ってたから。どうやったらあんなふうに踊れるのかも分からなかったし、私はまだ小さくて、こきたない子どもだったけど一生懸命いつも見ていてね。「すご〜い」ってね。
なので日本は私にたくさんの機会を与えてくれたのです。練習して、勉強して、働いて、そしていろんなことを体験させていただいて。私は本当に日本が好き。といっても秩父とアヤクーチョなんだけど。
これらが私がこのアルバムの中で使っている伝統的な楽器です。

その他の楽器としてはそうですね、バイオリンもアヤクーチョでも使われている楽器ですね。でも今回参加してくださったバイオリン奏者の方はまったくアヤクーチョ音楽もアンデス音楽も聴いたことがない方でした。彼は仕事としてこの録音に参加してくれました。
それからケーナ。ケーナ奏者の岡田さんは様々なタイプのケーナを持っている方です。普通のケーナだけでなく、竹のケーナや骨のケーナまで収録する曲に合わせて使い分けてくださいました。
そしてチューバですね。チューバも西洋楽器です。アヤクーチョ音楽でもアンデス音楽でも使われることはありません。
最後にパーカッション。これはアフリカ由来の楽器が使われました。

(その4へ)
posted by eLPop at 14:30 | 水口良樹のペルー四方山がたり