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「勝手にグアコ祭りfeaturing セシリア・トッド」ご報告!(前半)

2016.09.20

去る8/9(火)、《ベネズエラのスーパーバンド》グアコ、そして、ベネズエラの偉大なるシンガー/クアトロ奏者のセシリア・トッド来日を記念して開催した「勝手にグアコ祭りfeaturing セシリア・トッド」!@Li-Po

ここに、当日の内容(前半)を採録いたします。
熱いトークをお楽しみください!!!

※なお、「勝手にグアコ祭り Vol.2〜グアコで踊れ!」は、9月24日(土)です!
日時:2016年9月24日(土)開場 18:00 開演 18:30 ※トーク・イベントは21:30まで。その後はDJ+ダンスタイムの予定!(〜0:00)
会場:カフェ・ラバンデリア(新宿区新宿2丁目12−9 広洋舎ビル 1F)
出演:石橋 純/聞き手:高橋 めぐみ
チャージ:投げ銭+ドリンクのご注文

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
佐藤(以下S) 私の体温より外気温が高いんですが、そんな中をお越し頂きまして、ありがとうございます! なぜこのイベントを始めることにしたかといいますとですね、今年8月末にSUKIYAKI TOKYOで、セシリア・トッドの来日が決まり、なんとなんと、何十年来切望して、「カリビアン・カーニバル」をやっていた時代に、来てくれないかなぁ、と思っていたあのグアコが、ついに初来日! ちょっと編成がでかいので、ありえないなと思ってたんですけど、実現して下さったっていう。これは、なんていうのかな、バックアップがどーのこーのじゃなくてですね、これは、勝手にEl Popとしてやらにゃあいかんだろ、ということになりまして、急遽こういう勝手な催しをやることに致しました!
guaco最新.jpg

―― 会場拍手喝采 ――

 で、早速もう、告知をしちゃうんですが、「勝手にグアコ祭り」これは、あくまで第一弾でございまして、第二弾、第三弾、9月末、10月末、お手元のチラシの中に入っておりますので、このスケジュールでですね、次回は「グアコで踊ろう」と題してですね……

石橋(以下I) 「踊れ」!

 あ、すまん、「グアコで踊れ」! で、来日直前10月29日には、グアコ公演直前予習講座ということでですね、老舗ジャズ喫茶イーグルで、「研究集会」という、そういうイベントをやらかすことになりましたので、皆様、またまた奮ってご参加下さいませ。はい。本日はセシリア・トッドの来日もありますので、ベネズエラ音楽をフィーチャリングしながらこの夏を楽しみたいと思いまして、予習のコーナーを石橋先生に設けて頂きました。

 どうも。日本グアケーロ協会会長、石橋純です。

―― 会場笑 ――

 あの、初心者の方に通訳しておきますと、グアケーロ/グアケーラ、男性/女性、グアコ・ファンとか、グアコ・マニアみたいなもんですかね。

 そうですね。1990年頃に日本でリリースしたアルバムのライナーに、「人類は二種類に分かれる」って書いちゃったんです、私。「グアケーロか否か」って。

―― 会場爆笑 ――

 そこまで? そこまで言っちゃった?

 今日は、グアケーロの方々が集まっているようですね!(嬉)

 あるいは、グアケーロ/グアケーラ予備軍、ということで、しっかりなって頂きたいなと思います。

 是非、世界に入り込んで頂きたいなと。もう、あの、現在流通している全音源をお持ちの方にも、(今日ここで)お会いしちゃいました……(嬉)

 げ! そんな方もいらっしゃる?!

 そんな方も……。「石橋さんは、グアコの全音源をお持ちなんでしょうね?」と訊かれたので、「いやいや、世界中にグアコの全音源を持っている人はいませんよ。メンバーでさえ」とお答えしておきました。

 はい、はぁ……。

 いや、いないです、それはもう、絶対に。それほど長い。創立58年ですからね。

 そのバンドが、まぁ、メンバーの変遷もあったけれども、初来日する。なんで来日決まったんですかねぇ?!

