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アントニオ・サンチェス・インタビュー<後篇>

2015.04.25

さて、後篇は、記者会見のあと私が行ったインタビューの模様をご紹介します。ここでは主に彼自身のことについて訊いています。

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――メキシコ育ちとのことですが、ジャズとの出会いは?

アントニオ・サンチェス(以下AS) メキシコで最初にやったのはロックだ。ロック・バンドをいくつかやって、そのあとフュージョン。そしてラテン・ジャズ。でも、1993年にボストンに行ってバークリー音大に入るまでは、そんなにジャズに入り込んでたわけじゃない。そこへ行って、トニー・ウィリアムズ、マックス・ローチ、ロイ・ヘインズ、マイルス・デイヴィス…と、とても重要な人々を知ったんだ。

――ピアノもやっていたんですね?

AS メキシコでね。88〜93年まで音楽学校に通っていた。クラシック・ピアノだ。ピアノをやったことで、ドラムを演奏するとき、別の聴き方をするために、とても役立っていると思う。すべてのドラマーはピアノの演奏を学ぶべきだと思う。

――ドラムを始めたきっかけは?

AS 僕のおじさんのガールフレンドの兄弟がドラマーだったんだ。ある日、彼の家へ行ったら、美しいドラム・セットが居間に置いてあって、すっかり夢中になってしまった。5歳のときだ。僕が興味を持ったので、彼は少しずつレッスンしてくれるようになった。ビートルズとかローリング・ストーンズとか、お気に入りのレコードを持って行くと、レコードに合わせて叩き方を教えてくれた。それが始まりだ。だんだんテクニックを教えてくれるようになって、だんだん上手くなっていった…というわけ。

――どんな音楽を聞いていたんですか? ビートルズやストーンズ?

AS それは母が聞いていたんだ。母のハートはロッカーだったからね。ウッドストック世代だから、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、クリーム、ザフー、ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス、サンタナ…。そういった60〜70年代の偉大なバンドを聞いていた。あと、レッド・ツェッペリン。だから僕もそういう音楽を聞きながら育った。

――ラテン音楽はどうです?

AS ラテン音楽はあとからだ。母がロックを聞いていたからロックに興味を持っていて。
でも、だんだんアフロ・キューバンに興味をもつようになった。というのも、ドラム・セットでそれを演奏するのはとても楽しいし、挑戦でもあるから。メキシコにはラテンのグループもたくさんあるんだけど、本当に勉強し始めたのはボストンへ行ってからだ。いい先生もたくさんにいるし、そのおかげで僕もどんどん上達したと思う。

――いまジャズ界には、とてもラティーノが多いですよね。

AS ジャズを演奏するようになってみると、ラテン音楽には別の感覚があると思うよ。
たくさんのラティーノが自分の国から米国にやってくるが、彼らは国を離れてもラテン音楽を演奏し続けている。だが僕のゴールはそれとは違った。僕のゴールは、国境のない音楽を演奏することだった。自由に…僕がジャズがいちばん好きな理由の一つはそこだ。そこには完全な自由がある。
米国に来て、メキシコでやってたのと同じ音楽をやるつもりはなかった。僕は、同じように音楽をやりたい米国人、ヨーロッパ人、中南米人たちと、ルールのない音楽をやりたかったんだ。ラテン音楽にはたくさんルールがあるだろう? 僕は完全な自由を感じられる場所で音楽をやりたかった。作曲する時も演奏するときにも。

――今回の映画ですが、あなたも監督もメキシコ人ですから、共感するところがありますよね?

AS もちろんだ。すぐにわかり合える。日本人同士だってそうだよね? 僕が何か言えば、メキシコ人ならすぐに何を言おうとしてるかがわかる。映画を作る時にも、それがとても役に立った。というのも、彼が実にメキシコ流に物事を説明してくれたから。僕はそれで完璧に理解した。別の言葉から翻訳してもらうのとは違う。だからその分、友情も深まった。僕らは共通のものを持っていたから。
この映画で好きなところは、僕が目指しているのと同じで、ルールがない、というところなんだ。アレハンドロが好きなようにやっている。今回はダーク・コメディ。そしてサントラはドラム・ソロだけだ。彼はクレイジーだよ。でも、何をやるにしても、とてもクリエイティヴで才能豊かな男だ。少なくとも、とても面白い。

――彼の作品では「バベル」が一番好き、と言っていましたね?

AS すべてが素晴らしいと思う。演技はもちろんストーリーも。そして特に日本のパートがね。聴覚障碍のある女の子が出てくるのがとてもショッキングだったし、彼女がナイト・クラブへ行くんだけど、耳が聞こえないからヴァイブレーションを感じて…。そういうのがとてもエモーショナルですごくユニークだった。

――ところで、ライヴ・アルバム『ライヴ・イン・ニューヨーク・アット・ジャズ・スタンダード』ですが、私、これは21世紀の『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』(エルヴィン・ジョーンズの名盤)だな、と思ったんですが。

AS (笑)そうだね。2サックスにベースとドラムスだから確かに似ている。このクァルテットは特別だったから録音しなきゃ、と思った。これはスペシャルなものになるぞ、と。

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(4月13日 丸の内「コットンクラブ」にて)
posted by eLPop at 19:39 | 岡本郁生のラテン横丁