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映画『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』3/4公開

2017.03.01

『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』(原題:The Music of Strangers) 

 
 クラシック音楽に詳しくない私、高橋めぐみがヨーヨー・マと聞いて思い出すのは、自らの演奏でピアソラの「リベル・タンゴ」を誰もが演奏したがる世界的な名曲に仕立て上げたことと、HNKの「新・シルクロード」(2005年、2007年)で音楽監督を務めたことだ。もちろん「リベル・タンゴ」は彼が演奏する前から唯一無二の大名曲ではあったが、その演奏を聴いて初めて知った人も多かったと思う。つまり、世界的に有名なチェロ奏者であるヨーヨー・マには様々な手法とコラボレーションによって、音楽を大きく拡散する力があるのだ。

 本作はそんな現代の巨匠、ヨーヨー・マが、2000年に立ち上げた“シルクロード・アンサンブル”の横顔を追ったドキュメンタリー映画だ。異なる文化の十字路となったシルクロードにゆかりがある国々のミュージシャンと、自らのルーツ・ミュージックを追っているミュージシャンたちが参加している。故郷の政治的な事情で国を出ざるを得なかった者、自らの挑戦としてやってきた者、ミュージシャンたちがそれぞれ背負っているものは違う。リハーサルやコンサートのシーン、故郷の映像を挟み、メインとなるミュージシャンたちはその音楽への姿勢を自らの言葉で語る。クルド系イラン人のケマンチェ奏者ケイハン・カルホーンやシリア出身のクラリネット奏者キナン・アズメ、中国琵琶奏者のウー・マンらは、個々の事情は違えどいずれも米国に活動の機会を求めた。また、ここで私が最も親しみを覚えるスペイン、ガリシア地方出身のガイテーラ(女性バグパイプ奏者)のクリスティーナ・パトは地元の音楽環境を閉鎖的に感じて米国に渡った。
 実はスペインの北西部大西洋に面したガリシアはシルクロードとはあまり接点がない。それなのになぜ彼女はメンバーになったのか、それは見てのお楽しみだ。ガリシアはヨーロッパのカトリックの三大聖地のひとつであるサンティアゴ・デ・コンポステラのカテドラル(大聖堂)を擁し、今も続く巡礼の道は有名である。スペインの中のケルト文化圏で、公用語でもあるガリシア語はポルトガル語に近い。島ケルトと呼ばれるアイルランドやスコットランドはバグパイプで有名であるが、ガリシアのガイタ(バグパイプ)は大きさと形式が違う。楽器そのものは北アフリカ起源とされているので、シルクロードもかすめたかもしれない。
 いずれにしても、クリスティーナが言っているように「ガリシアの音楽は、人々がスペインと聞いて思い浮かべる音楽とは違う」。フィルムの中でも彼女はワイルドな演奏を見せてくれるので、どう違うのかはご理解いただけるだろう。短いシーンながら、彼女のヒット作『ルスティカ』(2014)の録音メンバーのダビデ・サルバド(歌)、アンショ・ピントス(サンフォーナ)、ロベルト・コメサーニャ(アコーディオン)との美しい演奏も見ることができる。
 また、チラッとではあるが日本でも人気のクルドの歌姫アイヌールの歌も聴ける。その件も含め、欲を言えば全体的に演奏のシーンがもう少し長いとよかったのにと思ったが、それは贅沢か。

 ヨーヨー・マは「音楽で世界を変えようと努めてきた」と言う。「70億人と共感したい」と。果たしてそれは可能なのだろうか。まがりなりにも30年ほど世界各地の音楽に関わってきたが、私にはわからない。
 しかし、そのような高い志を持って生きることはとても重要なことだと思う。少なくとも自分だけはそう思って生きよう、という人が増えれば増えるほどヨーヨー・マの願いは実現に近づくだろう。そんな気持ちにさせてくれる映画である。

 監督は『バックコーラスの歌姫たち』でアカデミー賞を受賞したモーガン・ネヴィル。2017年3月4日公開。映画の詳細はこちらから。
posted by eLPop at 18:20 | News