 いやぁ〜、その辺のことは良く分かんないんですけど、佐藤さんも仰ったとおり、1990年前後に、「カリビアン・カーニバル」その他の大きいイベントで、もう来日!ってとこまでいったんですよね、ほとんど。それで、今回のプロモーターのHさんとマラカイボに二人で行って、(日本で)プレゼンがあるから、今のライブ映像を持って帰んなきゃいけないんだと、もう「録って出し」でもいいからプレゼンしなきゃいけないんだ、ってことで、なんと何の予定もなかったのに、グアコのメンバーが、スリア大学――彼らはマラカイボっていうベネズエラ第2の都市の出身なんですが――そこの国立大学=スリア大学で、自分の出身の大学なので、急遽、ゲリラ・ライブじゃないけど、キャンパスでライブをやってくれたんですよ。

 それの映像だったんですね!

T そのプレゼンするために、その目的のためにライブをやってくれたんですが、なんと、私とHさんはそのライブに遅刻してしまったという……

―― 会場笑 ――

 馬鹿者〜!!! 流石ですね(笑)

T 我々のためにやったライブだというのに……、そんなエピソードがありながら、おかげさまで映像撮れたんですけど、最初の部分は提供してもらって、で、これで、「やった! グアコ来日だ!」と思ったら、残念ながら、その機会はポシャっちゃったんですけど。

 え? それはいつの話?

T それが、25年前の話です。

 え〜〜〜!!! そうだったんだ!!!

T そうなんです。今回じゃないんです。25年前。

 わたし、それ知らなかった!

T そうなんです、それで、ちょっと私もがっかりしちゃって……。
まあ、そんな感じで。いやぁ、グアコの話をしだすと、いろんなエピソードがあって、オールナイトでもできちゃうので、3回に分けてるんですが。

 ということになりました。まずは、だから……

T セシリア・トッド。

 はい。ベネズエラ音楽についてちょっと話しつつ、セシリア・トッドのポジションを紹介して頂けると……どんなに素敵な方か。お会いになってらっしゃると思うんですが。

T そうですね。セシリア・トッドは、今や、ベネズエラを代表する歌手というよりも、もう、南米、ラテンアメリカを代表する歌手、ということで。(私とは)とても付き合いが長い。個人的にも親交がありますし、彼女の音楽もずいぶん長いこと聞いているんで、ベネズエラを代表する伝統音楽の歌手ということでは、もう、いつでも彼女が最初のリファレンスなんですけど。

この3年くらい、アルゼンチンで彼女のパフォーマンスを聴いてきた人と、それからベネズエラで聴いてきた人、いずれも音楽通の私の仲間が、「もうほとんどメルセデス・ソーサに肉薄する存在感があった」っていう風に、まったく二人は関係ない人ですけれども、それぞれ言ってたんで、「へぇ」と思いました。(ふたりは)芸風全然違いますよね。メルセデス・ソーサは、どっしりとした迫力ある声でパワフルに歌うわけですけれども、セシリア・トッドは、どっちかというと、淡々とした歌声、これから皆さんもお聴きになりますけれども。それでも二人とも全く違うセンスの人が、メルセデス・ソーサを思い出したと言ってましたね。

 ほぉ〜、メルセデス・ソーサもね、アルゼンチンの、もう亡くなってしまった大物中の大物ですけれども、親交があったみたいですね、どうも。

T そうですね。実はセシリア・トッドは、プロ・デビューはアルゼンチンでしてるんですね。

 初録音が、(アルゼンチンから)発売になってますけれども。

T アルゼンチンで、全曲ベネズエラ音楽の音源を1973年に録音したのが、プロとしての音源デビューだったんですけれども、そのころからメルセデスとは親交があって、非常にかわいがられていたようです。

 その、伝統の部分を掬い上げるというところで、こう、今に生かすというところで、メルセデス・ソーサを思い起こさせるのがあったんでしょうかね?

T それもそうですし、芸風やシンガーとしてもスタイルは全然違うんですけれども、ふたりの共通点があるとすると、自作はあまり歌わないという点ですね。セシリア・トッドは自作の曲を作るみたいですけれども、自分の眼鏡にかなった曲は今まで1曲しかないっていうんですね。1曲録音してるみたいなんですけれども(笑)

 おう! でもね、それね……、アルゼンチンのリトラル地方っていう大河地方の東部の方に住んでるリリアナ・エレーロっていう女性シンガーがいますよね。彼女は哲学者なんですけれども、彼女に、あなたは哲学というコンセプトをもって、とても、詩のメッセージなどを吐き出す、なんていうのかな、知性を持っているのに、なんで自作曲を作らないんですか? って訊いたら、「アルゼンチンの伝統音楽の宝箱の櫃があまりにも大きくて、汲みきれないから」って言ってて。あの〜、くだらない私小説で、「私の自作〜」とか言ってる人たちは、ちょっと見習ってほしいなと思ったことがあるんですけども。それに共通するものがあるのかもしれないね。まぁ、ちょっと例えが長くなりましたが。

あと、セシリア・トッドに関して、前説をするとすると、どんな感じでしょう? 彼女はどんな存在?

