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ペルーで活躍する日系人音楽家たちの肖像(4) 歌手セサル・イチカワとロス・ドルトンスの栄光

2014.07.08

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 少し間が開いてしまったが、ペルーで活躍している日系人音楽家たちを紹介するこのコーナー、今回は日本ではまったく知られていないペルーのロックの草創期に活躍し、中産階級にロックを広め、今なおムシカ・ロマンティカの大御所として人気の歌手セサル・イチカワと彼が活躍したバンド、ロス・ドルトンスを紹介したい。

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 セサル・イチカワは1946年にリマに生まれた。山梨県からペルーへと入植した移民の二世であった。その後父の仕事の都合でしばらく中部アンデス地方のワンカーヨに移り住んだりしながら成長し、リマの名門サン・マルコス大学の経済学部に入学。この大学で、後に彼をドルトンスへと誘うこととなったベーシストのハビエル・ラモンと知り合った。

 セサルが歌手として有名になったのは、60年代後半から70年代のペルーで大きな人気を博したグループ、ロス・ドルトンスのボーカルとして成功したためだ。
 このバンドは、1965年にリマで結成されたバンドで、その名前もベンチャーズのレコードを出していたドルトン・レーベルから取られている。当時英語が主流だったロックから、それをスペイン語に訳して歌ったスペイン語ロックへの架け橋的バンドとして、中産階級の若者たちに大きな影響を与えたバンドであった。
 そのロス・ドルトンスでは、結成翌年には、グループの名付け親でもあったボーカルのヘラルド・マヌエル・ロハスがドルトンスでの活動を退くにあたり、ヘラルドとベースのハビエルのすすめで新たなボーカルとしてセサル・イチカワが入ることとなった。その後、セサルをバンドの顔としてヒット曲を次々発表し、多くのファンを獲得していくこととなっていくのである。


 話はずれるが、なぜかこのセサル・イチカワ、名字の最初のイはなぜかYで書かれることが多い。ウィキペディアなどでもCésar Ychikawaと書かれているところを見ると、戸籍にもそう登録されていたのかもしれない(注:項目によってはIchikawaとなっているところもある)。日本人移民の名前は、戸籍登録の際間違えて登録されたりいい加減な筆記で登録されることもあり、日本語の名前としてはありえない名前に期せずして改変されてしまっていることも多々あるのだ。まあ、あくまで推測の話ではあるが。

 さて、ずれた話を元に戻そう。ドルトンスの代表曲は「エル・ウルティモ・ベソ」、「オンブレ・ソリタリオ」などその多くはアメリカのヒット曲のスペイン語カバーであった。当時のペルーのロックの状況は日本の和製ロック成立期などをイメージしていただけるとかなり近いのではないだろうか。また面白いことに、セサル・イチカワが日系人であったことから、石原裕次郎の代表曲もスペイン語で「ウナ・エストレージャ・エン・ラ・ノーチェ(夜空の星)」として日本語を交えながら歌われている。


 と、これだけ読むと彼の人気の大きさはあまりピンとこないが、リマなどの年配の方にはセサル・イチカワが大好き、という人も今なお多い。まさに、彼の歌声が青春を思い起こさせる、そういう世代が確かにペルーにはあるのである。
 そういえば、前に日系人歌手をテーマにお話させていただいた時、聴きにいらしていたお客様の中に何人ものペルー人の方がおられたのだが、ドルトンスを流した時に涙しておられた方が数名おられたのが非常に印象的だった。


 このバンドに関してはさらに驚くべきことがある。ドルトンスは65年に結成後、なんと今なお代替わりしながらつづいているのだが、2009年に新たにトップ・ボーカルとして迎えられた歌手も日系人であった。
 新しいトップ・ボーカルとなったキケ・ゴヤ・ヒガは、70年代から80年代をクンビア歌手としてペルー国内でドサ回りで過ごし、ある時招かれて日本で在日ペルー人の前で歌ったときに、日本のペルー人観衆の熱さに「自分が歌うべき場所はここだった!」と思い、日本で歌手活動を行うために90年に移住した。以来、工場で働きながら細々と歌い続けてきた。それが2009年に突然ドルトンスから声をかけられたということらしい。非常に興味深いことこの上ない。


 リーダーのフェルナンド・ボラルテ・セラテ(ドラムス)以外のメンバーは変わってしまったが、ロス・ドルトンスは今なお往年の名曲を歌い続け、青春時代を呼び起こす音楽を歌い続けている、そんな日系人によって紡がれたペルーのロマンティック歌謡の世界もあった、ということをしっかりと書き留めておきたいと思う次第である。
posted by eLPop at 03:02 | 水口良樹のペルー四方山がたり