T そうですね、やっぱり、ここ数年彼女の音楽を知ったある若い友人が最近言ってたことなんですけども、彼女の歌は解像度が高いと言ってました。つまり、詩が良く分かる、言葉が明晰で、言葉が聞き取れるっていうことのみならず、詩の内容が、どういうことを歌っているのかっていうのが、ものすごく良く分かる歌だということを言ってましたね。そういった点も、多少メルセデス・ソーサと共通するかもしれませんが、自作を歌うというより、やはり素晴らしい作品を世の中に伝える媒体としての使命感を持っているっていうことでしょうね。

 それは、共通していると思いますね。

T 自分を殺すっていうと、ちょっと言いすぎですけれども、表現者としてのエゴを前面に出すよりは、詩と音楽の世界に入り込んで、それを多くの人に、透明に、明晰に、解像度の高い姿で、伝えるということを心掛けているんだなぁと。

 しかも、基本は、ギターと歌。セシリア・トッドの場合はクアトロというベネズエラの国民楽器と歌。なんか、とてもシンプルなものに、周りをちょっと足したぐらいの音ですよね。

 そうですね。基本的にそうですね。なので、ベネズエラ音楽ってどういうものなのか、とりわけベネズエラ伝統音楽ってどういうものなのか、それが現代のベネズエラ社会、現在のラテンアメリカ社会でどんな風に展開して、受け入れられているのかっていうことを知るためには、最高の導き役であると同時に、最高峰の歌い手である、パフォーマーである、ということが言えると思いますね。

 まあ、とりあえず、音、聴いて頂かないと。

 1曲いきますか。

 この優しげな歌を聴いて頂けると、雰囲気が伝わると思います。

 (今日配ったお手元の資料は4〜5頁目が、プレイバックするソングリストとなっています。)え〜と、セシリア・トッドといえば、この曲。まあ、出世作といいますか、1973年にアルゼンチンで録音したこの曲が大ヒットして、アメリカ大陸中で有名になり、そしてベネズエラに凱旋公演して、ベネズエラでもプロ・デビューしたといいますかね。そんな1973年のアルバムで録音した「パハリージョ・ベルデ(Pajarillo Verde)」。来日記念盤から取ろうと思ったんですが、やはり、その、デビューの歌声も皆さんに聴いて頂こうと思いまして、アルゼンチン録音のデビュー盤から「パハリージョ・ベルデ」。ベネズエラ民謡ホローポ、ベネズエラの国民音楽と言われているホローポの伝統曲です。「パハリージョ・ベルデ」、聴いて頂きます。


♪♪♪ Cecilia Todd / Pajarillo Verde

 セシリア・トッド、デビュー・アルバム、1973年ブエノスアイレス録音の「パハリージョ・ベルデ」。(あ、言うの忘れちゃったんですけど、セシリアの主な曲は、歌詞と対訳を用意しました。なので、今の「パハリージョ・ベルデ」も6頁に載ってたんですけど、すみません、事前に言いませんで。この次から、歌詞も見て下さい。私のへぼ訳ですが。)

実はですね、今のデビュー・アルバム、セシリア・トッドがクアトロ弾き語りなんですけど、バックは超豪華な人たちで、ギターを弾いていたのは、ピアソラ五重奏団のギタリスト、カチョ・ティラオ。コントラバスは、ブエノスアイレス・オチョという、ジャズからポピュラー・スタンダード、フォルクロレもやった、ブエノスアイレスの四季でしたっけ? 大ヒットしたブエノスアイレス・オチョというボーカル・ユニット、そこのバン・マスでベーシストの、オラシオ・コラル。そして、アルゼンチン伝統音楽界の中ではもう大御所中の大御所のドミンゴ・クーラ。大先生3人が伴奏を、後録でつけたんですね。
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 後録だったんですねぇ?!

 後録でつけたんです。セシリア・トッドがブエノスアイレスに行くまで、ベネズエラ音楽なんていうものは、ベネズエラの外でほとんど知られていなかった。なので、この大先生たちは、ベネズエラ音楽のホローポっていうものを知らなくて、よく似たアルゼンチン音楽のチャカレーラのノリで演奏してしまったという……。

 だから……、今の音に違和感を感じはしなかったのが、ちょっと私の謎なんですが、実は、リズム的に間違っている……。

 間違っているんですね。ホローポとしてはリズムが裏返っちゃっているという、そういう事故が(笑)、音源製作事故なんですけど、それも歴史的な、何ていうか、記録ですよね。まあ、でもこのアルバム、彼女の歌声が本当に素晴らしくって、当時22歳ですけれども、大陸中に響き渡って、この翌年のアルゼンチンのクラリンっていう日刊紙の中のベスト伝統音楽アルバムに選ばれた。

 海外のアーティストで選ばれたんですか!

 全部ベネズエラ音楽なのに、アルゼンチンでベスト伝統音楽の一つに選ばれて、で、同じ新聞で1999年に、20世紀の名盤100枚っていうのにこれを入れたっていうくらい。

 ものすごく衝撃的だったんでしょうね。

 衝撃的だったんですね。で、元は、『Embarazada del Viento』(風を孕む女)ってタイトルで出たんですけれども、この「Pajarillo Verde」が大ヒットしたんで、再発されたときには、『Pajarillo Verde』の名義で今は出ています。で、これが日本ではアオラ・コーポレーションさんが販売されて、今日CDがあると思いますんで、まだ聴いていない方は、ラテンアメリカ音楽の名盤ですので、ぜひ、聴いてみて下さい。

で、これはあの、後からおかけする今回の来日記念盤には1曲も収録出来なかったんですよ、残念ながら。この中で1曲どうしても収録したい曲があったんですけれども、どうしても権利の交渉が出来なくって、残念ながら断念したんです。でも、流通してるからいいやと思って。日本で簡単に手に入りますし、今日も、盤を用意してますから。
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セシリア・トッド『愛する歌国ベネズエラ』

 来日記念盤ということで、石橋君コンピレーション? っていうか、セシリア・トッドがセレクションしたものを、また、選んだっていう感じなんですかね?

 SUKIYAKIのプロデューサーのニコラ・リバレさんが選んで、私が多少助言したっていう感じです。

 なるほど。その2枚が来日記念盤として売られるわけですね。

 じゃあ、早速その来日記念盤から、73年盤は収録出来なかったので、一番古い音源は79年盤です。随分昔の音源も入れてるんだなとお思いかもしれませんが、セシリア・トッドに関しては、20歳そこそこの時と、今、65歳の時と、基本的にスタイルっていうのが全然変わってないんですよね。

 変わってないですよね!

 変わってないんですよね! 円熟してるぐらいで、キーも全然下がってないですし。

 なんか、初々しい感じもそのままだし!

 そうなんですよね! 非常に不思議な歌手だと思います。で、その魅力の一つは、20歳そこそこの時から65歳の現在まで、トレーニングして、メンテナンスしてるっていう感じが、ゼロなんですよ。それを魅力として言っていいのか、なんなのか(笑) いや、絶対練習してねーだろ! みたいな(笑)

―― 会場笑 ――

 いや、練習してるかな。年相応の衰えがくるはずなんで。実は影で鍛錬してんのかな? ちょっとそうとは思えない。とにかく天性のものというか、天然のものというか、

 実は風呂で歌ってるとか?

 かもしれませんね(笑) シャワーね、ベネズエラなんで。で、来日記念盤のコンピレーションの中では一番古い79年盤の再録ですね。「ホタ」というアカペラの曲を聴いて頂きましょう。(これはぜひ歌詞をご覧になりながら、お手持ちの資料の6Pの下の段にありますので、歌詞を見ながら聴いて見て下さい。)

♪♪♪ Cecilia Todd / Jota
※セシリア・トッド『愛する歌国ベネズエラ』に収録。

 この曲は無伴奏でしたけど、トナーダ?

 ええと、これはホタっていって……

 スペイン由来ですよね? ホタは。

 ただ、今、スペインで歌われているホタとは、似ても似つかないんですけれども。

 なんか、舞曲のホタと全然違いますよね。

 ベネズエラには、元々スペイン由来の民謡形式がたくさん残ってるんですけれども、この曲を書いたベルタ・バルガスさんっていうのは、人形作家で、バービーとか、日本だったらリカちゃんとか、ああいう型押しのプラスチックの人形が子どもたちの遊び道具になる前は、布で、世界中、お母さんたち、おばちゃんたち、おばあさんたちが、子どものお人形さんを作ってたんですよね。それはもう、ベネズエラだったら、バルビー(バービー)の登場とともに廃れちゃったんだけども……

 バルビー……(バービーのスペイン語読み)

 民芸品として、それを作る作家として、その名人が残って、そういう人なんですけれども……。今、この詩を「書いた」って、私言ったんですけれども、間違いで、書いていない。何故なら非識字、文盲の人だったんです。なので、歌って残したんですね。で、それを伝え聞いて、セシリア・トッドが取り上げたという。

この詩は本当に素晴らしくって、まあ、サルサでもタンゴでもサンバでも、深く聴いてる人は、ラテンアメリカ音楽って、ラテンアメリカの人って、明るいのではない、と、明るく歌って踊ってるんだと、その胸の内には深い悲しみがあるかもしれない、あるからこそ、明るく歌って踊ってるんだということ、よく色んな歌の歌詞でご存知だと思いますけど、第三連のこの歌詞は、まさにそういうことを歌っていますよね。それを、セシリア・トッドいう、媒体というか、まあ霊媒と言ってもいいかもしれませんけれども、そのスピリットを継いでると思うんですよね。

 なんか、そういう歌を探してっていうよりも、あちこちを旅しながら、そういう、なんて言うのかな、フィールドワークっていうのとも違うんですかね……。

 彼女は研究肌じゃないので……彼女のお兄さんは研究肌だったんですけど……歌って、旅してって感じでしょうね。で、そこで一緒に交流しながら、フィールドワークっていうとちょっと違うけれども、旅して出会って、って感じでしょうね。

 だから、拾い集められたような歌がいっぱいあるような気がしますね。

 そう、実際、現地で出会って。

 人肌の感じが。

 そう、そうなんです。出会いとともに構築していったレパートリー。まあ、構築していったレパートリーっていうのも、これなんか、私の言い方で、ちょっとセシリア・トッドの感覚とは違うかな。何ていったらいいかな、自然に集まってきた……

 私のところにきた歌、みたいなね。

 そういう感じですね、あの人と出会ったから、あの人に教わったから、ちょうどこのベルタさんが香りバナナに感謝を捧げているような感じで、唄者ひとりひとりに感謝を捧げつつ歌ってる、っていう感じなんでしょうね。

次、いってみます。今の「ホタ」は、伝統の中に生きている唄者から習った曲ですけれども、今度は伝統音楽を現代に問い直す、そういうタイプの曲。まあセシリア・トッド自身がベネズエラの新しい歌をリードした歌手ですけども、そういう、伝統音楽を現代に問い直すムーブメントの旗手といえるソングライター、ヘンリー・マルティネスという人がいまして、あ、違う! それはその先か! この次にかける曲は、こういう新しいベネズエラ音楽の作者なんですけど、アデリス・フレイテスという、非常に賑やかな、お祭り騒ぎの歌を作るのが得意としている人の、とっても素敵な恋の歌です。

 どこか、地方の歌ですか?

 ララ地方です。ベネズエラ中北部地方の。普段は抱腹絶倒のお祭り騒ぎの歌ばっかり作っている人が作詞作曲した珠玉の恋の歌、失恋の歌、「アシディート(恋のすっぱいしずく)」お聴き下さい。


♪♪♪ Cecilia Todd / Acidito
※セシリア・トッド『愛する歌国ベネズエラ』に収録。

 ライブ・ヴァージョンなんですね。

 そうなんです。ちょっと変わったリズム感の、これメレンゲといいまして、実は5拍子なんですね。

 カラカス特有のものなんですか?

 いや、ベネズエラのほぼ全土にあります。これは、ララ州のものですから、どっちかっていうとメレンゲの本当に盛んなところっていう訳ではないんですけど、ベネズエラのちょっとアフロっぽい音楽をベースにして、都会的に洗練された音楽のひとつの発現形態として、この5拍子。ハチロク(8分の6拍子)から1つ引いた、ハチロク・マイナス1みたいな拍子ですけど。この曲が、都会人ぽい失恋の歌でもあるけど、農業が盛んな地域、農村経済とともに生きているシンガーソングライターが作ったっていうところはやっぱり、受粉前の檸檬の花が隠している果実の酸っぱさっていうのが……。花は蜜があって甘いんですよね、檸檬は。で、果実は酸っぱくなるっていうのは、そんなことは……

 体験者じゃなきゃ……

 体験者じゃなきゃ、思いつかないね。

 ベランダで育ててらっしゃる方じゃないと分かんないですね。

 うん、まあ、ベランダっていうか、農園なんだろうと思いますが(笑)。まあ、そういったことを、改めて気づかされるのがセシリア・トッドの歌かなあと。私、この詩はもちろん前から知ってたんですけど、セシリア・トッドの歌を聴いて、ハッとそういう……

 受粉について。

 そう、受粉の意味っていうか、その矛盾ていうか、そこに作者はキラー・フレーズを実は込めていたんだなあっていうのを、セシリアの歌で改めて気づかされました。じゃあ、次ぎにいっちゃいましょうか。

 はい。

 で、次はですね、さっきちょっとフライングして言っちゃったんですけど、ヘンリー・マルティネスですね。この方は、ベネズエラの伝統音楽に取材して、ものすごくよく勉強してるんですけど、それを消化して、素晴らしい現代のコンポーザーですね、作詞・作曲家。本人も歌は歌うんですが、あんまり前に出て歌うのは好きじゃないみたいです。

 まだご存命なんですか?

 はい、お元気です。60代、セシリアと同じ世代です。これは、映像をお見せします。
曲は、「ロス・グリフィニャフィトス」という曲なんですけど、ちょっと前説しますね。(歌詞は8頁に出てるんですけど、これ見なくていいです! わざわざ載せて、訳してあるんですけど(笑)。なぜかっていうと、)これ早口言葉でして、この曲も今の前の曲と同じララ州の伝統音楽で、伝統的なホローポなんですけど、早口言葉をハモりでみんなで歌うっていうのがスタイルなんですね。

 トラバレングア(trabalengua)っていうんですかね。

 そう、トラバレングア。そのスタイルに則ってヘンリー・マルティネスさんが書いたんですけど、彼は現代の作曲家なので、全部の歌詞を早口にした。だからはっきり言って、歌詞に意味ない。そもそも「ロス・グリフィニャフィトス」が早口言葉を言わせるために作った創作語で。

 はぁ!?(笑)

 グリフィニャ、グリフィニャーファ、には意味はない! そういうことなので、そういうものとして聴いて下さい!

 この映像はあれですね? この間教えて頂いたアルゼンチンの、セシリア・トッドの録音を行ったイオン・スタジオ。

 そうそう。デビュー・アルバムを録音したエストゥディオ・クアトロ、イオン・スタジオって言われてるとこなんですけど。このマテリアルは今、YouTubeでストリーミングしているので、みなさん見ることができるんですが、セシリア・トッドの番組も素晴らしいですけど、色々なアーティストのインタビューとライブを連作で出しているので、ぜひ見てみてください。


♪♪♪ Cecilia Todd / Los Grifiñafitos
※セシリア・トッド『愛する歌国ベネズエラ』に収録。

 この、笑顔が素敵ですね〜。かく年を取りたいもんである、という……。

 本当に、変わらずチャーミングですよね。年を隠してる感じは全くないんですけど、もう天性のチャーミングさっていうか。因みに今の映像で伴奏していたインストゥルメンタル奏者、器楽奏者たちは、カラカス・シンクロニカ、4年前に来日したベネズエラのグループです。で、バッキング・コーラスの女性二人も、ソロ・アルバムを出しているような立派な歌い手たちです。セシリア姐さんのためであれば、こういう人たちが、単なるツアーの伴奏として演っちゃうんですよ。

 なるほど、そういうポジションの大物ってことですね。

 そういうことですね〜。その、間違いなく大物なんですけれども、立ち居振る舞いが全然大物っぽくない。

 普段着っぽい感じでね、優しく接してる感じ。

 そこが魅力だと思います。

 トラバレングア=早口言葉で、パラ・バイラール=踊る、って歌ってたんですけど、踊りもやるんですか? 早口言葉で、口の運動と足の運動と両方やるのかな?

 まぁ、これホローポなんで、基本的にダンス音楽ですから、歌いながら踊るわけじゃないですけど、踊りたければ、踊る。で、来日するメンバーは今の人たちじゃないんですけど、上手さは同等で、映像のメンバーよりも良い編成。というのは、基本自分のバッキングのメンバーを変えないんですよ。ずーっと同じメンバーでやってる。これ(映像)、アルゼンチン・ツアーの都合があって、カラカス・シンクロニカの連中がついてきましたけど、自分のバンドで今回来るので。

 それは素敵ですね。前回、2003年でしたっけ? 2003年のベネズエラ週間? そこで来日して、3公演を赤坂で行ったんですけど、ちょっとね、伴奏がね……。

 そう、名手、その後スターになったウアスカル・バラーダスさんっていう方が率いるバンドだったんですけど、普段セシリア・トッドと全く演奏していない人たちのバンドで。

 アーンド、ちょっとステージ・マナーがいまいちなバックバンドだったので……

 そうそう。

 でも、とにかく姐さんの演奏は素敵でしたね。

 今の演奏でいいなぁと思った方は、来日メンバーだとこのぐらいのうまさの連中が10年間ずーっとセシリアの伴奏をしていて、日本に来るので……。

 タイミング的にも素晴らしいと思います。

 SUKIYAKIのプロデューサーのニコラさんと私は、カラカスで見てきましたけど、本当に素晴らしい。セシリアも素晴らしかったけど、あのバンドすごいね〜、ってずうっと言ってたくらい。今のベネズエラ伝統音楽の、現代的な展開を実現している最高峰のバンドが来ると思って間違いないと思います。ぜひ、お楽しみに。

 お聴き逃しなく。で、ここで、セシリア・トッドの世界、というパートはお終いということで……次に、入るのは?

 まだセシリア・トッドのパートなんですけど、2部のグアコのパートを3倍楽しんでいただくためには、「グアコはどういう伝統音楽を踏まえているのか」っていうことを皆さんにご理解頂かなければいけないので、セシリア・トッドの歌で、グアコが下敷きにしている伝統音楽ガイタってどういうものなのかっていうのを、聴いて頂こうという、そういう趣向です。
ちょっとセシリア姐さんには申し訳ないんですけど、あの〜、グアコの引き立て役としてっていうか、ちょっとゴージャスなデモ演奏みたいな感じになりますけれども。

え〜っと、まず最初にですね、グアコって、後でお話ししますけど、ガイタっていう音楽をベースにしているんですね。で、ガイタには何種類かあるわけですが、基本は、ガイタ・スリアーナと言いまして、8分の6拍子と4分の3拍子が同時進行する、ベネズエラでよくあるタイプのポリリズムで演奏されます。そのガイタ・スリアーナの最も保守的な、50年間全くサウンドを変えていないというコンフント・ガイテーロ・バリオ・オブレーロというバンドの伴奏で、1980年にセシリア・トッドが録音した曲「アマネセール・スリアーノ(スリアの夜明け)」という曲を聴いてみてください。


♪♪♪ Cecilia Todd con Barrio Obrero / Amanecer Zuliano

 この、ガイタ・スリアーナの基本編成はですね、さっきセシリアが弾いていた4弦ギター、クアトロ。それからパーカッションがこの♪ズコッコッコ、ズコッコッコ〜、この太鼓は、バチ2本で叩く太鼓でタンボーラといいます。それからこの♪グゥーッグ、グゥーッグ〜っていうのは、摩擦ドラム、フーロっていいます。どでかい摩擦ドラム。

 ブラジルのサンバのクィーカを立てて……

 そう、クィーカは内側を擦るんですけど、フーロは外側を擦ります。それから、鐘がキンキラキンキラ鳴ってるのは、チャラスカっていう水道管に刻みをつけたような感じの。あとは、あんまり聴き取りにくいんですけどマラカスが入ってます。これだけです。
それで、ソロ→コーラス→ソロ→コーラスと歌っていく。で、グアコって、元々、今聴いたこのバリオ・オブレーロの演奏と寸分違わず、伝統的なガイタ・スリアーナだけをやっているアマチュア学生楽団だったんですね。で、この時代の音源を……この時代っていうか、グアコがこういう音楽だけをやっていた時代の音源を私は持っていないんですけど。このバリオ・オブレーロの人たちが言ってましたけど、「デビューしたときは、俺たちは同じ音楽をやっていたんだけどな」と(笑)。「俺たち50年間全くサウンドを変えず、グアコはどこに行っちゃったんだ?」みたいなことをバリオ・オブレーロの人たちは言ってましたけど(笑)

―― 会場笑 ――

 バリオ・オブレーロは1954年創立で、グアコは58年です。レコード・デビューは同じ68年なので、同期ともいえるんですよね。で、その後50年の間に随分本当に変わっちゃったんですが。なので、このバリオ・オブレーロの音を聴いていれば、グアコの出だしがどんな音だったのかをほぼ忠実に追体験したといっても構いません。で、グアコが、20世紀の終わり頃に、このガイタ・スリアーナをやるとどうなるかを、ちょこっと聴いて頂きます。ゲスト・ソロ歌手は、色々当時のアーティストが出てくるんですが、その中の一人として、セシリア姐さんも出てくるので、そんなご縁もあってちょっと聴いてみましょう。1989年のグアコのガイタ・スリアーナ。


♪♪♪ Guaco / La Placita

―― 会場拍手 ――

 というわけで、20世紀末グアコのガイタ・スリアーナ。後でお話ししますけど、1990年代の初めには、グアコはガイタ・スリアーナの演奏をやめてしまいます。と、まあ、今のガイタ・スリアーナが、グアコの根源にあるルーツだった訳なんですけど、そうすると、このハチロクだと、全然サルサとフュージョン出来なくなる訳ですよね、拍子が違うから。で、2拍子でサルサとフュージョンしてるのは何なのか?というお話をしなくてはいけなくて、それはですね、もう一系統、2拍子系のポリリズムのガイタってあるんですね。それは、根本のルーツにいくと、こういうアフリカ系の音楽になります。じゃあ、ちょっと映像でご覧下さい。


♪♪♪ San Benito de Bobures(YouTube映像)

 サン・ベニート、っていうマラカイボのお祭りなんですけど、すごいポリリズムの太鼓。これ、黒い聖人サン・ベニートが祝われるお祭りで、このあと太鼓が出てきます。今、教会の中に入ろうとしてる……。よく聴くと、鐘の音が……、教会堂の鐘をこのポリリズムに乗せて叩いています。はい、今の、サン・ベニートの太鼓で、この太鼓のことを、チンバンゲレとか、チンバングレスとかいう風にいいます。で、これはもう完全に宗教音楽なんですけれども、これをですね、世俗音楽として歌うようにした形式を、ガイタ・デ・タンボーラっていうんですけれども、こんな感じのものです。


♪♪♪ Gaita de Tambora

I 非常に複雑なチンバングレの太鼓を、少しシンプルにして、歌を組み合わせたものです。で、このガイタ・デ・タンボーラを、現代の作曲家ヘンリー・マルティネスがセシリア・トッドのために書いた曲を聴いて、これをポピュラー音楽としてベネズエラ人が演奏する際の、まあ、今時の感じを体験してみて下さい。


♪♪♪ Cecilia Todd / De Mi Zulia

 あの、グアケーロの皆さんも、これは耳に馴染んだリズムかなという風に思ったと思います。グアコのあれほど複雑に作り込んだベネズエラ流サルサっていうものが、個人とか一楽団の創作ではなくて、こういう伝統音楽をベースにしてるってことが、ベネズエラ人がこの手の音楽を別の感覚でやったこの図を見ると、お分かりになって頂けたんじゃないかな、と思います。

 ここらへんでちょっと休憩を取りまして、お酒なんかたっぷり飲んで頂いて、2部のグアコの世界に……。歴史的に追って、ご紹介する感じですよね?

 予習終了ということで。

 はい。今までが予習ということでございますね。

 セシリア姐さんに感謝しつつ。

 という訳で、はい、ちょっと休憩タイムしま〜す。

(続く)
posted by eLPop at 19:22 | Calle eLPop